「君の彼方、見えない星(ケイティ・カーン著)」(ネタバレほとんどなし)
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「君の彼方、見えない星(ケイティ・カーン著)」(ネタバレほとんどなし)

2017-11-23 19:00



    ・乗っていたシャトルが小天体に直撃され、修理しようとした男女2名が宇宙空間に放り出される。女性はパイロット、男性はコック。ともにEVSAと呼ばれるヨーロッパのNASAみたいな組織に所属していて、二人は恋人同士。
     酸素パックが十分に充填されておらず、おまけに酸素漏れもある。穴はすぐに塞いだものの、残り時間は2人とも90分。
     シャトルのAIとは通信できるが、地球や他の船との連絡はできない。

     二人は残された時間を使って、考えられる限りの努力をする。
     宇宙服の中の酸素あるいは二酸化炭素を推進剤に使ってシャトルに近づけないか?
     宇宙服に備えられた水が2パックある。これを何かにできないか?
     酸素に手を加えて酸化剤にできないか?そうすれば大きな推進力を得られないか?
     シャトルを呼び戻せないか?シャトルから分離したドローンを使えないか?
     AIは聞かれたことにしか答えないが、上手く質問すれば解決作に行き当たらないか?

     だが彼らの努力は実を結ばず、時間は刻一刻と過ぎ去ってゆく。シャトルとの距離は
    離れ、シャトルを経由して行っている二人の会話もやがてできなくなる。

     その時間、二人は出会ってからこれまでのことを思い出し、話し合う。
     あの時はごめん、あの時はありがとう、あの時は・・・

     この時代、世界に戦争は無くなっている。その代わり、世界に愛も無くなっている。
    少なくとも、現代人が想像するような愛は。
     人々は戦争にならないよう、徹底的に国家意識というものを持たないように、個人を
    最優先するように育てられる。自分の国籍とか、民族とか、伝統とかを意識してはいけない。
    宗教も信仰してはならない。それらは戦争の元だから。愛国心も郷土愛も。
     だから、徹底して子供の頃から「ローテーション」して育てられる。
    物心がついたら3年に一度、住み暮らす地域を変えねばならない。その度に、その地域の言語を学ばねばならない(駄目な人には翻訳チップもある)。
     年頃になって、ベッドを共にする相手が出来ても、3年経ったら別れて別々の場所に行かねばならない。遊び相手を持ってもいいが、恋人を持ったり、結婚を考えてはいけない。

     何よりも個人の自由が大事。だから若いうちに家庭を持ってはならない。
    若いうちは「自由」に過ごさなければならない。
     35歳を過ぎたら、家庭を持つ事を考えてもよい。「婚姻規則」に従って。出産も35を
    過ぎてから、高齢出産でなければならない。それまでは、妊娠抑制剤を飲まねばならない。

     そういう世界になって三世代。あの世界戦争のようなことを、二度と起こしてはならない。

     既にアメリカと中東は無い。互いに核兵器で破壊し尽くしてしまった。
     残った世界は、ヨーロッパ(ロシアを含む)、中国、アフリカの3つのブロックに分かれている。だがローテーションが行われているのはヨーロッパだけ。中国やアフリカの様子はあまり描かれていないけど、もっと息苦しい、自由の無い社会らしい。日本は全く出てこない。
     だから自由を守っているのはヨーロッパだけ。このローテーションという仕組みを守り続けなければならない。

     さらに、未知の小惑星群がやってきて、地球の周囲を覆ってしまった。人類はもう、月にも行けない。だが宇宙機関はまだあって、なんとか小惑星を縫って外宇宙に行ける航路を確立できないか、と努力を続けている。

     と、おわかりのように、これはディストピア小説でもあり、そんな世界の中で若い恋人同士であろうとした男女の恋愛小説でもある。

     二人はこういう社会の中で、あと10年を待つことが出来ず、恋人同士であり続けようとし、それがばれれば社会から糾弾されるので隠そうとし、相手を思うなら別れた方がいいのでは、と悩んだり、突発的な出来事でさらに深く結ばれたりする。
     こんな社会の中で、証として二人で同じ姓を名乗ろうとしたりする。

     どうして二人乗りのシャトルで事故を起こす事になったのか、ということもやがてわかる。

     二人は助かるのか、という緊迫したパートと、二人が回顧する社会は正しいのだろうか、
    間違っているならいつか終わるのだろうか、みたいなことを考えさせるパートが交互に描かれてゆく。

     人生は選択の連続で、選択の結果として失われたものを悔やんでもどうしようもない、それでも生きていくなら残ったもので生きてゆくしかない、みたいなことも。
     人生の残り時間が見えてしまったら、その残り時間をどう使えばいいのかとも。

     最近の映画「ゼロ・グラビティ」が類似例としてあとがきで紹介されているけど、
    「冷たい方程式」を思い浮かべる人も多いのではと思う。

     三章構成で、しめくくりの第三章は人によっては受け入れられないかもとか思ったりする。映画になるそうだけど、一般受けする作品にするにはこのラストではだめだろうなという気もする。

     酸素O2の他にO3(オゾン)があるのは知ってたけど、四酸素とか八酸素とか、赤酸素とか黒酸素とかはこの作品ではじめて知った。



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