「野ざらし姫(山手樹一郎著)」
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「野ざらし姫(山手樹一郎著)」

2018-08-25 19:00




    ・浅香伝八郎という若い侍が、姫路城下から江戸へ向っている。彼は中西忠兵衛に師事して小野派一刀流を学び、すぐれた腕を持っていたがそれが災いして勤番侍5人に喧嘩を売られ、3人を斬って2人に重傷を負わせてしまう。これを裁いた南町奉行・筒井紀伊守から、相手に非ありでおとがめはなかったもののお主ほどの腕があれば斬らずにすむ工夫もあったろう、と諭されて家督を弟に譲り、世を捨てて旅に出たという背景を持っている。

     姫路より一里ほどの御着の宿というところで、ならず者にからまれている女性を助ける。これが南蛮お菊という鉄火肌の姉御で、二十歳をとうに過ぎた年増女だがなかなかあだっぽい。
    手品師として大道芸を生業としており、ひらりと木の枝に乗り移る身軽さと、五寸釘を狙ったところに打ち込めるというおっかない特技も持っている。曲馬団にいたこともあるらしい。

     お菊は伝八郎を気に入って、行き先も江戸ということで同道してくる。実は追われる身であるという。さらに少し歩いたところで4人連れの侍一行に出会う。はっとするような美少年の若様をちょっとたくましいが田舎者っぽい3人の家来が守っているという感じだが、実はこの美少年は三日月藩のお姫さま。鶴丸と名乗っているが本名は鶴姫で17歳、茨城の土浦藩土屋家から播州三日月藩にこし入れしたが、当面は江戸屋敷で暮らしており婿となるはずの綾之助が病と聞いて国入りしたところ死に目に会えずに死亡。江戸から同行した医師が看たところ毒殺の疑いがあるという。三日月藩の政治は十年前に先君が病死したあと執政の稲葉大膳という男に握られており、大膳政治的手腕は確かでありやり手でもあるが、領民のことより自分の私腹を肥やすのに夢中なタイプ。先君の姉を妻にしていて、嫡子は綾之助の後を継いだ弟の次に主家に近い血筋となる。つまり現当主の若之助が死ねば、藩は大膳のものになるといっていい。

     鶴姫は半年国元に滞在して綾之助毒殺の証拠をつかみ、公儀へ訴えるべく江戸へ向っている様子。だが追っ手がかかっている。馬で来た追っ手の第一陣はやり過ごし、第二陣の3名は伝八郎が斬らずに圧倒したことで、鶴姫の護衛に加わるという。お菊も同情して鶴姫の味方をするということになって9名となった一行は江戸へ。
    鶴姫を守る 8名の内訳は、まず浅香伝八郎、お菊、姫を警護してきた早川秋作、香川東吉、矢川春蔵、追っ手から味方に転じた高田作兵衛、田丸房五郎、篠崎久八。
     追っ手の指揮をとるのは大膳の弟で鷲沼郷左衛門。直心影流の達人だという。一行は鶴姫の疲労を考えて加古川に宿をとることにする。高田、田丸、篠崎の三名は知らん顔をして追っ手の本隊がいる明石に向かう。鶴姫はじめ、三日月藩の者たちはてっきり伝八郎とお菊がいい仲だと思い込んでいるのだが、本当はそういうわけではないので、お菊は鶴姫に焼きもちをやいて警戒する。
     明石に向った三人の仲に裏切り者があるかもしれない、と伝八郎は念のため加古川をスルーすると、案の定明石から加古川へ向う騎馬隊とすれ違う。篠崎久八の顔が騎馬隊の中に見える。姫の足がかなり弱ってきたので、伝八郎は明石藩の舟奉行、高武貞右衛門に目通りを願い、正直に事情を打ち明けて姫と供の者3名を大坂まで船に乗せてくれるよう頼むと、貞右衛門は武士としてこれを引き受けてくれる。伝八郎はお菊と陸路を行き、追っ手の動きを探ると共に、味方になってくれたはずの高田、田丸の様子も確認しようとするが、二人が既に斬られたことを知る。お菊は憤慨して篠崎を許さない、と息巻く。真っ直ぐな彼女の性格からして、このままだといつか大怪我すると感じる伝八郎はなんとかお菊をこの件から手を引かせたいのだがうまくいかない。

     二人は籠に乗るが、ここで駕籠かきに金をつかませた男がいて、お菊は拉致される。これが冒頭でお菊にからんでいたならず者、てんぐ小僧市松である。だがてんぐ小僧は、すぐに騎馬隊と出くわして、お菊の顔を知っている篠崎たちにお菊を奪われてしまう。

     追っ手の頭、鷲沼郷左衛門は腕の立つ伝八郎のことを公儀隠密と誤解しており、今後のためには姫を斬った方がいいと思っているのだが、兄が鶴姫にご執心なのでそうもいかない。
     彼のもとにお菊が連れられてくるが、たいしたことを聞き出さないうちに伝八郎が乗り込んで来て彼女を連れ去ってしまう。鷲沼も他藩の代官の手前暴れるわけにはいかず、これを見逃す。お菊は自分を連れ去った男の一人を五寸釘で攻撃し、片目を潰す猛々しさを見せる。篠崎は卑怯にも後ろから伝八郎に斬りかかって返り討ちになる。追っ手たちの馬を市松が手綱をといて逃がしてまい、その馬で伝八郎、お菊、市松は脱出する。三人はしばらく行動を共にするが、市松を邪魔に思ったお菊が何も言わずに姿を消す。これは自分がいる限り市松が離れようとしないので自分から姿を消して、市松がどこかに行ったらまた伝八郎と合流しようというもの。だが、市松の方はこの間に伝八郎がひとかどの人物であるとわかって好意を持つようになり、さらに伝八郎は全くお菊に惚れているわけでもないことを知って、彼を助けようと思うようになっている。

     一方船で行く鶴姫一行の方は問題なく東海道に入り、草津の宿も間もなくというところで追っ手3人に待ち伏せを受ける。早川秋作が姫を守るように残る二人に言い残して立ち向かい、2人を倒し、1人に軽傷を負わせるが力尽きて倒れる。
     その間に姫は逃げ、合流の約束をした石部の宿にたどり着くが伝八郎はまだ着いておらず、それどころか鷺沼郷左衛門が手下二人と、この宿に来るだろうと見込みをつけてやってくる。早川はどうしたろうと案ずる姫に矢川が見てまいりましょうといって部屋を出て、姫と香川だけになったところに鷺沼たちが乗り込んで来て、香川は手下二人に連れ去られ、姫は鷲沼に手込めにされそうになる。これを助けたのはお菊と市松で、二人は別々の思惑でこの宿に潜入していたのだがぴったり息の合った芝居を演じて姫を救う。お菊はいつの間にか、鶴姫を妹のように守ってやらねばならない存在と思うようになっているのだが、伝八郎を簡単にわたしてなるものか、という競う気持ちもある。
     矢川が伝八郎と出会い、宿に戻る途中で二人に挟まれて連行されていた香川とも行きあって3対3の斬り合いとなる。さらに次々と追っ手たちが集まってくる中、伝八郎は姫を市松に預けて逃がす。

    なんとか切り抜けてしばらくは平穏な旅が続くが、ここにきて姫が明らかに伝八郎を慕っていることがあからさまになってくる。姫はもちろん口には出さないが態度に出てしまう。伝八郎は道中なるべく姫と距離を置いて歩くようにするが、市松は姫をけしかけるようなことを言い、お菊はヤキモチを焼く。すると姫の家来である香川には面白くないことになる。一番の年長で人格者だった早川がいなくなると、香川はお菊や市松に対するいらだちを隠さないようになっていく。若い矢川はそうでもないのだが。
     小田原までたどり着いたところで、伝八郎に果たし状が届く。彼が斬った勤番侍の関係者からのものだった。だが不審な点もあって、鷲沼の罠とも考えられる。だが万一本物であったら逃げるわけにはいかない。伝八郎は市松を連れて現地に向かい、罠だったら市松をよこす、もはや香川、矢川二人では姫を守りきれないので小田原藩の力を借りるようにと言い残して出て行く。鶴姫もお菊も伝八郎の無事を願って平常心を失っている。

     酒匂川の河原が決闘の場所で、やはり偽者だった相手7人と斬り結んでいる頃、香川は自分たちも伝八郎の加勢に行こう、と言い出す。これは姫やお菊の心の内とも一致しており、そういうことになるが伝八郎のいいつけを破ることでもあった。案の定隠れていた鷺沼の手下たちに襲われて香川は斬り死に、姫とお菊は捕らわれる。矢川はうまく逃げたと見える。

     お菊は姫と分かれて河原に連れてこられ、ここで浪人たちに犯されそうになるが、飛び込んできた矢川が必至で助けようとする。だが浪人たちの方が腕は上のようで多勢に無勢。だがここで矢川はがんばって重傷を負いながらも二人を倒し、お菊を助けることに成功する。

     一方鶴姫は輦台に乗せられて酒匂川を渡る。7人のうち3人を倒し、あとの4人から素早く逃げて反対岸に渡った伝八郎と市松が、これを囲むようにして川を渡る浪人たちを石つぶてで倒し、そのはずみで姫も川に放り出されてしまうが伝八郎が泳ぎ着いて救う。ここでついに二人は互いの本心を口走ってひしと抱き合う。伝八郎は姫を抱きかかえながら、追ってから逃れてゆく。

     それから十日が過ぎる。お菊は重傷を負った矢川を農家の助けを借りて看病し、自分の命の恩人となった彼の面倒をみている。彼は自分を助けるために左手がほとんど動かなくなる重傷を負ったし、香川のように斬り死にできなかったことを恥じている。だが自分がいるからには死なせない。もともと素直な矢川春蔵のことを、お菊は弟のようにかわいいと思ってもいたし、伝八郎は姫と相思相愛であることはわかっていた。お菊と春蔵は夫婦約束をしている。春蔵は姫の無事を見届けて、武士をやめてお菊と一緒になるつもりである。

     一方伝八郎は姫を助けた後、海辺に住む老夫婦の助けを借りて熱を出した姫の面倒をみてやり、冷え切った体を温めるために自分の肌で暖めてやり、市松に薬を買いにやらせたりして面倒を見ている。だが困ったことに姫は回復しても江戸に行こうとしない。江戸に行けば伝八郎ともう会えなくなることを恐れているから。
     伝八郎は死んでいった早川や香川たちのためにも、ここで姫をさらって逃げたりするわけにはいかない。姫を説得して、実家に手紙を出して迎えに来させることにする。

     だが迎えに来た姫の実家の江戸家老はどうもことの重大さがわかっていないようで、これでは鷺沼の襲撃があれば姫を守りきれないと見た伝八郎と市松は、少し離れて籠をつけることにする。姫の行列はその晩藤沢に泊まる。江戸家老は姫が若い侍と駆け落ちしたことになっていると姫に告げ、さらに姫はその醜聞を隠すために死亡したことになっていると言い添える。姫が思うような綾之助毒殺を訴えて稲葉大膳を罰することなどできますまい、と言う。江戸家老自身はあまり姫のいう事を信用していないようであり、事なかれ主義のようでもある。絶望する姫に、忍び込んできた市松が矢川とお菊の無事を伝え、伝八郎も陰ながら見送っていると伝えてくれ、姫は少し希望を取り戻す。

    保ヶ谷で休憩中の姫を、矢川とお菊が訪ねてくる。二人は先に伝八郎と市松と話して、姫が実家で厄介者扱いされており、座敷牢に入れられてしまうかもしれない、と聞いている。
     二人は姫に目通りして力づけ、姫がどのように扱われているかじっくり観察する。お菊は江戸家老にちょっと勢いよく啖呵をきったりもする。これで江戸家老も姫を信じるようになる。実は稲葉大膳は老中松平周防守と縁戚関係を結んでおり、根回しが巧妙だったこともあり、彼自身姫が不始末をしでかしたのだと思っていたのだが、お菊の啖呵でそれが嘘であった事に気付き、そう考えると稲葉大膳のやり口は実に卑劣なものであったと思い当たるのだ。
     江戸家老・若尾三左衛門がそんなことを考えているところを、鈴が森のあたりで行列に襲撃がかかる。もちろん鷲沼郷左衛門たちである。三左衛門たちは応戦するが、不意をつかれたこともあって劣勢である。ここに加勢に飛び込んだ伝八郎が、姫の籠を奪って逃げようとしていた鷲沼と戦い、一緒にいた鷲沼の片腕でこでまで早川や高田、田丸といった人々を斬ってきた雉子村剛助という男はお菊が五寸釘を投げつけて目を潰す。矢川も加勢して姫を取り戻し、鷲沼は証人として捕まえた。

     高輪の土浦藩下屋敷で今は認識を改めた若尾三左衛門が伝八郎、矢川、お菊、市松を歓待し、決して姫を粗末に扱わぬと誓う。
     三左衛門は相談の結果、伝八郎と共に稲葉大膳の屋敷に乗り込み、姫の遺書に大膳の悪事が書かれていた、ということにして善処せねば公儀に訴える、と交渉を持ちかける。

     稲葉大膳はいろいろ抵抗するが、姫が死亡したと届けを出したのは大膳であり、その姫が生きていることとなれば彼が咎めを受けるのは必然である。

     やがて老中・松平周防守の使者が土屋家にやってきて、大膳の出家・隠居ほかいくつかの処分、処置を告げる。これは三日月藩が大膳の私物にならぬよう配慮されたものであった。その中には、死んだことにされてしまった鶴姫の供養料、三千石を三日月藩が出すということも入っていた。

     若尾三左衛門は藩主で鶴姫の兄である采女正と相談し、この三千石を使って、死んだことにされてしまった姫を、ある浪人の妻として生まれ変わらせることを決める。
     黙って姿を消そうと思っていた伝八郎だったが、市松に捕まって責められていた。夫婦約束をした女を置いて姿を消すなんて、とそこに三左衛門が姫を生まれ変わらせることに決めた、と告げにくる。市松は飯を食わない幽霊にすぐ知らせてやんないと、と部屋を飛び出してゆく。
     

     作品中でははっきり時代を書いていないけど、登場人物の何人かは実在のようで、筒井政憲という人が南町奉行だったのは1821年から1841年らしい。この人は紀伊守だったこともあるみたいだけど、ネットではどの時期が紀伊守だったかまではわからなかった。中西忠兵衛という人がいつからいつまで道場主だったかもよくわからないけど、この人が千葉周作を指導したのが1820年頃みたい。
     三日月藩も土浦藩土屋家も実在のようで、土屋寅直という人が采女正という通称を持っていて、藩主になったのが1838年とある。するとこの作品の設定は1840年前後ということになるのかな。将軍は12代家慶ということになる。あと10年もすれば黒船が来る、江戸がのほほんとしていられた最後の時代かもしれない。
     浅香伝八郎やお菊、鶴姫や稲葉大膳などは実在しないのだろうと思うけど、もしかしたらモデルはいたのかもしれない。鶴姫と書いてきたけど、原作ではほとんど男装時の名前の鶴丸と書かれ、姫自身もそう名乗っている。悲願を果たすまでは女であることを忘れる、みたいな感じ。

     大友柳太郎さん主演で映画になっているらしい。
    http://db.eiren.org/contents/03000008268.html

     この姫さま純情剣というのもあらすじを読むと同じ作品みたい。今風に改題したりしてるんだろうか。お姫様が剣をつかうようなシーンはないんだけど。

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