映画「500ページの夢の束」
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映画「500ページの夢の束」

2018-09-15 19:00
    ・公式HP
    http://500page-yume.com/

    ・SFマガジンの映画紹介ページで添野知生氏が取り上げていたので見にいってみた。

     悪い作品ではなかったが、ちょっと気になる点もある作品でもあった。

     ダコタ・ファニング演じるヒロインは、映画の中で言葉による説明は無いのだけど自閉症らしく、人の目を見て話すことが困難だったり、大きな声で話すことが苦手だったり、大きな音が怖かったり。いちいち首から下げているメモに書かないと何をしようとしていたかわからなくなったりする様子。ちょっと調べると自閉症の人は同時に複数のことを行うのが苦手らしく、何かに熱中すると、別の予定を忘れてしまったりするらしい。お金を数えることも苦手なようで、一枚一枚、あるいは一個一個紙幣や硬貨を重ねていかないと数えられないみたい。
     施設のようなところに入居して、同じような患者たちと共同生活をしている。患者の症状は様々なようで、直立して歌い続ける女性もいれば、身体を揺らし続ける男性もいる。
     この施設のソーシャルワーカーであるらしい女性は彼女にいろいろ課題を出す。毎日の習慣みたいなものが自分では何をすべきか判断つかないのか、何時に洗面、何時にシャワー、みたいに時間割と、何曜日は何色の服、みたいに指示されたとおりにそれを復唱しながら生活している。
     パン屋でアルバイトもしているが、接客はできない様子で、試食品の紹介やパンにクリームを塗る、みたいな仕事をしている。同僚が時々話しかけても、あまり返事をしない。

     彼女は21歳だが、施設に入ったのははっきりわからないけど最近みたい。ソーシャルワーカーも彼女の人柄を完全に把握していない様子が見える。
     父親はおらず母親はシングルマザーだったようで、その母親が亡くなったあとは姉と暮らしていたが姉が結婚し、妊娠したことが彼女が施設に来るきっかけになった様子。
     姉は妹を持て余し、恐れている。彼女は感情を抑えられずに突然激昂して乱暴な行動に出ることがあり、身重の身体で彼女と接するのは不安だったみたい。今はその子供は生まれているが、その子供を妹が抱く事も心配で、妹に家にいてほしくない。

     姉は事情はよくわからなかったけど、経済的な事情から今住んでいる家を売りに出している。ここはヒロインが母親と姉と一緒に育った家であり、ヒロインは内心これに反対している。なので姉が面会に来ても、この話のあたりでヒロインは感情を爆発させてしまう。
     姉は妹に愛情がないわけではないのだが、家に引き取って一緒に暮らすことは無理だ、と感じている。

     そんな生活を送るヒロインの楽しみは、テレビ番組のスタートレック。施設のテレビをいつでも見れるわけではないようだが、再放送なのかオンデマンドなのかわからないけど、日課に週何回かわからないけどスタートレックを見る時間が組み込まれている。
     そして今、彼女はスタートレックの脚本を書いている。スタートレック50周年ということで、高額な賞金がついた脚本コンテストが開催されているのだ。彼女の脚本は500ページ近い大作となり、ほとんど完成しているが締め切りぎりぎりまで彼女はこれを推敲し、完璧にしたいと手元に置いている。
     ソーシャルワーカーにも読んでほしい、と渡してあるのだが、ソーシャルワーカーはそういう方面に興味が無いようで、スタートレックとスターウォーズの区別もつかない人。
     一応読もうとするものの トリブルって何?など、スタートレックファンなら当たり前に知っているので何の説明もされずに登場するもろもろにつっかかってしまって放置してしまっている。
     そして郵送するなら今日が投函期限という日。その日が姉との面会日で、またしても面会中に彼女は激昂してしまう。そのため全ての予定が吹っ飛んでしまい、夜になってようやく冷静になった彼女は絶望する。締め切りまではあと3日あるが、明日も明後日も日曜と祭日で集配はない。締め切り当日に出しても間に合わない!
     彼女はアルバイトや犬の散歩をのぞけば、勝手に町中に出かけることは禁じられているみたい。特に彼女にとって、信号を渡ることは危険であるらしく、この通りを渡ってはいけない、といつも自分の心に言い聞かせている。
     でも、期日に間に合わせるためには、もう直接持っていくしかない、と思いつめた彼女は翌朝早く、施設を脱走する形で脚本を届けに行く。禁じられていた信号を渡って、彼女にとっての未知の世界へ。
     長距離バスの切符を買うことも乗ることも、彼女にとってはこれまで経験したことがない出来事。ようやく乗れたバスもトラブルが発生し、途中で降ろされてしまう。彼女の施設はサンフランシスコにあり、脚本の届け先はロサンゼルス。
     東京から岡山ぐらい離れているそうで、降ろされた地点からも300キロくらいあるみたい。さらにサンフランシスコまで乗せていってあげる、と言ってきた親切そうな女性に騙されてお金とアイポッドを奪われてしまう。メモ帳だけは返してもらったのだが。

     世の中と周囲の人のフィルター無しに接した彼女は悪人からは絶好のカモで、障害のある彼女は騙されていることにも気付けない。だが孫が同じ病気を持っている、というおばあさんが助けてくれる。だが彼女の親切が災いしてさらに大きな困難に・・・

     このおばあさんが良きアメリカを感じさせるすごくいいキャラクターなのだが、途中でふいに消えてしまってどうなったかわからない。ここはどうなったのか教えてほしかったな。
     ヒロインが自分を助けてくれたこの人のことを全く気にかける様子が見えないところはちょっとひっかかる。

     予告でネタバレしているので書くけど、彼女は警官に追われるようになってしまう。追い詰められる彼女は興奮していてどんな自暴自棄な行動に出るかわからない。
     そんな時に、その警官が彼女がスタートレックグッズを持っているのに気付いてクリンゴン語で話しかけてきて、彼女は冷静になる。この警官のシーンはいいです。

     ほかにもネタバレになるので書かないけどもうダメダ!というピンチが何度も彼女を襲う。いい人に会って助けてもらってめでたし、とはならない。接する人々の多くは、意地悪でもないけど特別親切でもない。だがらヒロインの意志が重要になる。
      ソーシャルワーカーと姉も彼女を探してロサンゼルスに向う。ソーシャルワーカーの引きこもりっぽい高校生くらいの息子が同行する。彼はスタートレックに詳しい。

     投函期限の17時まであと何分も残っていない。間に合うのか。間に合ったとして、彼女の脚本は入賞できるのか。その結果はヒロインの人生にどんな影響を与えるのか。

     脚本の主人公はスポックで、異星人とのハーフであるために地球人との交流に苦労する、本来感情を持たない種族なのにハーフなので彼だけ感情を持って生まれ、地球人の感情が理解できずに周囲に溶け込めず、一方自分自身にも感情があることに気付いてその扱いに苦悩するスポックとヒロインは自分を重ねている。
     そしてスポックに信頼できる上司であり友人でもあるカークがいたように、ヒロインにとってカークにあたる人が誰なのか、ということに、この旅を通じて気付くようになる。

     彼女はいい方に変わっていくだろう、と思わせて終わる。

     ヒロインの姉を演じるのはリブート版のスタートレックでカーク船長の奥さんになる筈のキャロル・マーカスという女性を演じた役者さん。
     ソーシャルワーカーの名前はエンタープライズ号の機関長と同じスコッティ。
     というあたりはスタッフの遊びなのかな。

     ヒロインが見るテレビ番組、という形でちょっとだけスタートレックのシーンも映る。

     スタートレック本家はAXANAR事件とでもいうべきトラブルを起こし、いろいろ設定にこだわる古いスタートレックファンを新作制作の妨害になるから切り捨てる、という態度を示したそうで、具体的にはファンが作った二次創作映像を著作権侵害で訴えようとした。最終的に訴訟は回避されたが、ファンムービーは時間や金額に制限がつけられ、プロが協力することを禁じられるなど、事実上作れなくなったらしい。

     本家とファンが支えあってきた、創作の理想の在り方が失われてしまった。
    同様のことは、規模は違うがスターウォーズやウルトラマンなどでも起きているみたい。

     ヤマト2202なんかも旧作のファンは邪魔だ、という姿勢が見えないでもない。

     話がそれたけど、もっとスタートレックファンならニヤリとするような凝ったネタが一杯出て来るのかな、と思ったのだけどそうでもなく、旧作の映像もチラッとしか映らないのを見て、そんなことが影響しているのかな、と思ったりした。
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