「青頭巾(木原敏江著)」
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「青頭巾(木原敏江著)」

2018-11-20 19:00




    ・人間の中に混じって暮らしている、鬼や精霊妖魔変化のものどもについての話を、歴史的な出来事や古典文学から題材をとって描いた「夢の碑」というシリーズが著者にはあって、これもその一つ。掲載誌が一つだけではなかったり、コミックスも単行本サイズや文庫サイズで版形を変えて出たりして、一度完結とされたあとにもまた追加されたりしているみたい。
     私の手元にあるのは小学館文庫版の青頭巾で、夢の碑2と書いてある。

    ・青頭巾
     平家が権勢を誇った時代、平家打倒の企てに加担したとして主人は流刑となり、謀反人の一族として落ちぶれて暮らしているかつての名家、桜館と呼ばれた一族がある。現在の当主は17歳の美形。名を秋篠という。
     かれには一緒に暮らす颯子(さっこ)という許婚者がいるのだが、窮乏した生活をなんとかしたいとかねてよりかれに秋波を送っていた照姫の男になることを承知する。照姫は清盛の孫娘であって溺愛されていており、彼女の力で秋篠は謀反人の子としては異例の出世をし、昇殿も許される。照姫には名ばかりの夫、藤原元陽(もとはる)がいる。藤原家は落ち目の名門という感じ。
     強力な後ろ盾を持つことになった秋篠に陰湿な嫌がらせをする者も出るが、要人をうまく懐柔して足元を固めていく。
     だが照姫と颯子は相手の存在を互いにうとましく思うようになっていく。そんな時に先の帝・高倉帝が崩御し、次いで清盛も死ぬ。これで勢力バランスが崩れ、元陽は東国で平家に対し反乱を起こした源氏に与することを決意する。行きがけの駄賃に妻を奪った秋篠を捕らえ、お前は照姫と颯子のどちらを愛しているのか、と問う。
     帰らぬ秋篠を案じた二人の女は互いの仕業と疑い直接対決するが、真犯人は元陽と知ると協定を結んで共に力を合わせて秋篠の行方を捜し、岩牢に幽閉されていた彼を救出する。
     二人は協定に従って秋篠に問う。あなたさまは我ら二人のどちらを愛しているのかと。これで答えが出れば、二人はそれを受け入れる協定だったのだが、秋篠の答えは二人とも愛してなどおらぬ、我が愛するのはわれ自身のみ、みたいな回答をする。
     二人の女は同時にかれを刺し殺す。そして互いに殺し合い、二人とも崖下に落ちてゆく。

     以来、秋篠は二人の女を修羅に落とした罪と、自分しか愛さなかった罪で成仏もできず 鬼となってさ迷っているのだという。

     青頭巾というのは雨月物語にあるエピソードで、最愛の稚児の死に狂い、鬼となって里人を襲うようになった院主が通りすがりの聖に仏法を施され、聖のかぶっていた青頭巾を渡されてこれにすがって人の心を取り戻し、人として飢えて死んだというものらしい。

     秋篠には誰も青頭巾を与えてくれるものはおらず、さ迷い続けるみたい。

    ・水面の月の皇子
     北朝方の手勢に襲われ、南朝の皇子・紗王は従者の武緒と二人だけとなり、武緒は重傷を負っている。舟で川を下るがこのままでは武緒は助からないかもしれない。
     そこに青柳を名乗る地元の長者が助けを差し伸べる。この館には主の幼なじみだという ましろ という姫がおり、姫は武緒を命の恩人と慕っている様子。武緒には覚えがないのだが。彼は九州の豪族・菊池の末裔である。

     追っ手は青柳の館にもやって来るが、よほど凄腕の忍びがいるらしく全て庭の柳にからめとられるように死んでいる。

     武緒は紗王の守役として一瞬もそばを離れたくないのだが、ましろは二人で過ごそうとつきまとう。実はましろは白蛇の精霊みたいので、犬にやられるところを武緒に助けられたことから好きになっていたのだ。青柳は彼女が棲む柳の木の化身。屋敷に働く従者たちも狐狸河童天狗に兎といった面々だった。
     
     武緒は自分は紗王に仕える身、南朝復興に頭がいっぱいの今、ましろの求愛に答える余裕などない、と断わるが、ましろはそれなら紗王に聞きましょう、と彼の心をのぞく。
     そこには復讐の気持ちしかない、満ちているというべきか空虚というべきか。
     そして紗王にはあやかしたちの姿も見えず、声も聞こえていない。自分たちが認識もされていないことを知り、あやかしたちは去って行く。ましろは涙ぐんで武緒を見つめて消えてゆく。武緒は紗王とどこまでも共に行くだけ。

     紗王と武緒主従は「夢幻花伝」という作品にも登場する。
    http://ch.nicovideo.jp/metabou/blomaga/ar1629613

    ・読み人知らず
     たぶん右大臣家の荻の少将という美貌の若者が、日に日にやつれていく。どうももののけに憑かれているらしいというので、都で評判の明神の行者という者が呼ばれ、もののけの正体を喝破する。それは竜田姫という行者が唯一取り逃がした魔で、魔と悟る前は恋人同士であったらしい。行者は彼女に恋し心を奪われ、それが魔としての人間の心をもてあそんだ愉しみにすぎなかったと聞かされて彼女を追っている。だが竜田姫はわたしは憎まれねばならない、みたいなことを眷属に言っている。
     ついに行者は竜田姫の居所を探りあて、姫を倒す。そこにはなぜか荻の少将と、同じように姫にだまされていたところに行者が乱入して助けたことのある公達がいる。
     行者は姫にわざと俺に討たれたな、ととどめをささずに姫の本心を問いただす。そして姫も自分も愛し合っていることに気付く。それを姫に言うのだが、姫は苦しそうな表情し、この事態を恐れていた、と悲しむ。やがて行者の身体は溶け落ちてしまう。
     実は行者もあやかしの仲間で氷雪の精霊みたいなもので、恋をすると溶けて死んでしまう身の上だった。だから途中でそれに気付いた姫は愛する相手が溶けることの無いよう、憎まれ続けていたのだった。
     そこでよく説明がないのでわからないけど徳の高そうな事情を知っているような人っぽいものが行者を蘇えらせ、めでたしめでたし。
     荻の少将は自分もいつか竜田姫のような相手と出会いたいと言って去り、もう一人の公達も去る。彼が帰ったのは和泉式部のもと。彼の名は師宮(そちのみや)だった。
     和泉式部と師宮は実在の人物みたいだけど荻の少将はよくわからない。

    ・封印雅歌
     ジャンヌダルクが処刑された頃の中世ヨーロッパにプロシオン家という名家がある。武名の高い領主がおり、強国のブルゴーニュと同盟関係になったがこの領主が死ぬと立場が難しくなる。男子が二人いたのだが兄は弟に家督を譲り、僧院に入ってしまう。兄は妾の子、弟は本妻の子であるが弟は兄を敬愛しており、兄にはかなわないと思っている。兄が家督を継がなかったことに不満である。
     兄弟の幼馴染の女性がおり、彼女はどちらにも嫁がずにある貴族のもとへ行き、公爵夫人となる。だが兄弟との友情は続く。
     名家だが武勲をたてねばならぬ立場でもある。兄弟はブルゴーニュと共にフランス軍と戦い、戦死する。
     その陰にいろいろBL的なものも含めた愛憎劇がからむ。

    ・影に愛された男
     19世紀中ごろ、百塔の町プラーグ(現在のプラハ)のプラーグ大学にティルマンという学生がいる。彼はフェンシングの腕がたち、美貌の人気者。女性にも人気があり、娼婦まがいの商売をしているベラというジプシー娘は彼に首ったけである。
     そして男友だちも多く、彼の実家は粉屋であまり裕福ではないのだが仕送りを馬鹿なものに使ったりしても金を立て替えてくれる親友・ギオルクもいる。ティルマンはこのようにちょっと無軌道で軽く思慮も浅いのだが人からは好かれている。
     ティルマンはやはり学友のレオポルドからカウル・ロートという青年を紹介される。最近ウィーンから越してきたカウルは大金持ちの息子だが、火事で右半身に火傷を追い、顔の半分を隠すマスクをしている。右手の手袋は決して取らず右足も引きずるなど不自由もある。その火事で一族も失い、今は使用人とともに大きな屋敷に住んでいる。そんな事情なので彼は陰気だが元々は美少年だったという。

     ティルマンは兄の事業が思わしくなく仕送りを止められる。やむなく家庭教師のバイトをするがその家が馬鹿親に馬鹿息子で思ったことを口に出してしまい、仕返しに嫌がらせをされるところをカウルに救われる。馬鹿親子はカウルの父に恩があった。
     これを機会に二人は親しみ、ティルマンはカウルの冨を、カウルはティルマンの美をうらやましく思う。
     カウルは財力で大学の上層部に働きかけ、ティルマンを学費免除の特待生にしようとするがティルマンは卑怯なことをするな、と断りカウルに文句を言う。そこでカウルは発作を起こして倒れてしまう。
     怒ったのも忘れてカウルを家に送り、そのまま泊まる事になったティルマンはカウルから彼は病であと半年ももたないこと、それまでの間親友でいてほしいことを告白され、断われない雰囲気で親友としての血の儀式なるものをさせられる。

    それからティルマンは変わる。伯爵家の令嬢を馬の暴走から助けたことから気に入られ、貴族の館を訪問するようになるがそれにはそれなりの服装とか乗り物が必要になる。そういったものをカウルに露骨に頼むようになる。ギオルクはそんなまねはよせ、と忠告するがカウルはかまいませんよ、私と彼は何でも分かち合う約束をしたので、と鷹揚である。

     ティルマンはカウルと待ち合わせがあったにもかかわらず、途中でベラと会ったので彼女と遊びに行ってしまう。雨の中待ち続けたカウルは発作を起こして死んでしまう。だがカウルの遺言で彼の財産は全てティルマンに譲られる。
     カウルの屋敷に移り住んだティルマンは、何かが体の中に入って来る夢を見る。それから妙に疲れやすくなり、伯爵令嬢と約束があるのに疲れて眠ってしまったりする。だがあとから聞くと自分が眠っていた時間に令嬢と会っていたという。他にもそんなことが重なり、自分の偽者がいるらしいとティルマンは気付く。このことが原因でベラが去る。
     カウルの墓地を訪れたティルマンはそこで自分の偽者に会う。それはカウルだった。カウルは魔術を使って自分の肉体が死んでも魂は残り、ティルマンが眠っている間はその肉体に入り込んで彼として行動していたのだった。若く健康で美しい身体を手に入れて。このため本物のティルマンは生気を吸い取られ、衰弱していく。
     本物と偽者の魂の強さは逆転し、偽者の影は濃く、本物の影は薄くなっていく。
     直接対決しようとしたティルマンはカウルに敗れ、魂も失ってしまう。

     その日からティルマンは少し口調も変わり、これまでの奔放な感じから大人びた感じになる。ギオルクたち友人は彼がようやく人間的に成長したと喜び親交を深める。ティルマンはこれまでよりもいっそう人に愛されるようになり、生涯を過ごしたらしい。

    和洋とりまぜて、歴史的背景を示してその時代ならではのドラマが展開されて、一部例外はあるがそこに人間では無い魔のものがからむ。
     上田秋成作品が下敷きになっているものも多いらしい。私はよくわからないけど古典文学や能や謡曲なども作中に出て来て執筆当時(今でも)そうした素材を上手く面白く漫画にできる人は少なかったと思われるので、そうしたものに惹かれる読者にとっては夢中にならざるを得なかったろう。
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