「恋天狗(山手樹一郎著)」
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「恋天狗(山手樹一郎著)」

2018-07-08 19:00




    ・幕末近く、将軍が上方へ行き、大政奉還などと噂が聞こえる頃。江戸の治安もいわゆる勤皇の志士たちによってゆらいでいる。「貧窮組」を名乗るものたちが勝手に炊き出しを行い、貧乏人に粥をふるまうのはいいのだが、そのために往来を占拠して乱暴もするようになる。
     用事があって通りかかった柳橋の芸者・お万はこの貧窮組に捕まって、面白半分に衣服を剥がされ狼藉されそうになる。そこを天狗と名乗る浪人に救われる。天狗は体術に優れ、剣の腕も一流の様子である。

     お万はもともと幕府の牢役人の娘だったが、6年前に辻斬りに合って惨殺され、病弱な母もすぐあとを追ってはかなくなり、冷酷な伯母に引きとられて芸者にされた。14歳の時だった。2歳下の弟と助け合って生きてきたのだが、弟はやがてヤクザまがいの生き方を選び伯母のもとを飛び出してしまう。お万は今も伯母のもとにいるが、いまだに食い物にされている。

     貧窮組は実は天狗と名乗る者がはじめさせたもので、目的は幕府の権威を下げることにある。ご公儀は貧乏人を助けようともしない、貧窮組を見習え、という感じ。背後には薩摩がいる。薩摩としてはなんとしても幕府を怒らせて一戦交えたいのだ。

     貧窮組を取り締まる立場の八丁堀の与力、佐川剛三は腕利きとの噂だが、実は陰では汚いこともやる男で、無実の男を間違えて捕まえ、拷問にかけた末に奉行所の威信を守る、という理由で密かに惨殺する、などということを平気でやる。幼い子供を拷問にかける、などということも。

     この天狗と剛三の知恵比べのような感じで話はすすみ、商売柄剛三とも顔見知りのお万は何度も天狗に助け助けられ、次第に惹かれあうようになる。実はお万の父を斬ったのも、剛三の証拠隠滅のためで、その時に居合せ一緒に殺されかけたのが天狗なのであるがこのことはまだ互いに知らない。

     天狗には掏りのお神楽小僧常吉、その兄貴分の弥太吉という協力者ができる。この弥太吉は女装もこなす美少年で、お万の弟である。

    6年ほど前の事だが、佐川剛三は友人の半四郎という男から相談を受ける。貧乏旗本の三男坊である
    半四郎は、親戚の大桐家に養子に入ろうとしていた。ここには雪江という小町娘がいる。
     だが持参金が足りない。大桐家も家名は高いが貧乏なのだ。そのうちに裕福な商人の弟が持参金を用意して婿入りする、という話になる。この相手は豊田良次郎といい、商人の弟ながら伊庭道場に通う剣客でもあった。豊田家はもともと武士から商人になったもので、良次郎はこの縁談で武士に戻ろうとしていることになる。
     そうはさせじと良次郎に冤罪をきせて捕まえ、この縁談を潰したのが剛三である。その結果首尾よく半四郎は名門・大桐家の養子となるが、雪江は彼を嫌い、良次郎を慕って自害してしまった。
     無実の良次郎をそのままにしておけなかったので、海岸へ引きずり出して事実を知る牢役人ごと斬ってしまう。だが崖から海に落ちた死骸を確認する事はできずにその場を離れたのだった。顔の潰れた他人の死骸を家族に下げ渡し、牢死とごまかした。牢役人は辻斬りにあったことにする。
     この良次郎が天狗の正体ということになってくる。この時一緒に着られた牢役人が、お万の父親である。
     
     大桐半四郎は市内の巡邏隊長みたいな立場に出世している。洋装の部隊であり、実はならず者を集めたものである。剛三は昔の悪縁もあり、この半四郎の部隊を天狗にぶつけ、自分は高みの見物をしようと考える。半四郎も剛三に劣らず汚いことを平気でやる男であり、薩摩の命を受けた強盗が商家を襲うところに横入りして金品を強奪する、あるいは薩摩のふりをして強盗を行うみたいなことをやって蓄財している。そしてその金で芸者を妻に迎えようとしているのだが、その芸者というのがお万である。お万は嫌なのだが、伯母が強引にことを運ぼうとしている。彼女のことはほとんど知らないのだが、美人だという評判だけを聞いて妻にしようとしている程度の男である。良次郎から見れば間接的な恋人の仇であり、現在憎からず思っている人を困らせている相手でもある。

     剛三と半四郎は良次郎の兄嫁をかどわかして天狗をおびき寄せて殺し、ついでに裕福な質屋である良次郎の兄からは身代金を奪おうとする。だがこの誘拐の現場をお万の弟である弥太吉が目撃する。この兄の質屋が弥太吉のかつての奉公先で、兄嫁は彼の恩人でもあったのだ。


     弥太吉と常吉は首尾よくさらわれた兄嫁を取り返し、剛三の思惑を外す。

     天狗は兄嫁を弥太吉にまかせて安全なところに隠し、さらに兄にも使いをやって身を隠すよう伝える。人質作戦に失敗した半四郎は薩摩のふりをして兄の質屋に強盗に入り、兄夫婦を殺す計画をたてている。

     本物の薩摩もやることがだんだん乱暴になってきて、野州挙兵隊や甲府攻略隊などの義軍を旗揚げし、幕府の目を江戸中央からそらせようとするがこれに失敗すると浪士隊を使って蔵前の札差から三万両を奪う。

     そんな間に偽薩摩強盗の半四郎一味と天狗は衝突し、天狗は身を隠した家ごと焼かれて生死不明となる。

     悪巧みをすればするほど口を塞がねばならない相手が増えていく剛三は、ついに弥太吉が豊田屋の女将を助け出したことを知る。弥太吉を殺さねばならない。豊田屋夫婦もだ。そして、彼らを知っているお万も、このまま生かしておけば必ず剛三のしたことに気付くだろう。
     剛三はお万に惚れているのだが、保身のためにお万も殺すと決心する。さらに仲間のはずの半四郎一味も殺そうと考えている。偽の手紙で関係者を廃寺に集め、毒を飲ませようとする。

     結局剛三は自分の仕掛けた罠にかかって命を落とし、お万は危ういところを飛び込んできた天狗に救われる。そこにやってきた半四郎一味は、自分も剛三に殺されるところだったと天狗に聞いて、これ以上の関わりを辞める。天狗の兄夫婦も無事である。

     天狗、お万、弥太吉、常吉はしばらく連れ立って歩くが、やがて天狗とお万だけになる。天狗は幕府が倒れるまで、自分は戦わねばならぬ、とお万の前を去って行く。

     いいところで終わってしまうのだが、歴史から見て天狗とお万の再会はさほど遠くないだろうと思われる。何気に史実や実在の人物が顔を出して、本当に天狗やお万のモデルもいたかもしれないみたいな気持ちになる。


     


    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。