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「梅一輪・湘南雑筆ほか(徳富蘆花著)」Ⅰ部
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「梅一輪・湘南雑筆ほか(徳富蘆花著)」Ⅰ部

2018-05-24 19:00




     徳富蘆花の作品を、現代の人が読みやすいようにいくつかの本から抜粋して編集しなおしたものとのこと。小説あり随筆ありいろいろ、Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの三部構成。

     まずⅠ部の作品から。

    ・漁師の娘
     霞ヶ浦に浮島というのがあって、二百余りの家があるが、ここの隅の方にぽつんと一軒の小屋が建っている。漁師・万作の住処で、ここにはお光という娘がいる。彼が拾ってきた娘である。この娘が長じて小学校に通うようになるが、同級生から捨て子とからかわれて学校に行かなくなる。歌を歌って村の噂になる。年頃になり恋もするがすぐにやぶれ、ある日の大水で姿を消してしまう。
     貧乏な娘の悲劇みたいにも読めるけど、かぐや姫みたいなおとぎ話みたいな印象も受ける。

    ・梅一輪
     語り手の知人女性がアメリカに渡り、その地で病を得て亡くなったいきさつ。
     語り手の知人であった男性があり、彼は日露戦争に出征した軍人であったが終戦後軍を辞して信仰の道に入る。家族親戚一同猛反対の中、一人だけ彼の母の縁者である若い女性が味方をする。二人は同じ信仰を持っており、やがて将来を約束した中となる。
     語り手はアメリカに渡ることになった彼から彼女を紹介され、自分の留守中頼む、みたいな感じ。彼女も夫妻を慕うようになり、語り手の妻を姉とも思うようになる。だが次第に彼が彼の地で堕落しているのではと心配するようになり、自分も渡米したいと思いつめる。語り手は妻と共に、彼との交際を認めるよう、渡米に反対する家族を説得するなど彼女の希望が叶うように助力し、彼女は看護婦学校の生徒として渡米できることになる。
     以降彼女がアメリカから出した手紙が掲示され、最後に彼女が病気で亡くなったと電文が来る。彼女の死を知った後にも手紙が何度か届く。
     語り手は彼女を殺したのが自分のような罪悪感を抱く。アメリカから彼女の女性の友人がやって来て、梅の花のような人だったと彼女を評す。
     この女性には実在のモデルがいて、彼女の信仰の師は内村鑑三、語り手の夫婦は著者夫妻らしい。

    ・哀音
     「あいおん」と読むらしくかながふってある。辞書で調べると人を悲しませる音調とある。
    門付けの三味線の音を聴くときなどに、著者の心中にはこの哀音という単語が浮かぶらしいみたいなことが美文調で書いてある。
     解説によると、哀音という単語は著者の作品ではキーワードらしい。

    ・可憐児
     語り手が海岸を散歩していると、世話役らしい女性に連れられた七つか八つの女の子とすれ違う。
     はっとするような美人で、子供らしからぬ悲寥の表情を浮かべている。どこの子かと近所の者に問えば、ある華族の子であるという。もとは大名であったその華族は、三度目の妻に評判の美人を迎えるが、妾は11人もとっかえひっかえ、花柳界にも遊び素人女にも手を出すご乱交で親戚とも付き合いを絶つなど人間性に問題あり、ついに美人の妻は自殺したことで有名であった。
     忘れ形見の彼女の将来を思ってか、語り手は黙然と佇む。

     これも多分モデルがあるんだろうと思う。後に「黒潮」という小説に長編化されたと解説に書いてある。

    ・海運橋
     日本橋区の海運橋のたもとで見かけた、困窮した母子を助けたいが何もできないという話。

    ・国家と個人
     日清戦争終わり、凱旋に沸き立つ群衆の中に、飢えた男がいる。愛国忠君の陰に救われぬ者がある、みたいな。

    ・兄弟
     宇都宮停車場で、中年の男二人が風呂敷包みを奪い合うのに遭遇。群集が集まり駅員が集まり、やがて巡査が来て風呂敷を奪おうとした男が連行されてゆく。二人は兄弟らしいが憎みあっている。互いに兄のくせに、弟のくせに、と罵りあう。

    ・断崖
     竹馬の友であり、幼き日には同じブランコに乗り、同じ小学に通い、同じ少女を恋し、と親友同士だった二人。一人は成功をおさめ、日本を代表する人物となり、博士であり資産家である。いま一人は両親を亡くして運命が変転し、苦学の末に通訳の真似事でかろうじて生きている。ひと目故郷を見て死ぬか、みたいな思いで20年ぶりに訪ねた故郷で「吾」は「彼」に会う。彼は再会を喜び別荘に招待する。そこで会った彼の妻はかつての少女。
     二人は近所の断崖を歩く。彼が前、吾が後。彼の広い背中を見つめているうちに、彼我の差が吾によからぬ思いを呼び起こす。

     鞦韆(しゅうせん=ブランコ)という言葉をはじめて知った。

    ・灰燼
     西南戦争の後日談みたいな話を美文調で。
     ある名家があって、三人の息子がいる。長男はちょっと頭の出来が悪く廃嫡寸前だが、下二人はどちらも優秀。だが次男は心が冷たく嫌われ者、三男は温かで村人の評判もよい。
     父親は村の名士で文武両道の人だったが、病気で最近は衰えが目立つ。両親は次男を嫌い、三男をかわいがる。代替わりの際には、二人に均等に財を分けようと考えている。
     ところが西南戦争が起き、三男は西郷を尊敬しており従軍する。そして敗走して死んだと思われる。
     次男はこれで家の全ては俺のものだ、と三男の婚約者まで自分の嫁にしようとする。彼女は三兄弟の幼なじみだが、子供の頃から三男と将来を誓う仲だった。
     だが三男は生きて還る。次男は三男を生かせば自分が困る、と逆賊をかくまえば家名が傷付く、と両親を説得して三男に腹を斬らせる。
     だが村人は子供を見殺しにした、と白眼視するようになり、それに耐えかねた次男はほとぼりをさまそうと父親を連れて湯治へ出る。
     留守を守る母親は、愛する息子を殺させたことを悔やみ、心が不安定になっている。そのため錯乱して失火する。母親は長男が助け出したが家屋敷も財産も、蔵まで含めて灰燼と化す。父親はそのショックで死に、婚約者の娘も三男の墓の前で自殺する。全ての財産を失った次男はどこかへ去り、そのまま行方知れずになる。
     長男と母親は親戚に預けられ、婚約者は三男の墓に合葬されて比翼塚と呼ばれるようになり、そこは村人が手向ける花が絶えぬ場所となる。屋敷跡は荒れ放題の忌地と化す。

     これもモデルとなった家はあるらしいが、大部分は虚構とのこと。人の命より家名が大事、という論理に誰も逆らえない。山上たつひこさんの「光る風」をちょっと思わせる。
     
     
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