乙女の湖(ヴィッキィ・バウム著)
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乙女の湖(ヴィッキィ・バウム著)

2019-01-27 19:00




    ・検索しても書籍としての情報があんまり無くて、映画ばかりヒットする。
     映画のあらすじはこんな感じ。
    https://movie.walkerplus.com/mv15035/

    上記サイトより解説を引用すると
    「家なき児」と同じくマルク・アレグレの監督作品で原作は「グランド・ホテル」の作者ヴィッキー・バウムの小説である。
     主演者はいずれも我が国には初見参であるがフランスでは評判の若手のジャン・ピエール・オーモン、ロジーヌ・ドレアン、シモーヌ・シモンの三人。これを助けて老練なミシェル・シモン、「アトランティド」のウラジミール・ソコロフ、それからイラ・メエリー、オデット・ジョアイユー、アスラン、モーリス・レミー等の人々が出演している。台詞は女流作家として知名なコレット・ウィリーが執筆し、音楽には「自由を我等に」のジョルジュ・オーリックが当り、撮影は「夢見る唇」のジュール・クリュージェが、そして装置は「パリ祭」「自由を我等に」のメエルソンが夫々担任した。
     とのこと。シモーヌ・シモンは名前を聞いた事がある。1933年のフランス映画との事で、DVDは2012年に出たようだけどよほどの映画ファンじゃないと見ていないんじゃないかと思う。
     原作者のヴィッキー・バウムという女性は発表当時はたいへん有名だったみたい。ウィーンに生まれてハープ奏者から編集者になり並行して小説を書くようになって今でいうベストセラー作家のはしりみたいになり、「ホテルの人々」という作品がグレタ・ガルボ主演でハリウッド映画になり、この機会にアメリカに移住したみたい。初期はドイツ語で、のちに英語で作品を発表したとある。写真を見ると美人だと思う。

     で、これは原作の方。今は日本ではどこからも新刊としては出ていない様子。なので読んでみた。
     ロマンチックなタイトルだけどあまりロマンを感じなかった。若い男性がそこにいるだけで女性が何人も周りに寄ってくる。彼はやがてそのうちの一人を選ぶんだけど他の女性ともついついラブってしまうみたいな。この時代の作品なのであまり露骨には書いてないんだけど、今時のラブコメとかの感覚だといわゆるハーレム系の作品のような。

     「乙女の湖」というのは舞台となる湖水地方の俗称であり湖の名前でもある様子。映画解説ではチロル地方ということになっているみたい。湖を見下ろすようにアイゼルナー・ツァーンという山がある。
     ウルバン・ヘルという26歳の青年が夏の行楽シーズンを前に、この地方にやって来る。乙女の湖には水泳場と砂浜浴場と日光浴場があり、アロイス・ビンドルという男が経営している。ヘルは彼に水泳教師として雇われてきたのだったが、これが本職というわけではない。化学技師だったが勤め先が合併したりして解雇され、再就職もうまくいかずにやむなく特技の水泳で当座をしのぐことにしたのだった。水泳ではいくつか国内記録ももっており、水泳連盟みたいな組織にも登録しているみたい。
     近くにはホテルも数棟あり、ペターマンホテルというのが大小二つある。テニスコートも隣接しており他に広場やレストランなどもある、わりと開けたリゾート地の様子。

     彼はここでビンドル氏に雇われ、水泳教師になる。固定給ではなく歩合のようで、生徒がいなければ収入はゼロ。彼は若くてハンサムなので、彼目当ての女性たちが若い娘から子持ちの人妻まで寄って来て天気さえよければそこそこ稼げる感じ。でもこの湖は避暑地だけあって水温は低く、水泳シーズンは短い。突然天気が急変して嵐みたいに土砂降りになったりもする。

     そういうわけで彼は稼いでも貯金できるほどではなく、洋服も靴も次第に古びていく。タキシードなども無いので正装が必要なホテルのパーティなどにも出られない。それでも若者らしいプライドと潔癖さがあって、他人のほどこしは受けようとしない。そのためいつも食事を抜いて腹を減らしている。

     彼の周りには大勢の女性が近寄って来るが、中でも熱心なのはマイという娘。彼女は大会社の社長令嬢みたいで、夏の間だけここの高級ホテルに滞在している。マイには双子のカルラという妹もいて、こちらも彼に興味を持っている。

     一方でこの土地に住む変わり者の男爵令嬢・プックという娘もいる。こちらは都会を知らない健康な田舎娘で野生児という感じ。母親はかつてウィーンの劇場にも出演していた高名な女優らしく、彼もその芝居を見たことがある。男爵の教育方針として、社交界などには出さず純朴な子として育てたいらしい。
     この娘は湖でボートを乗り回していて、まだこの湖の気候に慣れておらず泳いでいるうちに雨で遭難しかけた彼を救ってくれる。これを機会に彼はプックの家に時々遊びに行くようになる。娘よりどちらかというと彼にとっては高値の花という感じの女優だった母親・ボーヤンに興味がある感じ。娘は潔癖だが母親の方はちょっと誘って来る。

     その他にもレストランのウェイトレス・ヴィーフィや六歳の息子が水泳を習っているついでにヘルにポーっとして自分も習う奥さん・マイレーダー夫人(この人はあまりスタイルもよくなくて美人でもない様子だが善良な人)、やはり水泳を習う耳も聞こえず言葉も話せない20歳の娘・シュテファニーなどが彼にお熱を上げる。雇い主のビンドル氏の奥さんも彼にはちょっと甘い。

     プックは純粋にヘルを好きになり、ヘルは彼女にうちとけた態度を見せるようになる。

     そして彼の初恋の女性だったアニカことアニクシュカとこの湖で再会する。今は伯爵夫人として目の前に現われた彼女は、もとはウィーンで貧しい踊り子をしていて二人は親しい間柄だった様子。だが彼女は貧乏人同士一緒になっても未来はないわ、みたいに玉の輿のチャンスを狙って彼の前から突然姿を消してしまったみたいな。彼女は首尾よく伯爵夫人になりおおせた様子だが、ヘルのことをブリーと呼んで親しみを見せる。
     
     薄い本だとこれらの女性を次々に篭絡していったりするんだろうけど、彼は堅物でそんなことはしない。自分からは。だけど相手からモーションをかけられるとフラフラと応じてしまったりして、マイとは結婚の約束をし、ボーヤンとは逢引を楽しむみたいに彼女の誘いに応じて抱き合うようになり、ヴィーフィには店の料理をツケで食べさせてもらうようになり、マイレーダー夫人やシュテファニーにも水泳の授業中に彼女たちに体を寄せられたりするようになる。美人でないマイレーダー夫人だけはやんわりはねつけている様子。シュテファニーははっきり親愛の情を示すようになり、彼女の父親は政府高官なのだが障害のある娘なので彼女の気持ちには答えない。
     そういう一方でほどこしは受けないのでどんどんみすぼらしくなっていく。

     アニカが実は美人局みたいなふるまいをしていたことがわかる。彼女の夫の伯爵は財産のほとんどを失っていて、ここに来たのも債権者から逃げてのことだった。乙女の湖に来ていたほとんどの有力男性からアニカは色仕掛けで金とかを貢がせ、そこで夫が出て行くみたいなことを繰り返していた。債権者が追ってきてこれが露見して伯爵は逮捕され、彼女はこのリゾート地の誰にも頼ることができなくなってヘルに助けを求める。ヘルは自分の部屋に彼女を泊めて一晩かくまう。その時に貴方の部屋に泊まるのははじめてじゃないわねって言っているので以前はそういう仲だったのだろう。この時もアニカは誘いをかけるが、ヘルは自分はマイと結婚するんだみたいなことを言って拒む。だがここに偶然マイが訪ねて来てばれる。
     ヘルはアニカに自分のなけなしの金もやってアニカを逃がすが、マイとの仲はこじれてしまう。この時アニカを逃がすためにカルラが協力してくれる。カルラはヘルにその代わり、みたいに迫って来るが、ヘルがマイのことばかりを考えている、と帰って行く。
     
     ヘルはだいぶ上達していたので自由に遊泳させていたシュテファニーが溺れた時にこれを助け、この時に杭に出ていた釘で右腕を引っ掛ける。医者に見せる金もないのでこれを放置するが、傷は直らず次第に周囲に広がっていく。
     ヘルは一度マイの父親に娘さんと結婚したいのです、と申し込みに行くが、君にどのような将来があるのかね、将来性のない人間ではだめだよ、と拒絶される。
     ヘルには一つだけ希望があって、ある発明の特許出願を友人の弁理士に頼んでいる。これが通れば大金を得る可能性があるのだ。だがその友人からは最近音信が絶えた。
     マイの父親はきっと騙されたのだ、君のようなマヌケに大切な娘はやれん、となってしまう。

     水泳シーズンが過ぎてゆき、シュテファニーもマイもカルラも去ってゆく。これに伴ってヘルの収入も減ってゆき、駅で荷物運びのバイトもするようになる。

     マイレーダー夫人はヘルを気にかけて、無理に自分のレッスン時間を増やす。だがこれをヘルはありがたがるどころか、夫人といる時間を不愉快に思う。夫人は何も浮気をしたいのではなく、ヘルにやさしい言葉をかけてほしかっただけなのだが結局ヘルは冷たい態度を取りつづける。やがて彼女も落胆して去ることを決める。

     これと前後して、ヘルはボーヤンと抱き合っているところを男爵に目撃されて出入り禁止を申し渡されている。だがプックはヘルに会えなくなったのがさびしいと会いにくる。

     だがこの時、ヘルはいろいろ自分がうまくいかないいらだちをプックにぶつけ、強く帰れ!みたいなことを言ってしまう。この話の順序としては、一番最初にヘルに好意を伝えたのはプックで、ヘルも最初はプックを嫌っていなかったのだがマイが現われてからはプックからマイに関心がうつり、プックの屋敷を訪ねる頻度が減っている。そのくせ訪ねたときにプックの母親のボーヤンに迫られたりすると応じてしまい、夫に見つかって出入り禁止になったりしている。

     マイはヘルと相思相愛っぽくなりはするのだが、金持ちの娘である彼女にはヘルのような貧乏人の鬱屈やプライドはわからない。パパに援助してもらえばいいわ、みたいな。だがヘルのプライドはそれを受け入れない。で、ヘルとマイの父親もちょっとうまくいかずマイは家族とともに去ってしまう。

     ヘルの周りにはどんどん人がいなくなり、この土地に残るのはプックだけなのだがそのプックが訪ねてきたのををすげなく追い払ってしまう。そしてプックは行方不明になり、カラのボートが見つかったので湖に身投げしたのだ、みたいになる。ヘルは具合が悪いのをおして湖に何度も潜り彼女を探すが見つからない。そして高熱で倒れてしまう。荷造り中にこの話を聞いて彼を診察したマイレーダー夫人のご主人(彼は医者だった)は敗血症と診断し、最悪の場合は腕を切断しなければならないが、そうならないよう全力を尽くす、と話す。

     ヘルが意識もうろうとした状態で二通の手紙が届く。ヘルが意識を取り戻すと枕元にプックがいる。彼女は湖に身投げしたわけではなく山登りをしていたのだった。プックはヘルに手紙を読んで聞かせる。
     一通目はマイからののん気なラブレター。そしてもう一通は弁理士から。そこには彼の特許が確立し、大金になることが書かれている。ヘルは金持ちになったのだ。もうマイとも引け目を感じず付き合うことができる。
     それからヘルはまた意識もうろうとなり、手術が行われる。目覚めるとやはり枕元にプックがいるが、ヘルが目覚めたと知ると部屋を出て行く。入れ替わって部屋に入ってきたのはマイだった。プックがヘルが重病である事をマイに伝え、マイは大急ぎでやってきたのだった。

     幸いヘルの腕は切断しなくてすんだ様子。引け目がなくなったヘルは、改めてマイに結婚を申し込むと、マイは受ける。

     その頃プックはボートに乗って帰ってゆく。悲しげに歌いながら。

     という話で、コレデイイノカナーという違和感がある。著者の意図をつかんでいないだけかもしれないけど。

     何というか主人公ヘルにもヒロイン・マイにも好感をあまり持てない。ヘルは自分に好意を向けてくれる人に対して非常に尊大だったり冷たかったり。でも迫られるとやることはやってしまう。悪人ではないけど何かこう一貫したものがない。他人のほどこしは受けぬというプライドだけは高いが、結局自分に好意を持つ女性を利用してみみっちく行き当たりばったりに小銭をもらったり無銭飲食したり。
     マイもちょっと相手の気持ちをおもんばからない。二人の恋愛をあまり真剣なものに感じない。ヘルが大金を得なかったら結婚には至らなかったろう。

     一番性格がいいのは一途にヘルを慕うプックなのだが、作品内ではちょっと邪険に扱われすぎに思う。

     映画だと主人公(名前はヘルではない)がプックに該当する娘(映画では名前が違う)を探して湖に潜り、命を落とすみたいだけど小説ではそんなことはなくて一応ハッピーエンドといっていいんだろうけど、コレデイイノカナー。主人公の性格描写がもっと良ければ、ロマンチックな作品にもなるんだろうけど。
     あらすじだけ読むと映画の方が悲劇としてまとまってる気がする。
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