「たのしい話いい話(文芸春秋編)」⑬矢野誠一氏
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「たのしい話いい話(文芸春秋編)」⑬矢野誠一氏

2018-12-25 19:00


    ・今では当たり前になった、大劇場でのワイヤレスマイク使用。昔の演劇評なんか読むと客席の後ろまで声が届かないのは発声ができていない未熟な役者ということになっていたが、当時とは劇場の規模も違いいたしかたないところか。マイクも小さくなったし。

     その普及時の失敗談。ある大女優さんが舞台から引っ込み、マイクのスイッチを切らずにトイレにいって一部始終を客席に実況中継してしまったという。この大女優がどなたかは諸説ありすぎて特定できなくなっているらしい。歴史的真実が必ず確認できるとは限らない例。

     警備員やおまわりさんが耳にイヤホンを入れていることがある。当然指令をこれで受けているのだろうが、これをラジオと思って今巨人勝ってますか、と聞いて怒られた人の話。ちょっとできすぎの気もする。

    ・著者の知人の中で唯一社長という肩書きを持つ人物であった出版社社長のH氏は相撲と演劇が道楽だったという。

     SF・ミステリ出版社として知られている早川書房が演劇専門誌も地道に出し続けているのをはじめて知った。

     肩書きについて。著者は演芸評論家の肩書きを持つが、あるときバラの栽培法について質問された。家事評論家を消防関係者と誤解したこともある。友人の倉本聰さんがシナリオライターという肩書きをライターのセールスマンと思われたのは有名な話。

     言葉に対する大阪のこだわりと東京の無関心。「まんまんなか」という東京ことばは「どまんなか」という大阪言葉に駆逐され、大阪で質屋はいつになっても「ひち」「ひちや」。

     大阪の合理的とは、無駄金を使わないのではなく支払うべき金をいかに支払いを引き伸ばしてうまく忘れてもらうか(私が言ってるんじゃなくてそう書いてある)。

     テレビがニセ役者を駆逐した話。ここでいうニセ役者とは沢田正二郎でなく沢正(さわただし)という無関係の役者が興行をうって勘違いした客を集めるみたいな。森昌子じゃなくて森日日子とか。テレビの普及によってこうしたニセ役者の地方公演は無くなっていったという。

     黒澤映画によく出演していた藤原釜足さんは、戦時中は鶏太だったらしい。釜足の名付け親はサトウハチローさんで、読みは本当は「カマアシ」のはずだったという。

     芥川比呂氏さんが、ある落語家の未亡人を「江戸前のモジリアニ」と評した話。

     著者が越路吹雪さん宛てに中国土産にハンコを彫ってもらったらコシジフキグモだった話。

     著者がニューヨークに行き、ホテルのバーでピクルスを頼もうとキュウカンバーとかコンコンブルとかジャパニーズ・キューリとか言ったがわかってもらえない。ちょうど食べている人がいたので指差すと「オウ、ピクルス」ときた。

     著者は戦後の新制中学の一期生だったが、授業中に突然中年男が入って来て傘や石鹸を売ったという。物資不足の時代なので闇屋が学校に出入りしているんだと思ったが、2年に進級したらその男が漢文を教えていたという。

     上級生に高名な画家の息子がいて、休み時間にタバコを吸っているところを見つかってしまう。親の画家が学校に乗り込んで来て、俺が許しているんだからいいだろう、とねじ込んで家庭内ではともかく学校ではおやめくださいみたいなことになったという。
     この時代からモンスターペアレントはいたらしい。そんな公認のされ方で自分だけ吸って楽しいのか。

     新劇俳優だった中村伸郎氏についてのエピソードが多い。固有名詞を覚えられない人で、タバコ屋で「セブンイレブンください」とマイルドセブンを買い、自分の車の車種を「ニッサン・コロナ・マーク2」と言っていたという。

     著者がものを書いた時に間違えた話。品川の八つ山という地名は、日本橋を七つ立ちして品川に着く頃の時刻が八つだからと書いたが、江戸の数え方だと七つの次は明け六つだという。

     著者と交際があったいずみたくさんが六本木にアトリエ・フォンティーヌ・ビルというのを建設中、オイルショックで資金繰りがつかなくなった。
     せっぱつまったいずみたくさんは一面識もなかった紀伊国屋書店社長・田辺茂一氏に面会して窮状を訴えた。田辺さんは黙って小切手を切ってくれたという。
     借金の返済後、銀座でおごると約束したが、果たせぬまま田辺氏は彼岸の人となったという。
     そのアトリエ・フォンティーヌは日本のミュージカルの拠点となり、2012年に老朽化のため閉館したという。

     今田辺氏のようなことをする社長がいたら、マスコミはどう扱うか。経理上の扱いはどうだったのか知らないが、不正として報道されちゃったかも。
     ゴーンさんだったら出したろうか。

     事故で亡くなった太地喜和子さんについてのエピソードあれこれ。サービス精神が逆に取られてマスコミの被害に合うことも多かったという。

     銀座やなぎ句会というものについてもいろいろ書いていて面白いけど、かいつまんでも面白さが伝わらないので省略。

     矢野誠一氏は演劇評論家、演芸評論家とこの本には書かれている。

     早川清文学振興財団という所の理事もつとめているみたい。
    http://www.hayakawa-foundation.or.jp/
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