「ながめせしまに(半村良著)」
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「ながめせしまに(半村良著)」

2018-07-13 19:00


    ・半村さんは伝奇小説で最初に有名になってSFも多く書いたけど、そういうのとは違う人情小説みたいなものも書いている。これはその系統の短編集で、いわゆる夜の女が主役。

     作家になる前はバーテンダーや板前、コック、クラブ支配人など様々な職業を経験したとのことなので、そういう時期に見聞きしたことがらや人間像が反映されているのだろう。

    「エイトマン(第5話:暗黒カプセル、第18話:台風男爵、第20話:スパイ指令100号)」「スーパージェッター(第7話:秘境・マンダーラ)」の脚本も書いたとのことだが、あまり集団での脚本執筆作業は好きでなかったと語っている(ロマンアルバム:エイトマン)

    ・ながめせしまに
    40代くらいの美しい女性がいる。和服を着こなせば完璧で、品物を見る目もプロ並みである。呉服屋の集団が開催する和服の展示会では常連で、その目利きをプロの呉服屋から恐れられてもいる。彼女が来るなら、下手なものは出品できないと。
     彼女は今は財界の大物になった男二人と以前はいい仲だったが、それも昔のことになった。お茶を教えて生計を立てていた様子だが、最近教室を締めたという。
     彼女は、自分の美が失われつつあることを察して、ある準備をすすめている。

    ・置手紙
     経理士から転業して高級クラブをはじめた男性。開店から1年過ぎての収支はまあまあ。支援してくれる人もいて、やり手のバーテンを雇うこともでき、このバーテンが目を光らせているので店はきちんとしている。男性の性格もあって、堅いが居心地のいい店になっている。
     ある日ホステス志願の女性が店にやってくる。全く水商売の経験がない素人で、経理事務所にいたという。なんと夫同伴でやってくる。夫はかなりいかがわしいサービスもさせると噂の同業者に勤めるバーテンで、彼の店では女性は合わない、ということらしい。
     彼女は天性のものを持っていて、すぐに店で人気になる。素人の初々しさがあり、経理をやっていたためか客の懐具合を見抜くのが上手く、無理をさせない。客の好物や特徴をびっしり手帳に記し、取り持ちもそつがない。いずれはママになる人、と店のベテランホステスも一目置く存在になる。客からも、重要な接待に彼女が同席すると取引先の機嫌が良くなり失敗が無い、と大事にされる。
     彼女の評価はあがる一方だったが彼女の夫は浮気性でギャンブル狂でもあったらしく、家に店の女を連れ込んだりとエスカレートするばかりらしく、トラブルをおこして店も辞めたらしい。彼女はやつれていく。そしてついに、お別れします、との置手紙を残して夫の前から姿を消してしまう。
     三年後、男性はある人物から彼女の居場所を知り、そこを訪ねる。そして・・・

    ・酒場(バー)が潰れた日
     のし上がってきた酒場のママがいる。有力なパトロンがおり、実直なマネージャーが店を支えている。マネージャーはママといつか一緒になりたい、みたいに思っており、そのために女性と別れている。
     だがママは大学生と火遊びをしたりしている。その大学生がパトロンの政敵の息子だったため、連鎖的に店はおかしくなっていく。

    ・酒亭抜荷丸
     腕がいいが、客あしらいはちょっと、という板前が二人いる。俺は客だぞ、といばりくさる通ぶった客にうんざりしている。料理や板前という仕事は好きなのだが、客のご機嫌をとるのはもう嫌だ、という気分になっている。だがそれを愚痴ると、行きつけの店の老主人に「お前さんたち、今壁に当たってんだよ」と言われてしまう。
     板前の修行仲間に大手チェーンの若旦那がいて、彼を巻き込んで、客を粗末に扱う店を開いたらどうか、と持ち帰ると相手も乗り気になって、海賊船をモチーフにした「抜荷丸」という店をオープンさせる。
     この店では店員が海賊という設定で、客が来たら「何しに来た!」みたいに怒鳴りつけて横柄に対応する。だがそれがうけて大繁盛となる。
     だが、二人はどこかすっきりしない。客は怒鳴りつけても怒鳴りつけてもコロコロ笑うばかりなのだ、と愚痴る。すると例の老主人が、結局金を払う客には勝てないのさ、でも店や客を好きになったお前さんたちは壁を抜けて、商売に勝ったんだ、と諭す。

    ・恋日恋夜
     クラブの人気ホステスで男性との付き合いも派手だったが、この辺で、とほどほどの客と結婚して公団住宅暮らしの専業主婦になった女性。すぐに子供が欲しかったが、授からないまま数年が過ぎる。
     主人の出張中、かつてのホステス仲間と再会し、話しているうちに暇なら手伝いに来れば、みたいな話になる。すると馴染み客が大勢いて、ちやほやされているうちに以前短時間付き合った男とホテルに行ってしまう。これでタガが外れたように何人もの男と遊ぶようになる。夫は出張中に女遊びをして病気をもらってしまい。彼女に有利な形で離婚が成立する。
     ホステスに戻り、遊びまわる毎日。自分にはこういう生き方しかできないと思いながら、いつまでこんなことが続けられるだろうか、と寒さを感じる。

    ・ふたり呑んべ
     葛飾区立石から世田谷の友人を病気見舞いに訪ねた男が、友人のすすめもあって帰り道に玉電、今は世田谷線に乗ろうとする。線路際の赤ちょうちんの風情に引かれて入ってしまう。隣同士になった客と妙に話がはずんでしまう。その客は店の目と鼻の先に住んでいる畳屋で、店の夫婦とも長い付き合いらしい。意気投合してだらしなく飲んでしまう。終電も無くなりタクシーで帰ることになるが、「昔はいつでもこんなことができた」みたいにしんみりして、名前はわざと名乗らず二人は別れる。

    ・夜泣蕎麦借着曙
     今は社長だ専務だ、とそれなりに一家を構える4人。十何年も前は4人で一緒の部屋を借りて、そこを拠点に会社ごっこみたいなことをやっていた。広告業のつもりだったが事実上は印刷のブローカーのようなもので、街を歩いて注文を取り、それを印刷屋に頼んで差額をポケットに入れる、というブローカーのようなものだった。マッチかチラシばかりだったがそれなりに儲かったが、忙しく自転車操業で、いつしか4人はラーメンの屋台で夕食をとり、そこでツケがきくようになってしまう。
     当時はワンマン・バーというのがあったそうで、ラーメン屋の親父はそのワンマン・バーのマネージャーでもあった。ただし名前を貸しているだけ。仲間の一人がそのワンマン・バーで女とよろしくやっているところに警察に踏み込まれたりして、彼らはこのラーメン屋とさらに仲良くなる。
     ラーメン屋はやがてスタンド・バーの店長になる。彼にはアイデアマンで金のあるバックがあるらしく、その人物は常に新しい商売のアイデアを求めているという。やがて4人もその人物を紹介されて次々にアイデアを出し、いずれも当たる。さらにこの男の紹介で大手の工場の広告もとれ、会社は大きくなる。だがこの男は奇妙なところがあって、せっかく成功した場倍をわざと犯罪がらみにしてだめにしてしまう。4人の会社は悪名ばかりが高くなる。
     男はやがて刺し殺されてしまうが、広告をとった工場は公害でニュースになる。4人は会社の解散を決める。

     という話を4人のうちの二人が部下と飲みながら話している。話すうちになつかしくなって昔の会社のあたりに行くと、ラーメンの屋台が出ている。
     

     という感じで、主に飲み屋さんを中心とする接客業の人たちが主人公。サラリーマンしかやったことのない人は、こっち側からしかこういう世界を見れない場合が多いので、小説であっち側の様子をのぞいてみたい、みたいに思うのかもしれない。
     昭和だな、と感じるけど今はどうなんだろう。もう決まった店しか行かなくなっちゃったので最近の流行とかにはうといのだけど。
     抜荷丸みたいな店は本当にやる人がいるかもしれないな。
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