「花氷(松本清張著)」
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「花氷(松本清張著)」

2018-05-18 19:00



    ・「花氷」と書くと通常は「はなごおり」と読んで、中に花を入れて凍らせた冷房と装飾を兼ねた氷柱みたいのを指すらしいけど、これは「かひょう」と読むみたいにウィキペディアに書いてある。原作者本人がそう指定したのかはわからないけど。近藤正臣さん主演でテレビになった時には原作者もご存命だったと思うのでそれでいいのかな。

     主人公は不動産ブローカー。だがこういう商売は当たればでかいがハズレもでかく、毎日ギャンブルをしているようなものらしい。そして主人公はどちらかというとまっとうにやっているわけではなくて、もっと怪しげな商売のやり方らしい。最近はちょっとうまくいっておらず、金にも不自由しはじめている。

      だがある日、赤坂の寿司屋で元同棲相手がさえない男と食事しているのを見て、ほくそ笑む。この男は女性には手が早く、自信も持っている。だが一度手に入れた女性にはすぐ興味を失ってしまう。この女性とも、結婚したとたんに興味を失って浮気を繰り返し、それが発覚して別れたのだった。女性はそれまでは洋品店の主人がいたのだが、男がそそのかして家を出させ、その時金も持ち出させて同棲することになり、女性の夫はその後自殺している。
     修羅場はあったが、持ち出した金も持たせて解放してやり、今は別の女と同棲している男は、一度自分のものにした金を持っている女との再会をチャンスととらえ、もう一度彼女を篭絡して金も取り戻そうとたくらむ。
     一緒にいたさえない男は彼女の財産運用を担当している銀行員とわかる。銀行員は彼女に惹かれているのだが、不器用で積極的な行動には出れないでいる。ただし彼には妻子もいる。課長だが勤務先でもあまり優秀なほうではないらしい。

     男は元同棲相手の自宅を調べ、ついでに一緒にいた銀行員のことも調べて利用しようと計画を練る。まず銀行員の勤務先を訪ねて、自分は貴方が先日一緒だった女性の元夫だが、これを縁にお近づき願いたい、みたいに持ちかける。銀行員は不動産部門の所属であり、この銀行は一流なので、ここに伝手があるといえるだけで男の商売にはプラスになる。銀行員は警戒してこれを断り、女性に連絡を取るが、男は交互に女性と銀行員を訪問しつつ、手切れ金みたいなものを奪おうとする。さらに女性の身体も狙っている。
     男には現在も同棲相手がいるのだがもう飽きており、時に暴力もふるう。そろそろ捨て時なな、みたいに思っている。

     男は同業者から、九州出身の政治家が選挙資金を欲しがっていると聞き、仲介者を通じてこの政治家を料亭で接待する。この政治家はいわゆる建設族で、建設大臣の派閥で中堅ぐらいの位置にいる。

     女性と銀行員は本来性格的に合わなかったような気もするのだが、男に対抗するためかえって精神的距離が縮まり、男女の仲になってしまう。銀行員は男ともう女性につきまとわないように話をつけようとするが、結局念書と引き換えに手切れ金を払う形になり、しかもその金を後で充当するつもりで公金に手をつけてしまう。おまけに銀行の帯封までついている。男はこれは使える、とほくそえむ。

     会うたびに料亭の代金を付けまわす政治家に、金がかかるなあ、とちょっと困っていた男は、銀行員の金を帯封がついたまま政治献金として政治家にまわし、自分のバックに銀行がいるようにみせかける。すると政治家の方もいい金づるだ、大事にしよう、と態度が変わる。
     さらに男は高利貸から情報を買い、銀行員が勤める支店の融資状況を調査する。すると支店長が何件かのこげつきを抱えている事がわかる。これを任期中に処理できれば役員コースだが、処理できなければ左遷されるという大きな金額だ。男はこの支店長を巻き込むことにする。公金に手をつけた弱みのある銀行員を脅し、支店長を紹介させる。

     不動産ブローカーとして、都心を離れたところに広大な国有地が活用されずに眠っていることを男は知っている。再開発して工場を誘致するにはちょうどよい立地だが、もと陸軍の土地だったとかで現在は廃墟が点在している荒地にすぎず、所有者は農林省になっている。過去何度か払い下げ交渉が行われたもののみんな失敗している。だが、大銀行が金を出して建設族の政治家が動けばきっと払い下げに持って行ける。そこには膨大な利権が生まれ、大儲けできる。男は青写真を描く。

    ここで当時の国有地払い下げの手続きが細かく出て来る。国有地は国有地財産法国有財産特別措置法に基づいて行われ、利用計画書とそれを証明する書類が必要になる。利用計画書には24項目があって、利用目的がこれに合致しないといけないみたいで、さらに例えば公営住宅を建てる計画なら、公営住宅法に適ったものでなければならない。みたいになっていて、利用計画書が本物であることを証明する議事録なり事業計画書なり図面なりが必要となる。

     公園を作るなら厚生大臣の許可が必要であり、スキー場を作るなら運輸大臣の許可が必要になるなど認可権限が問題となり、林野庁がその前程として用途廃止を行い、新たに用途指定される。本来公共的な目的でないと認められないのだが、ここに抜け穴があるらしく企業財産を普通財産にできる場合がある。審議会で審査する事になっているがここはボスによってコントロールされているのでボスさえ手なづけておけばよい。私は法律がよくわからないけど、こうしておくと転売したり貸したりして、主人公のようなブローカーが大儲けできるようになるみたい。

     つまり政治家の権限でそうしてしまえば、格安で手に入れた国有地を何倍、何十倍もの値段で工業団地や住宅地として企業や開発業者に転売し、莫大な儲けを得ることばできて、銀行の支店長は多少の無理(公金に手をつけるなど)をしてでも最初の買取金額を出しておけばその穴埋めをしてさらに十分なおつりがきて、これまでの不良債権も処理できて役員間違いなしとなるし、政治家は利益の多くを政治献金として回収できる。残りは主人公が個人的に受け取って億万長者になれる。

     接待した政治家をとっかかりに建設大臣を動かし、あとは大蔵大臣の認可が得られれば大丈夫、というところまで来る。ここが最大の難関なのだが今回は建設大臣が大物なので心配ない。大臣との顔合わせは、同じ料亭でたまたま別々の宴会があって廊下で顔を合わせた、という感じで行う。主人公はこれを上手くいかせるために、これまで登場したのとは別の女性を政治家の接待に出し、夜の相手をさせている。彼女はいきつけのバアのママで、主人公に気があるのを結婚を餌に操っている。

     あと一息で大金持ち、というところまで来るのだが、彼はこれまで自分が操っていた銀行員や女たち3人に次々に去られ、裏切られることになる。

     最近も話題になった国有地払い下げ。松本氏はその手続きの複雑さと、複雑さ故に政治家の力を借りないと事実上それができないので、政治家がそこを政治献金の儲けどころみたいに使っていることを書きたかったのかな、という印象。昭和40年の作品なんだけど、今もそのへんは変わってないんだろうな、と思わせる。大規模な太陽光発電所を建設するために国有林が失われる、なんてことのありませんように。
     
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