「スチーム・ガール(エリザベス・ベア著)」(ネタバレ控えめ)
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「スチーム・ガール(エリザベス・ベア著)」(ネタバレ控えめ)

2017-11-19 19:00


    ・本来のとはちょっと違う方向に文明がレトロっぽく発達した世界観で描かれる作品群、スチームパンク。
     蒸気を中心に作られた近代文明で、電気がさほど発達していないことが多い。
     飛行機よりも飛行船が主力として使われていることも。

     そんなカテゴリーの新作で、タイトルもストレートに「スチーム・ガール」。

     西部開拓時代のアメリカ。ポートランドをモデルにしたという街に、娼館がある。
    語り手兼ヒロインはこの娼館で働く天涯孤独の「縫い子」。だが彼女の仕事は星を数えること。でも実際には間に天井があるので、天井を見ていること。やがて客は彼女の上からどき、天井を見つめる仕事は終わる。
     つまり、呼び名はともかく、彼女はそういう仕事。でもこの館のマダムは自分もそういう
    境遇からのし上がった人で、決して彼女たちから搾取するだけの人間ではない。
     稼ぎの3割はマダム、3割は食事やベッド、4割は彼女のものになる。
    館には専属のコックもバーテンダーもマッドサイエンティストも用心棒もいる。
     「はやくお金をためて、独立しなさい」みたいな口癖。決して悪人ではない。警官や市長も内緒だが上客で、いろいろ政治力もある。

     だが、ほとんどの娼館はそんなじゃない。縫い子は奴隷同然。暴力を受け、自由もない。
    マダムは時に厳しいけど、縫い子を人間として扱っているし縫い子の組合もある。
     客であろうと誰であろうと館内で暴力をふるわせないし、衣服も食事もきちんとしたものをくれる。彼女はここで本物の縫い子よりもずっと多くの給金を得て、将来に備えている。牧場をやりたいという夢がある。父親は馬を扱う仕事で、彼女を守るために馬の事故で死んだ。でも彼女は馬を今も好きだし、最近は乗ってないけど扱いも上手かった。

     そんなある日、二人の少女が館にやってくる。インド系の子と、中国系の子。
     インドの子は逃亡者。縫い子を奴隷扱いする、最も悪名高い娼館からの。中国の子は救出者。もとは同じ境遇だが、今はそこを抜け出して、街のアウトローとして自主的にかわいそうな子を助けて回ってる。だけど今回は怪我をしている。どういう経緯でかわからないけど、インドの子を助けて撃たれたらしい。

     そこの経営者が取り返しに追ってきたけど、こちらの用心棒や心は女性だけど男性の縫い子、そしてマダムが不法侵入として追い返す。
     身体が治るまではかくまってやれる。だが館の外に出たら、マダムの力は及ばない。
     そして、この語り手は、女の子が好きなタイプの女の子で、インドの子は彼女の理想の子だった。でも告白したら、女が女を好きなんて、と距離をおかれてしまうかもしれない。なのでそれは言えない。

     相手の経営者は街でも評判のワルで、語り手が買い物に出るとさっそく彼女をさらおうと、手下を送り込んでくる。そこを黒人の副保安官が助けてくれる。この人はもと奴隷で、文字も読めないが心正しい人で、アシスタントのインディアンと共にヒロインの強力な味方になってくれる。
     奴隷が既に解放されている、リンカーンより後の時代ということになる。リンカーンの名前も出て来る。
     アラスカのゴールドラッシュがあったり、ロシアがアラスカを取り返そうと暗躍していたり、といった時代背景。

     この街には警察組織はあるのだが、この副保安官は遠くから連続殺人犯を追って来たらしい。その殺人犯は娼婦をめちゃめちゃに鞭打って殺し、死体を捨てていくという。やがて街でそのような被害者が続けて出るようになる。

     悪の経営者は人の心を操る機械を持っているという噂もある。それで娼婦や気に食わない相手にいうことを聞かせ、また電気手袋を持っていて、それで女をいたぶるともいう。今度は市長に立候補するらしい。それも対抗馬を機械で操り、出馬を辞退させて。そいつが市長になればマダムの館は絶対潰される。
     インドの子の妹が今もその娼館におり、身体が動くようになった中国の子とインドの子はこの子の奪還を考える。語り手は、男性だけど心は女性の娼婦や館の用心棒に協力してもらい、マダムには内緒でこれに力を貸す。
     妹の救出には無事成功するが、完全に悪の経営者と対立することになり、心を操られた客が乗り込んで来てマダムの館に放火しようとしたり、館自体が執拗な攻撃を受ける事になる。
     副保安官が追っている殺人犯も悪の娼館にいるらしいこともわかる。自分を守るためにも、愛する彼女を守るためにも、ヒロインは戦わないといけない。

     この時代、パトレイバーに出てくるレイバーみたいな機械が世間に普及している。人間が中に入り、蒸気で動かして建設や料理などをこなす。そして彼女も、ミシンとして使われている鉄の甲冑を操れる。
     最終的には飛行船や蛸のような触手を持った潜水艦なども現われて、彼女は強力な敵と、ミシンである甲冑機械をまとって戦うことになる。
     
     悲しい犠牲者も出るが、基本的にはハッピーエンド。でも残り数ページになってもなかなか先が見えない。

     ジブリでアニメにしたら楽しそうだ。でもヒロインがもろに百合だったり、舞台が娼館だったりするから子供向きには作れないな。見せ場である甲冑を着て戦う場面もあまりたくさんではない。

    本にある登場人物一覧は以下の通り。モンシェリというのはヒロインが働く娼館の名前。

     でもネタバレ防止のためか、重要な人物が何人か略されている。バス・リーヴズ副保安官は、歴史上実在の人物でローンレンジャーのモデルの人らしい。
     他にもヒロインの館のマダムや、娼婦を助けて回る中国人女性にはモデルではないけど
    マザー・ダムナブルやタイ・レオン・シュルツというヒントとなった歴史上の実在女性がいるとのこと。
     
     カラミティ・ジェーンなどがヒロインが読む本の中で紹介されていたりする。

     著者も訳者もヒロインもヒロインの相手役も女性の、女性率の高い作品でした。

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