「夢幻花伝(木原敏江著)」
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「夢幻花伝(木原敏江著)」

2018-07-23 19:00


    ・これも「大江山花伝」に収録。前編後編にわかれて150ページくらいあるボリューム。「井筒にかけし 麿が丈 生いにけらしな・・・」の歌にはじまって、舞台は室町時代。主人公は猿楽の座頭の大夫の息子。この時代、芸人は蔑まれているが鬼夜叉丸、通常は鬼夜叉と呼ばれる彼は頭がよく、一座期待の星。座頭もこれまでにない形式の芸を作ろうと、流行の田楽ではなく猿楽を名乗って興行している。彼の名は清次で、後の観阿弥である。
    鬼夜叉には亜火という一緒に育った娘がおり、二人で伊勢物語を読んだりしている。二人は大きくなったら夫婦になろうと約束をする筒井筒の仲。亜火は実はさるところの姫なのだが、紗王という兄が事情あって一座に預けたもの。猿楽を能という形で一段高い芸術として確立させようという清次は、様々な試みをしているが、なかなか知名度はあがらない。
     だがある日、足利三代将軍義満も見に来る京都今熊野での神事に参加できることになり、彼の目にとまって庇護を受ける事になる。さらに稚児でもある鬼夜叉は、義満にのぞまれて将軍の館で暮らす事になる。妬みの視線に囲まれてつらい生活だが鬼夜叉は嫌がらせに耐え、連歌の名手である二条良基は鬼夜叉に藤若という名を与えてくれる。稽古のために一座にも通うのだが、亜火と会う機会は少なくなっていく。
     藤若は貴族のたしなみを努力して身につけてゆき、自分の居場所を確保していく。義満の忠実な家臣で古武士の細川頼之はちょっと藤若を見直している。
     4年が過ぎ、藤若は16歳、亜火は15歳となる。だが藤若は義満の愛人という立場にあり、亜火と夫婦になるという約束は事実上不可能になっている。
     長く離れていた亜火の兄、紗王が一座に合流する。彼は清次の主家の血筋だが、一座をいやしい芸人ども、と見下している。紗王の片腕のような武緒はもっと酷薄である。武緒は菊池一族である。
     紗王は藤若が義満の寵愛を受けているのを利用して、まず亜火の名をかたって藤若を誘い出し、これを捕らえて自分が代わりに将軍の館に侵入し、将軍暗殺を図る。紗王は南朝の子孫で、清次はその家臣だったのだが、清次は昔の栄光など捨て、芸に精進したいとだけ思っている。紗王は義満の暗殺に失敗し逃亡するが、藤若は一味と疑われて有力貴族に捕らわれ、拷問を受ける。だが義満に救われる。
     亜火は紗王と都から逃亡し、藤若とは別れ別れになる。
     ここまでで前編終わり。

     かつては藤若を蔑んでいた館の女官たちも、今は藤若の美貌と確かな芸を認めてファンになっている。細川頼之は藤若の精進を知っており、同情的である。だが天下の6分の1を領するという有力豪族・山名氏清は藤若を認めない。義満の庇護の下、清次は次々に新しい作品を作り、藤若は舞う。舞っている間だけは我が身の無力さも、亜火を失った悲しみも忘れられる。やがて藤若は元服して結崎三郎元清となり、さらに4年が過ぎる。
     元清を都に残し、巡業に出た清次が駿河で客死する。太夫を継いだ元清は一座をまとめ、一層の精進を誓う。
     九州の海賊退治に失敗した山名氏清が失脚し、義満はあからさまに山名を差別する。義満は元清に海賊の首領は紗王らしいぞ、と教える。だが鬼の面をつけて海賊の首領を演じているのは、実は亜火だった。
    義満は厳島神社を訪れる。元清も一緒で、神社で能を舞う。観客の中に亜火がおり、二人は視線を合わせる。義満は元清の心の中に今も亜火がいることに嫉妬する。
     紗王から元清に呼び出しがあり、そこに行くと亜火がいる。久しぶりに言葉を交わす二人だが、亜火は自分にはもう資格がない、もう自分のことは忘れてほしい、と言い残して去る。
     間もなく紗王は喀血して死ぬ。そこに山名氏清がやって来る。

     2年が過ぎ、都を襲う鬼面の盗賊が現われる。実は氏清が力を貸しており、捕まらない。首領は兄の後を継いだ亜火である。山名は義満憎さに、鬼面の盗賊の力を借りて将軍家に取って代わろうとたくらんでいる。そして亜火には自分が権力を握ったら南朝の天子を都に迎えよう、と約束をしている。武緒は亜火には内緒でどさくさにまぎれて元清も殺そうとしている。
    亜火はこれを防ごうと、ひそかに元清の屋敷の警備を強化するように細川頼之に頼む。
     山名より一足先に義満が動き、山名の屋敷は大内義弘の兵に囲まれる。亜火や武緒はばらばらになって逃げる。亜火はせめて一太刀、と義満の下へ向かい、武緒は元清を斬ろうとして細川に討たれる。その際に、観阿弥を斬ったのは協力を断わられた紗王の命を受けた武緒であり、亜火は自分が元清の父の敵の一族になってしまったことから、元清の妻になる資格がない、と去ったのだった、ということを元清は知る。
     将軍の元に向う元清の目前で、亜火は将軍を護衛する兵士に斬られ、彼の腕の中で息を引き取る。将軍は、亜火と元清に負けたと思う。

     戦乱が終わり、元清は今も舞い続けている。

     観阿弥、世阿弥という名前は知っているけど、どんな時代にどんな生涯を送った人か、などというのは興味を持ったことも無かった。実際の記録がそんなに残っているわけではなく、ほとんどは作者の創作らしいが、うーんそんなこともあったのかもな、みたいに思う。
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