「動乱星系(アン・レッキー著・赤尾秀子訳)」
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「動乱星系(アン・レッキー著・赤尾秀子訳)」

2018-09-21 19:00


    ・同じ著者の三部作「反逆航路」「亡霊星域」「星群艦隊」は3作合わせて著名なSF賞を13個獲得したとのこと。この作品はこれら三部作と同じ世界を舞台にした続編。ただし主人公は異なる。
     舞台となる世界では、人類が銀河に進出して、強大で凶暴な知的生物と遭遇し、一方的に負け続ける。その生物はプレスジャーと呼ばれている。人類はなんとか彼らと条約を結び、破壊行為を止めさせることに成功する。プレスジャーではない知的生命体・ゲックとルルルルルもさらに同じ条約に加わる。人類側からこの条約を破るのは死を意味する。実際には人類はいくつもの勢力や星系に分かれているのだが、最も多くの版図を持つ「皇帝」が人類を代表して契約を交わした。お前など人類の代表ではない、とこれに反発する勢力もあるが、条約によってプレスジャーの暴虐は無くなった。プレスジャー側から見れば、皇帝派も反皇帝派もみな同じ「人類」なので、反皇帝派が条約を破っても条約は失効する。そうした危うい状態でかりそめの安定状態が保たれている。
     皇帝の版図では、男も女も、「彼女」という代名詞で呼ぶことになっている。皇帝の版図ではない、あるいは支配された星系では男女を区別する場合もあるが、帝国としては「彼女」という代名詞しか使わない。なので読者はこのキャラクターは男なんだろうか女なんだろうか、と混乱する。
     また、この世界では人格を持ったAIが存在する。(帝国の呼び方に従えば)彼女らは宇宙船であったり都市であったりもするが、人間の姿を持って宇宙船に乗り込んだり都市に住んだりもする。AIのボディは帝国に征服された星の人間の肉体であることが多く、宇宙船に乗り込む人間の肉体を持ったAIは宇宙船のAIのコピーで、何人もいる他の人間AI乗組員と共通意識を持ったりする。三部作ではそうしたAIの一人が主人公だった。
     皇帝は何百人もクローンがいて意識を共有しており、事実上不死なのだが、クローンが銀河中に存在するため意識共有に時間差が生じ、本来同じはずの人格が分裂し、互いに争いはじめてしまった。人類の銀河帝国は内乱状態にある。プレスジャーとの条約を破らないよう、気を使いながら。

     今回は辺境の星系が舞台で、ここでは代名詞を「彼女」と統一しているわけではないようで、主人公はある有力政治家の養女とある。施設から政治家に引き取られて跡継ぎ候補として育てられているが、同じように引き取られてきた兄ほど出来がよくない。跡継ぎ候補は3人いたのだが、競い合う環境に疲れて1人は脱落してしまった。彼女も兄にはかなわないと思っているが、政治家の庇護を失うと生きていけないので脱落もできない。
     義母に認められるために内緒で私財を投じ、ある人物を流刑地から救出しようとする。この人物は母の政敵のある情報を知っている筈なのだ。だが、救出した人物は(姿形がそっくりなのに)その人物ではないという。これが失敗であれば、彼女は跡継ぎ失格として財産も地位も失って、いち市民として出直さなければならない。義母や兄に嫌われて、マイナスからのスタート、一生貧困からは抜け出せない人生になるだろう。彼女はなんとかこの人物に協力してもらいたいのだが、なかなかうんと言ってくれない。

     彼女が帰り道に雇った宇宙船の船長は、人類の姿をしていたが違う生命体の一つ・ゲックだった。ゲックは本来水中で生活する生命体らしいのだが、彼はエラが発達せず、ゲックの世界で落ちこぼれとなって、ゲックの宇宙船を盗んで人類世界に脱出してきたのだ。ゲックは通常自分たちの星域から出ない内向的な生命体なので、これは異例のことである。

     というわけで政治家の養女である彼女と、彼女が流刑地から連れ出した、目的の人物とそっくりだが別人の犯罪者と、人類ではないゲックの船長に縁が生じることになる。犯罪者は彼女が探しにいった人物になりすますことにようやく同意してくれるが、正体は謎である。

     その背景で、銀河中が今ピリピリしている。人類・プレスジャー・ゲック・ルルルルル、という四つの生命体が参加していた条約に、第五の生命体が加盟を申し出てきたらしい。各種族の代表はその是非を論ずるために集まらなければならない。第五の生命体とは、人類が生み出したAIである。このAIは、三部作に登場する主人公。

     本作の主人公である政治家の養女は母星に戻り、ライバルでもある兄に足元をすくわれないよう慎重に行動する。意外にも、そっくりだったが自分が連れ出したい人物ではなかった人物は、完璧にその人物を演じきり、兄も疑わない。そんな中、母の有力な後援者であった別の星からの客人が殺されるという事件が発生する。

     というあたりまでが裏表紙に書いてある大雑把な内容をちょっと詳しくしたもの。以降はネタバレを控えるけど、貧乏な家から施設に預けられ、政治家の養女になったヒロインが自分の立場を確立しながら友人や恋人ややりがいのある仕事を得ていくサクセスストーリーみたいになっている。

     ヒロインの故郷の星は、近隣の星からたいへんな苦労をして独立した過去があり、周囲の星には互いにいがみ合っていて、戦争になりそうなところもある。だが星間ゲートを通らないと戦争はできず、その星の一方は故郷の星のゲートを使わせろ、と圧力をかけてきている。

     一冊で完結するが、この続きは先の三部作と合流することになりそうに思わせて終わる。

     この作品世界では、人類の性別は「男性」「女性」「無性」の三種類がある。無性がどういう存在かはあまり語られないのだけど、無性は男性とも女性とも交際できるらしく、女性同士、男性同士、男性女性どちらかと無性のカップルも成立することになっている。無性同士でもいいんだと思うけどよくわからない。
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