「春雨酒場(源氏鶏太著)」
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「春雨酒場(源氏鶏太著)」

2018-01-14 19:00


    ・下町の人情をテーマに軽妙なタッチで書いた、みたいな短編集とある。
     でも軽妙というにはちょっと微妙な作品も混じっている気がする。

    ・春雨酒場
     国電O駅そばにある、春雨酒場という店が舞台。酒場といっても居酒屋ではなく、酒屋の店先で缶詰とかを肴に飲ませる立ち飲み屋みたいな感じ。立地がよくて繁盛しており、従業員は3人もいる。O駅というのは大崎か、大塚か、大森か大井町か。思い浮かべる駅によって印象も変わる。客はサラリーマンとバタ屋が半々。バタ屋というのは死語で差別語で現在は放送禁止用語らしいのだが、今で言えば廃品回収業みたいな。でもそう言い換えてしまうとイメージが違ってしまう。直接見ないとわからない。サラリーマン客とバタ屋客は仲が悪く、バタ屋がサラリーマンの荷物をくすねてトラブルになることはしょちゅうで、殴り合いに発展する事も日常茶飯事。
     そこの若手店員が、ある高級酒場の女給を好きになり通いつめているが、彼女は二股かけていて、店員は包丁を持ち出し・・・とかなり物騒な話。でも最後はめでたしめでたし。寅さんみたいな人物と思うといいのかもしれない。

    ・殴られた男
     ある一流の商事会社で将来を嘱望されている若手社員。同じ会社かはわからないが、OLと知り合い、婚約中。そのことは会社の人間もみんな知っている。相手もいいとこのお嬢さんで性格もよく、誰もがうらやむカップル。だが、突然青年の母親が難色を示すようになり、破談となってしまう。理由は今の人には信じられないだろうけど青年と婚前交渉をしたから、というもの。青年は抵抗するが父親が5年ほど前に世を去っており、母親思いでもあったので結局流され、女性には平手打ちされて別れることになってしまう。
     女性はやがて別の男に嫁に行き、青年も母親が決めた相手と結婚するが、深く後悔することになる。

    ・正々堂々
     とある立志伝中の人物が出身地である地方都市を訪れ、市長以下土地の有力者に歓待される。市長たちは芸者をあてがうなどして必死で歓待し、500万円(昭和30年代の作品なので現代に換算すると何を基準にするかによるけど1億くらいに該当するかも)の寄付の約束を取り付ける。だが、この人物は東京に戻って急死してしまう。
     市長たちは、なんとかこの500万円を寄付してもらおう、約束してくれたのだからもらう権利がある、と未亡人に働きかけ、追悼会の名目で後継者である義理の弟を招待する事に成功する。この人物を篭絡すれば、と色めきたつ有力者たち。だが、芸者だけは故人の人柄に触れていて、嫌だな、と思っている。

    ・大財閥
     かなりえげつないこともして、一大財閥を作り上げた男。あちらの方もおさかんで、正式な子供は娘一人だが、妾との間には何人子供がいるかは本人にもわからない。
     だが金の力で全て解決してきた。自分の子供だと言われても、特に愛情も感じない。多くの人を踏みつけにしながらも公私共に順調な人生だったが、故郷に近い土地の再開発でしくじってしまう。中心のわずかな土地の持ち主がどうしても売らないという。さらに娘が自分の片腕でもある男と結婚していたのだが、夫の浮気が発覚したということで離婚したいと言い出す。
    男はらちがあかない交渉に自分から乗り出すこととし、娘の別れそうな夫と一緒に生まれ故郷に向う。そして思い出す。その土地で若き日に、女を襲ったことを。

    ・共存共栄
     製薬会社を経営する男性。社員は50名程度で、うち40名は中卒の女工さんである。労働組合もなく家族的な経営でそれなりにうまくいっているつもりだったが、ある日女工さんがストライキをはじめてしまう。何度交渉しても日給を上げろ、の一点張りでらちがあかない。ストライキ中の賃金は払えないよ、と申し渡してもやめようとしない。よくよく聞き出して見ると、ストの中心人物は夜にアルサロ(死語だがアルバイトサロン、今で言えばキャバレー。関西では今も言うのかな?キャバレーも死語かも)で働いていて、そこでの給金に比べて日当が低すぎる、みたいに思ったらしい。社長も譲らず、結局ストの中心になってアルサロでも働いていたメンバー5名は全員退職し、危機は去る。社長は賃金は今は上げられないが、その代わりに、と社員旅行を企画する。今と違って個人で旅行するのがたいへんな時代なので、社員は大喜びしてくれる。

    ・ある転勤
     同窓で同期入社だが性格は対照的なサラリーマン二人。一方は謹厳実直だが、もう一人は要領よく立ち回って、女性についてもそれは同じ。あまりに女遊びが過ぎる、ということで北海道に転勤させろ、と上層部で決まる。それが総務部長の女から同じ店の女、謹厳実直な方、と噂として伝わる。謹厳男は友情としてそのことを転勤候補の男に伝える。
     男は総務部長の女を寝取って、彼女から総務部長に働きかけて自分の転勤を撤回させるよう言い聞かせる。結局北海道に転勤したのは謹厳実直の男だった。

     この作品は、著者の実体験をもとにしたのかもしれない私小説風の作品と対をなしている感じ。
     http://ch.nicovideo.jp/metabou/blomaga/ar1321373

     著者はサラリーマン小説で有名な人だけど、この作品集ではサラリーマンよりも経営者側の話が多い。昭和は遠くなった。
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