「ダイヤモンドと暗殺(斎藤栄著)」
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「ダイヤモンドと暗殺(斎藤栄著)」

2018-04-09 19:00


    ・私はこの著者の作品をこれまで読んだ事がないのだけど、「タロット日美子」やトラベルミステリーのシリーズなどを持ち、一時期は毎月のように新刊を出していた人で、成功した流行作家の一人なんだろうと思う。今もご健在なんだろうけどここ10年ほどは新作がないみたい。

     この作品は昭和50年に単行本になり、昭和53年に文庫になったとのこと。著者は東大法学部を出て公務員になり、勤務しながらいくつか作品を発表して江戸川乱歩賞を受賞。
     そこから専業作家になったとのこと。この作品は専業作家になって数年後くらいの時期に発表したものらしい。

     二部構成で、一部は1960年、二部はその15年後。解説によれば1960年は右翼テロが頻発した年だそうで、6月には河上丈太郎代議士、翌月には岸信介首相が襲われ、十月には浅沼稲次郎日本社会党委員長が刺殺されている。私は当時の記憶はないけど、浅沼委員長の件はわりと子供の頃に聞いたような気がする。
     二部は左翼テロが頻発した時代で、8名が亡くなり400名近い負傷者が出た三菱重工爆破事件の翌年。犯人たちが逮捕された直後くらいの設定になっている。こちらは私もリアルタイムで覚えている。今も後遺症に苦しむ人がいるのかもしれないが、犯人は今もほとんど存命中みたい。
     NHKアーカイブにちょっと映像がある。
    http://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009030128_00000

     第一部が「暗殺」、第二部が「ダイヤモンド」というサブタイトルになっている。三菱重工爆破事件は犯人が「ダイヤモンド作戦」と呼んでいたそうで、それにちなんでいるのかも。

     当然フィクションなわけだけど、第一部は社会党浅沼委員長がモデルである革新党の荒沼正次郎委員長を暗殺しようと狙う右翼少年と、それを防ごうとする公安警察官が話の中心になる。少年をそうした道に引きずりこんだのは彼の母親の従弟にあたる人物で、右翼団体の顧問のような立場にあり弁もたち著書もある人物である。少年は彼に感化されて居合いもはじめ、一つ上の姉の飼い猫や飼い犬も斬り殺したりしている。父親はそれを知っている。姉は猫も犬も逃げてしまったと思っている。
     少年の父親は息子の変貌に心を痛め、どうもテロを考えているのではとうすうす察しているが学究肌の人物で、体格も良く剣道の腕もたつ息子に正面から意見できないでいる。少年は母親との関係は良好だが、母親は不治の癌で入院中。事実上もう長くないと思われる。母親は父親とは不仲で、息子の右翼活動についてはむしろけしかけるようなところがある。そんな夫婦なのでか、原因と結果が逆なのかもしれないが、父親はには他に付き合っている女性がいる。その女性はけっこう有名な美人女優。外科医をしている彼女の弟もその事は知っている。かなり若い頃からの付き合いらしく遊びではないが、彼女が女優という職業を選んだこともあっておおやけにすることができないまま現在に至るみたい。彼女には建築家の兄もいる。兄も弟もエリートである。
     父親は大学で国文科の助教授をしているが、いまひとつ立ち回りが下手で教授にはなれそうにないな、と自分の限界を感じており、作家になりたいと思っている。ある座談会で知遇を得た江川竜歩という人物(誰が見てもモデルはあの人)に、そんなに小説が好きならうちの雑誌に書いてみなさい、とチャンスをもらい、この小説のモデルを息子にして息子のテロ計画を自分が命がけで止める、みたいな話を書いて間接的に息子を思いとどまらせようとする。
     この小説をきっかけに公安の右翼担当刑事が動き出す。偶然もあって、刑事は少年と面識ができる。この刑事は幼い娘が野犬に襲われた時に、散歩中の荒沼氏に救われた事があり、娘の命の恩人をなんとしても守ろうと思っている。 
     だが少年は止まらず、近所の友人の家から訳ありの日本刀を持ち出し、父親の金を盗んで地下に潜伏する。刑事は少年を追うが、いつももう少しで逃げられてしまう。それもそのはず、警察内に少年のスパイがいて刑事の動きを逐一知らせている。
     事務担当の女性が偶然少年に助けられて、そのまま男女の仲になっている。
     少年の剣の腕は尋常ではなく、素手のボディガードがいても止めることは困難なレベル。だが荒沼氏は豪放磊落な人で、警察の警護は断わる。首相の襲撃事件が起き、警察は政府与党側の警戒を強め、野党へのテロ警戒は手薄になる。
     読者は史実を知っているわけであるが、はたして刑事は少年を止められるか、という感じの話になる。
     ミステリなのでちょっとぼかして書くけど、結局警察は史実通り敗北する。だが、実行犯は少年ではなかった。少年は警察からみれば囮のような役割を努めたことになる。これで第一部が終わる。話の本筋にはあまりからまないけど、若手のプロ棋士が登場する。何で?という気もするけど、著者は将棋ファンらしい。

     第二部は今は33歳に成長し、宝石業界で働く少年の姉が中心人物のようになる。少年をテロリストにした母親の従弟は精神に異常を来たして長年入院していたのだがようやく退院となり、少年の父親と姉に恨みを抱いている。男の従姉、つまり少年の母親は既に病死。

     父親は小説家に転身し、そこそこ成功をおさめている。娘とも仲がいい。長年の愛人である女優も日本を代表する大女優になっており、二人の仲は公然の秘密みたいになっている。
     娘もこの女優を母親か姉のように慕っており、女優の方も何かと彼女を助けてやっている。
     彼女がそういう職業という事で、ダイヤモンドに関する様々な業界知識が語られる。

     一部に登場した若手棋士は名人戦に参加する実力者になっており、名人まであと一歩。一度結婚したが妻を亡くしている。彼と宝石業界で働く女性とは若い時に面識があり、ちょっと互いに気にするところもあった。女性も婚約者を亡くした経験がある。
     一部に登場した刑事は、三菱重工爆破事件に遭遇して失明し、現在警察を休職中である。

     宝石業界で働く女性が新聞に発表した若き日の思い出みたいな文章から、その記事を荒沼委員長に救われた娘に読んでもらった刑事が、あることに気付く。当時は殺人事件の時効は15年で、あと数週間。刑事は盲目で休職の身ながら、出来る限り15年前の事件を再捜査しようと決意する。

     みたいな話。ちょっと肝心なところをぼかしているのでよく伝わらないけどわりと楽しめる話だったと思う。
     第一部を読んで、都合よすぎるだろう、と内心思っていたところが第二部で合理的に説明されたりする。

     両親が力を合わせて子供を守る話でもあるので、読後感は悪くない。
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