「めおと八景(山手樹一郎著)」
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「めおと八景(山手樹一郎著)」

2018-09-06 19:00


    上記の「のざらし姫」に収録されている、同じくらいの長さの中編。

    ・三番町にある500石取りの旗本、大江家の次男・愛作は22歳。兄夫婦から婿入りのための見合いを突然命じられる。当時の旗本では、次男以下はよほどのことがなければ一家を立てることができず、兄の厄介になって生きるしかないところ、ありがたい話ではある。相手は300石の旗本・高倉家のひとり娘で初音といい、美人だという。これまで何度も見合いをしたがなかなかいい縁がなく、どうも娘の方が片端から断わっているらしい。既に19歳という当時では行き遅れと言われかねない年頃で、父親が心配してもう誰でもいいから婿に、という感じらしい。兄嫁の父親と高倉家当主が碁敵という縁からにわかに起こった話らしい。
     愛作は兄を尻に敷いているこの兄嫁についつい口答えというか皮肉な物言いをしてしまう性分なので、ちょっと困るのだが断りもできずに承知する。だが「わかりました。振られてきましょう」などというのが彼の人柄である。

     この時代、黒船来航以来幕府は外国の圧力を受けて、国防のためこれまでの奉行所とは異なる陸軍という組織を作り、歩兵を募集した。だが旗本を歩兵にするわけにはゆかず、町人から募集した。人数合わせに、これまで日陰者だったごろつきがこれに大量に採用され、陸軍はすっかり無頼の徒の集まりと化してしまう。だか一応公儀の一員であるからもう町方役人には取り締まれない。町方から軍の上官に申し入れてもきちんと取り締まらない様子である。それをいいことに訓練が休みの日には小川町の屯所から町に出て来て悪さをする者が出て来て問題になっている。

     見合いに出向く途中の愛作は、そんな歩兵の三人組が若い町娘に抱きついて狼藉を働こうとするのに行き合い、これを注意するが当然そんなことを聞く連中ではない。だが愛作は巧みに身を交わして彼らを自爆させ、三人とも堀に落としてしまう。

     高倉家は神保町にあり、ここで出てきた初音はちょっと変わった女性だった。思ったことをはっきり言う娘で見合いなのに社交辞令がない。そして世情に興味を持っている。愛作は攘夷なのか、と聞いて来る。愛作が攘夷は不可能でしょうな、と答えるとそれは何故?とさらに聞いてくる。問われるままに愛作が幕府の政策の矛盾点などあげていくと、娘の眼は輝いてくる。ようやく話をできる男が現われた、という感じ。
     そんな感じで話が弾んでいるところに邪魔者がやって来る。陸軍士官の制服を着た男で初音のまた従兄で幼馴染・本郷保二郎。だが初音はこの男の品性を嫌っているらしい。保二郎は初音の美貌に(人柄にではない)惚れていて、これまでも陰で見合いをぶち壊してきたらしい。彼は次男なのでこのままでは陸軍で出世できず、初音の婿になって高倉家を継げば幹部になれる、という計算もある。今回も明らかに見合いの邪魔に乱入してきた様子。その場では初音がきつく言ったこともあっておとなしく帰ったが、恋敵でもあり彼の部下から町娘を守った愛作を敵視するようになる。

     しばらくして、初音から愛作を婿にしたいと返事が来る。兄嫁は大喜び。あっという間に結納を交わす。急いだのは初音が保二郎の妨害を恐れたこともあるらしい。結婚まであと七日となったところでそれを聞きつけた保二郎が案の定やって来て、愛作は陸軍に敵対的な人物なので結婚などしない方がいいぞ、と親切ごかしに初音を脅してくる。だが初音は何があっても愛作の妻になる、ともう心を決めている。保二郎はさらに愛作に例の三人を刺客に差し向ける。愛作が殺されればよし、三人の方が斬られても愛作を殺人犯として捕まえよう、ということである。愛作は挑発に乗るまい、と思いつつも結局二人を斬ってしまう。このまま家に帰れば兄夫婦にも、初音にも迷惑がかかると思った愛作はそのまま姿を消してしまう。

     翌日、愛作の兄のもとに保二郎がやって来て、愛作を歩兵殺しの犯人として取り調べる、と言い出すが、兄は本当に弟が悪いのですかな、と茫漠と応対し、保二郎も突っ込みきれずに帰ったら出頭させるようにお伝えください、とだけ言って引き下がる。兄はもう弟は帰らぬつもりだろう、と察している。仲人のもとへ、高倉家との縁談をどうするか兄は相談に出かけ、その留守に初音が訪ねて来て兄嫁が応対する。初音が知っているのはもちろん保二郎がいやみたらしく愛作がお尋ねものになったと伝えたからだ。

     その頃、愛作はお町という娘の家にやっかいになっている。昨晩どこに行こう、とさ迷っていた愛作に声をかけたお町は船宿の出戻り娘で、愛作は彼女に気に入られてこの船宿に泊めてもらい、お町の父、舟兼とも気が合って酒を酌み交わしたのだが愛作は酒に弱く、そのまま潰れてしまったのだ。お町には主人の娘に手を出して、一緒に逃げるはずだったが相手が来なかった、と本当半分嘘半分の事情を話してある。実はお町の妹は冒頭で愛作に助けられた町娘・お君だった。お町は妹に悪さを仕掛けた歩兵が斬り殺されたことを知っており、愛作がそれをやったこともわかっている。

     ここで愛作はお町に本当の事情を全て話し、曲がったことに嫌いな江戸っ子のお町は妹も恩人でもある愛作に、こうなったらぜったい初音さんを連れ出して駆け落ちしなさい、とけしかける。そればかりか初音との連絡役を引き受けてくれる。
     だがお町が初音を連れ出そうとしたところでごろつき二人に刃物を突きつけられる。お町は取り乱すことなく様子を見る。死に別れた亭主は新門辰五郎に縁のある香具師だったのでお町も度胸がある。
     お町は生き残りの歩兵のところに連れて行かれて愛作の居場所を白状しろ、と迫られるが、相手がお町の色香に迷ったところを簪で片目を潰して脱出する。

     その頃初音はお町から聞いた愛作の居場所にたどり着き、再会を果たすが、お町が姿を消したのに不審を感じた愛作は、無事を確かめるために出かけることにする。初音には待っているように申し付ける。だがお町はそれと入れ違いに帰ってくる。

     この後も「君の名は」なみにすれ違いが続き、一度は初音は保二郎の手に落ちたりするのだが、お町の助けや保二郎のあまりの卑劣さに部下のやくざが裏切って初音を逃がしたりして、愛作は保二郎と対決。拳銃を持つ保二郎の目をお町のつぶてが襲い、愛作がその一瞬に飛び込んで右腕を斬り落とし、廃人とする。ようやく出合った二人は祝言をあげ、江戸を後にする。幕末維新が迫る頃の話とある。

     非常に展開が早く、主人公とヒロインの境遇がどんどん変わる。あっという間に読み終えてしまう。ヒロインの名が初音ということもあって、底辺MMDERの私にはちょっと記憶に残る。


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