「旧暦屋はじめました(春坂咲月著)」
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「旧暦屋はじめました(春坂咲月著)」

2018-11-25 19:00




     以前読んだ「花を追え」
    http://ch.nicovideo.jp/metabou/blomaga/ar1687077
    の続編。一作目では仙台が舞台だったが今回は奈良が舞台。というのは前作で高校生だったヒロインが親元を離れて奈良の大学に通うことになったから。そこで彼女の恋人未満の保護者のようなイケメン和裁士とその相棒のコワモテ呉服商も仙台から奈良にやって来て、彼女の家の近所に旧暦屋という仕立屋を開業する(旧暦屋をイケメンとコワモテが共同経営しているわけではなく、コワモテは別の店(呉服屋)を経営していて、店内のスペースをここはイケメン、ここはコワモテみたいに分け合っている。だが実際はコワモテ経由でしかイケメンは仕事を請けないので同じようなものである)。

     ヒロインは和裁士より10歳年下で、その年齢差がなかなか二人を近づけない。和服にトラウマを持っていたヒロインは前作で和裁士のおかげで一応そのトラウマを乗り越えたのだが、かといって急に和服を着れるものでもない。和裁士に心ひかれるものもあり、和裁士の方は本心を隠さず僕のところにいらっしゃい、とウェルカム状態なのだがそちらもすぐにふつつかですがお願いします、というものでもない。なんだけど時々お店には顔を出して、食事にお呼ばれしたりする。友人でも恋人でもちょっと実態に合わない間柄。前作ではヒロインは篠笛をやっていたんだけど、大学進学後はやめてしまった様子。

     やがて小遣いかせぎにと時間を見て旧暦屋でアルバイトをするようになる。和裁士は和服文化の衰退をけっこう真面目に憂いていて、いかに若い人に和服に親しんでもらうかということには熱心であり、素人のヒロインの意見を真摯に受け止める。
     ヒロインが反物を見ても仕上がりのイメージがわかない、と言えばビスクドールとかいうフランス人形に和服を着せて見本を作る。反物のままでは触ると叱られそうで手触りも確認できない、と言えば同じ布地を使ったハンカチやショール、袋物などを作って気軽に触れるようにする。

     和服や帯の柄や文様や小物の組合せによって、いろいろな意味を組み合わせた洒落を楽しめる、なんてことをビスクドールのしつらえで啓蒙する。
     ヒロインはそんな店で時々アルバイトをするにつれて門前の小僧なんとやらで何気に実践的な知識を増やしていく。その手に乗るか、と思いながら。だが彼女は頑として和服は着ない。仕立屋であり呉服屋であり和装小物店でもある店の店員なんだけど、ジーパンで通す。
     だが次第に客がつき、和裁教室の生徒などがやってくると、何でジーパンなの?みたいな視線を向けられるようになる。そして実は、ヒロインは和服を着るとものすごく映えるタイプで、腰も胸もストンとしてて洋服だと目立たないが、和服を着ると下手な着付教室の生徒など足元にも及ばないオーラを発したりする。和服を着るために生まれてきたような女性なのだから和裁士は彼女に和服を着せたくて着せたくて仕方ないのだけど本人は自覚なくて(相手は和服映えするのにギョッとして見るのだが、自分では私の和服姿は変なんだわ、みたいに思っている)やっぱり頑として着ないのである(ごくまれにやむなく着ることはあるのだけど)。

     旧暦屋と同じ横丁には、レトロな雰囲気でケーキのおいしい喫茶店が開業する。ここの女給さんは全員和装である。奈良という土地柄か、ご近所にも和服に詳しい年配のご婦人がいる。仙台でヒロインと仲がよかった和服に詳しい年配のご婦人も、仙台で見つけた表具屋の伴侶と一緒に店の離れで暮らしている。
     さらにブルドッグのような顔をしたもとIT企業のサラリーマンだった坊主とか(彼の寺では人形供養をする)も加わって、ヒロインの周囲には江戸時代や明治時代にいたようなタイプの人ばかり集まって来る感じ。

     そんな中、旧暦屋には和服に関する謎を持ち込んで来る妙なお客さんもやってくる。その度に和裁士が謎を解くのだが、どうも背後には誰かがいるような感じもある。その誰かの目的は何だろう?みたいな感じで話はすすむ。
     ヒロインは人の印象でぱっと適当なあだ名を心の中でつけちゃう性格で、しばらくその名で話が進行したりする。カナリアみたいなのでカナリーさん。ゆで卵みたいなのでゆでお。

     第一作もそうだったけど、今回も和服に関する様々な知識が出て来て、読むとなんとなくわかってくる。

     名古屋帯ってどんな帯? お太鼓って? 帯締と帯留の使い方は? 右前左前って?
    丸組平組ゆるぎ組。 セルジュの仲間。襦袢金巾呉絽服連に繻珍別珍。広衿バチ衿。

     和服は季節に合わせるものだから、自然旧暦の話題も出て来る。もともと旧暦というのは閏月がいろんなところに入って単純に新暦換算すると季節がずれる。二十四節気も大陸基準でずれる。そこで七十二候を参考にすることが多くなり、和服の柄も七十二候から選ばれたりする。
     和歌や能を知っている、という前程で文様が選ばれたりもするので、古典の知識も必要になってくる。そうしたところが和装への敷居を高くしたりもしているのだけど、面倒くさいのが面白いところでもあるというのがイケメン和裁士の考え方になる。

     以下内容を備忘用に。

    ・プロローグ
     開店前のイケメンとコワモテの会話。対策委員長は俺か!?

    ・旧暦屋、はじめました
     開店まもない時期のエピソード。ヒロインバイト開始。カナリーさん来店。着物の達人風の老婦人。店先のフランス人形3体(亜子、米子、聖子 フランス語のABC)の着物で行き先を当てる趣向。客(ゆでお)が持ち込んだ人形の謎。葦始生。

    ・セルの頃
     お隣に喫茶店「セルネル」開店。店主は人形マニアで和裁士の従兄。カナリーさんはくゆりさん。セルジュの仲間を探すヂミぃさん。竹笋生。バイトを辞めると言い出すヒロイン。

    ・小さく満ちて
     和服を着ない自分は店の邪魔と思うヒロイン。店を辞めるならこの謎を解いて。カブキブラシ。ヒロイン誕生日。紅花栄。旬は十日でタケノコ。店内の手水鉢。嫌味なくスマートに美しく。たまには、休んでくださいね。
     
    ・花色衣
     人形供養の坊主。をとめの姿しばしとどめむ。ガハダフレン。遣らずの雨。大仏蛍。腐草為蛍。蟷螂生。

    ・八重の一番長い日
     夏至。きぬ、よして。具註暦。紅花夫人。渋々和服を着るヒロイン。美しき人参る。 顔佳花。雛菊。箪笥の肥やしを増やそう。選ばれた目撃者。 
     八重というのがヒロインの名前だが桜ではなく牡丹が由来。

    ・エピローグ
     

     着物に関するいろいろなこと、文章ではきちんと説明してあるんだけど、文様や着付けなんかは百聞は一見にしかずなのでドラマなり映画なりになったらさらに良さそう。ただ真面目にやったら人間国宝の作った着物なんかも出さないといけないのでものすごくお金がかかりそう。
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