「雨(サマセット・モーム著)」
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「雨(サマセット・モーム著)」

2017-12-13 19:00


    ・名前だけ知っているけど中身は知らないのだけどなんとなく知っている気になっているもの、というのがたくさんあるので機会があれば読んでみたりする。
     サマセット・モームと言えば「月と六ペンス」と反射的に出て来るが、どんな話なのか、モームがどういう作家なのか、ということは全然知らない。じゃあ読んでみるかと思ったけど、先に「雨」という短編集の方が手に入ったのでそちらを読むことになった次第。

    ・雨
     南洋の島を訪れた船には一等船室があるが、ここに2組の夫婦が乗っている。夫の職業は一方は宣教師、もう一方は医師である。執筆年代(本になったのが1921年)から考えて、飛行機での世界旅行など夢のまた夢、汽船で世界旅行がされていた時代と思われる。
     パゴパゴとかタヒチとか地名が出て来るので、まあそのあたりらしい。
     宣教師は使命感に燃えていて、無知で堕落した現地人たちを教育して彼らの原始的信仰を捨てさせ、教化つまりキリスト教に改宗させることに人生を捧げている。医師の方はさほど熱心な信仰を持っていない印象だが、奥さん同士が馬が合うらしい。
     どちらの夫婦も自分たちは高尚な人間だ、という思いが強いらしく、他の一等船室の客とは話が合わないみたいで、互いを船の中で自分たちと唯一話ができる存在、と認めている感じ。
    だが疫病の発生か何かで、何もない島に彼らは二週間も滞在しなければならないことになってしまう。ホテルもないので、島の有力者の家に泊めてもらうことになる。この島は宣教師の受け持ち地区というわけではないみたいだが、ある程度の教化は進んでいる感じ。
     だが他の客も同じ家に泊まることになって、ある二等客室の派手な女を宣教師は敵視する。
    どうもこの女性は、ホノルルのいかがわしいところで働いており、そのいかがわしいところは宣教師の圧力で潰されたりといろいろあったらしい。つまり女性は娼婦なんだろう。
     女性は自分の部屋に船員たちを招きいれて、蓄音機なども鳴らして騒ぐ。その度に宣教師は抗議をし、静かにさせ、総督を説得してこの女だけ強制的に別ルートの船で退去させるよう圧力をかける。女はさすがに困ったらしく、医師に総督にとりなしてくれるよう依頼してきたりするが、退去の方針は揺るがない。
     この島は雨季で、雨が降り続けている。医師の心もなんだか陰鬱になってくる。
     しおらしくなってきた女を教化する、と宣教師は女性の部屋に入っては長時間説経するようになる。女性は次第に素直になる。
     そんなある日、宣教師の死体が水際で発見される。剃刀で喉を切ったらしい。
     すると女性の態度はガラッと変わり、前にもましてふてぶてしくなる。男なんてみんな一皮向けば同じさ、と汚い言葉で医師を罵る。

     手元で確認しないで記憶だけで書いているのでいろいろ違いがあるかもしれないけどだいたいこんな感じ。読書界に衝撃を与えた世界短編史上の傑作みたいに言われているらしいけど、今読むと特にそういうことは感じない。

     つまり理性のカタマリみたいな宣教師も、本能に負けてムラムラっときて女性にふしだらなことをしてしまい、我に返って自らを恥じて自殺した、ということでいいんだと思うんだけど(女性が宣教師を殺したわけではないと思う)今はそんなことで衝撃は何も感じない。
     昔の映画とかで、恋人と離れ離れになって再会した時には娼婦か何かになっていた女性が恥じて自殺する、みたいなのがあったような気もするけど、そういうのは少なくとも今の日本人には何で?と思われちゃうだろうな。毎日のようにそんなふしだら系のニュースばっかりだし。糾弾されても自殺する人なんて皆無に近い。
     でも当時はこの作品が衝撃的に思われるような社会規範があったんだろう。その時代の人が今の世界を見たら、とんでもないと思うかもしれない。それともうらやましいと思うだろうか。

    ・赤毛
     珊瑚礁に囲まれた南洋の島を、帆船で訪れた船長がいる。かなりでっぷり太った人物らしい。彼は島に上陸して、ここに住んでいる唯一の白人らしい人物と知り合う。スウェーデンかどこかの人だったと思う。
     二人は、大昔この地にいた「赤毛」という人物について話をする。
     漂流してきたらしい彼は、言葉が通じなかったが若くハンサムで、島の美しい娘とほどなく知り合い、恋に落ちる。親も許したらしく、小屋を建てて一緒に暮らし始める。
     だが幸せは長く続かず、立ち寄った捕鯨船かなにかに赤毛の男は騙され、酔いつぶれたところを労働力として連れ去られてしまう。娘は悲観の底に沈む。身ごもっていたのだが、死産に終わる。
     島の白人は、その直後にこの娘と会った事があるという。本当に美しい娘だったという。
    二人はその赤毛はどうなったんだろう、みたいなことを話す。結局彼はそれきり戻って来なかったらしい。
     話は終わり、船の男は去る。去り際に島の白人の妻がちょっと顔を出す。ごく普通の太った現地の女性である。

     おわかりの通り、この太った船長がかつての赤毛。島の白人の妻が、かつての若い娘である。島の白人は赤毛の男が去った後の島に来て、この娘を好きになり、懸命にくどいて一緒に暮らせるようにはなるのだが、妻の心には常に赤毛がいるのにも気付いている。いつか赤毛が戻ってくれば、自分を置いて妻は行ってしまうだろうとも思っている。
     長年連れ添っても、結局心の通じ合わない夫婦だった。そして何十年後かについに赤毛は戻ってきたが、互いに気付かずに行き違っていくのだった・・・

     かつては美しい娘だった今は年老い太った女を見て、俺は何でこんな女に夢中になったんだろう、と男は思う。ライバルがいると思っている間は俺のものだ、と思っているけど、ライバルもはや何の関心も持っていないと知ると自分もこれまで何で大事だと思ってたんだろうみたいな話。

     これはちょっと面白かった。

    ・ホノルル
     これも舞台は南国でホノルル。そこに出かけた男が、ある帆船の船長と知り合って、彼のキャビンにいついている現地の娘についての話を聞かされる、みたいな話。
     船長は自分の魅力で彼女をつなぎとめている、みたいに思っているが、実は船のコックに寝取られているみたいな。現地の呪術というかまじないみたいなエピソードが少しからむ。中国人のコックには気をつけよう、みたいな感じに終わっている。

     モーム本人がけっこう南洋を訪れたりしたらしく(日本にも何度か来ているそうで、この本にも日本人はモブで何度か登場する)、自分の見聞きした話や経験が何か下敷きにあるのかどうか。今回調べてはじめて知ったけど「月と六ペンス」もゴーギャンみたいな人物をモデルにした南国の話らしい。「南海もの」と呼ばれる、こうした作品群がモームにはあるらしい。
     モームという人はMI6の諜報員だったことがあったり、同性愛者として有名だったり、いろいろと波乱万丈の人生で、旅から旅への人生でもあったみたい。

     当時の読者には実際に南洋の島とかに行ったことがある人は希少だったろうから、そういうあたりも当時受けたのかな。
     カナカ人というのが現地の人として出て来る。ウィキペディアによれば
    カナカ族 (Kanakas) とは、ミクロネシア、マーシャル諸島、パラオ等の島々の住民を一般的に呼ぶ俗称。

     ということだそうだ。知らなかったな。

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