「探偵は眠らない(都築道夫著)」
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「探偵は眠らない(都築道夫著)」

2018-01-18 19:00



    ・浅草の国際通り沿いにある28階建てのホテルには、ホテル・ディックがいる。ホテル・ディックというのは海外のミステリーではおなじみの職業で、ホテル専属探偵といったところ。
     ホテル警備主任には、もと警視庁のエリートが引き抜かれているが、ホテルディックは彼ではない。その警備主任が、西浅草署でもてあまされていた男をさらに引っ張ったのだ。女房に死なれ、一人娘を嫁に出して独り暮らしの彼は、ホテル内に私室をもらって、ほぼ24時間このホテルにいる。昼間は警備主任の担当だが、夜間の警備は彼の担当なのだ。警備には他にも若手がいる。

    ある日、午後6時5分、警備室に電話がかかってくる。三十代くらいの男性と思われるが、今夜ホテルの宿泊客を殺すという。だが誰をターゲットにしているのかわからない。本人は深い恨みをもっているらしく、あの鼠、みたいに言う。

     主人公のホテル・ディックは、警察に届けても動きようのない案件で、いたずらの可能性も否定できないと思いつつ、主任とも相談の上警戒体勢に入る。ホテルスタッフやかねてから懇意にしているホテル内テナントの店主たちと情報を共有して怪しい人間がいないか探るのだが、顔見知りのコールガールから情報がもたらされる。主人公の娘は編集者で、ホテルには彼女が担当する作家が泊まっている。一方、あきらかにヤクザとわかる二人連れがロビーに入って来る・・・

     謎解きというよりは、ホテル内で仕事あるいは生活を営む様々な人間模様を楽しむ話という感じ。主人公は自炊などせず3食ホテル内のテナントでたぶん割安でまかなっている様子で、ちょっとおいしそう。
     ホテル内には古美術品や手品用品など観光客目当てのめずらしい店から、スナックや喫茶店、レストランなども揃っていて、ホテルを出なくても日常生活ができる。この小宇宙のような世界の中で、主人公は顔見知りの人たちと一緒に事件を防ごうとする。それでは小説にならないので、残念ながら事件は起きてしまうのだが。元スリの名人がテナントの店主だったりする。

     著者は浅草に子供のころから親しんでいたということで、その浅草の魅力をホテルの中に凝縮してみせた、ということらしい。高層ホテルは浅草ビューホテルにインスパイアされているとのことだがモデルというわけではないと断わっている。ホテル内の店は創作らしいが、登場人物の会話には浅草に実在、あるいはかつて実在した店や建物がふんだんに登場する。同じ主人公の短編集が先に2冊出ているらしい。

     事件の真相的なものは、それと示唆はされるもののはっきり語られないで終わる。
     自分たちはもはや警察官ではない、宿泊者を守ることが仕事だ、と考える警備主任と、真相を明らかにして法の執行を優先すべきだ、という主人公の考え方の違いが明らかになる。謎が解けてスッキリ、というタイプの作品ではない。

     都築道夫氏は業績のわりに世間に知られた代表作が無くて、マニアしか知らない感じだが様々な分野で非常に多くの作品を残している。この作品などもそうだが、軽いタッチの作品も多かった気がする。
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