「密室殺人(鮎川哲也著)」
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「密室殺人(鮎川哲也著)」

2019-02-28 19:00




    ・鮎川さんの密室もの短編集。

    ・赤い密室
     ある大学の法医学部。教授が一人、解剖助手の男性が二人、大学院生の女性が一人、学部生の女性が一人。死体の始末などをする雑用係の老人が一人。解剖助手の男性同士はあまり仲が良くないライバル同士だが一方が抜擢されて海外に留学することになり勝負あったという感じになっている。大学院生はその勝った方の彼女だったのだが、最近学部生の女性に助手を盗られてしまった。
     ある日の司法解剖にその女学生が欠席する。外出したまま戻らないという。後始末を助手の二人が行い、大学院生も立ち会った。
     そして翌日。助手の二人が解剖室の鍵を開けて中に入ると、解剖台の上には女学生のバラバラ死体が乗っていた・・・被害者は妊娠していたこともわかる。
     扉には鍵がかかり、天井に換気口はあるが人の出入りできる大きさではない。窓は二重でさらに鉄格子。密室である。死体はどうやって入れられたのか。死体の一部は解剖台の上ではなく、下の引き出しに入っていた。という密室殺人。

    ・白い密室
     西大久保に住む大学教授が自宅で殺される。たまたまその日に訪ねてきた編集者が第一発見者となり、同じく訪ねてきた教え子の女学生が証人となる。その日は正午より雪が降り、夜9時前に止んだ。雪の上に残された足跡の様子から、犯行時間より後に教授宅に出入りしたのはこの二人だけ。雪に残された足跡が密室を形成する。
     教授は霊媒師と科学論争をしていて、霊なんて科学的にありえない、と売れっ子の霊媒師をある座談会で手厳しく糾弾したことがあり、相手はこれを深く恨んで呪い殺してやる、みたいなことを言っていたという。教授の死が報道されると霊媒師は俺がやったんだ、と犯行声明みたいなものまで出す。

    ・青い密室
     ある劇団の独身幹部用のアパートで殺人事件が起きる。殺されたのはこの劇団の演出家。劇団の実力者で配役を決める上でも影響力を持っている。そのため俳優たちは彼に表立って逆らえない。役のほしい若手女優は枕営業まがいのことも暗に求められる。若手男優の恋人を寝取ったりもする最低な人種であり、DV常習者で奥さんを間接的に死に追いやってもいる。
     その彼が二階の自室で椅子に座ったまま絞め殺されている。鍵がかかっており密室状態。鍵は室内から見つかり、合鍵は無い。窓が開いていたのでロープでもあればここから逃げることは可能だったと思われるが、窓の下は花壇で足跡などは無い。
     当然同じアパートに住む劇団員たちに疑いがかかるが、男1名、女4名にはいずれも演出家に憎悪に近い感情を持っているという動機がある。
     演出家が青い光が好きで、自室の照明もそういう色調にしていたので青い密室。
     これは犯人の方に同情を感じる。

     以上三作品は、著者の作品の常連登場人物である田所警部と探偵役の星影龍三氏が登場する。田所警部は稀代のブ男という設定らしくいちいちそのブ男ぶりが説明されるのはちょっと気の毒。星影龍三氏の方は本業が貿易商だがその推理力を警察に貸しているという設定だが露骨に警部たちをそんなこともわからないのかと馬鹿にしたりあたり散らしたりであまり好感が持てない。これは著者が人格者ではない探偵というものを提唱したかったのかな。
     探偵の尊大な態度や自分への蔑みを受け流して、事件解決のためにガマンしているブ男の警部の方が大人だなと思う。

    ・矛盾する足跡
     楽屋オチの肩のこらないお遊び作品という感じ。
     本格推理小説作家である主人公が、同業者の別荘に招かれる。季節は冬である。この別荘はテレビのクイズ番組で儲けた同業者五人が協同で所有しているもの。彼らはそれだけ儲けたわけで主人公は羨ましく、招待されてもみせびらかすつもりなんだろうとひがんでしまう。
     別荘のオーナーは 女流ハードボイルド作家、推理小説の挿絵画家、推理小説評論家で発明家でもある男、恐怖小説を専門とする女性翻訳家。もう1人、五人が別荘を建てると聞いてわざわざ百メートルほど離れた隣地に別荘を建てた女流SF作家も合流している。

     食事の後の雑談が密室トリックに及び、雪の中の足跡と密室殺人、みたいな感じになる。本格推理作家は主人公だけなので彼が話の中心になるが、挿絵画家と翻訳家は眠くなったと自室に引き上げ、SF作家は仕事をする、と自分の別荘に帰って行く。残った人間はもう少し歓談して、その日は寝る。
     翌朝。雪が降ったがすぐ止んだらしく、5センチほど積もっている。だが朝食の時間になってもSF作家が現われない。主人公は呼んで来てくれない、と頼まれて外に出ると、彼女が昨夜帰った足跡の他に、彼女の別荘からこちらの別荘に向う男物の下駄の足跡がある。
     何か変だな、と思ううちに評論家が様子を見て来る、と足跡を避けて別荘に行く。窓を覗き込んで彼女が死んでいる!と叫ぶ。
     主人公が警察を、と言うところを評論家が止める。足跡から見て、犯人は俺たちの誰かだ。みんなで話し合って犯人を突き止め、せめて自首するように説得しよう。同業者なんだから。

     ということで証拠やアリバイをめぐって話し合ううちに、仲良く見えた彼らが裏では互いに憎しみ合ったり嫌い合ったり、逆にできていたりすることがわかってくる。
     そして主人公を落とし入れようとする恐ろしい陰謀があることも明らかになるのだが・・・

     終わってみるとお前ら仲いいな、という感じだけど、登場人物が話と関係ないところで妙に細かく描写されているのでこれはモデルがいるんだろうな。彼らから本格推理小説や自分がどう思われているか、というところまでネタにして一本書きました、という感じ。

     以下の作品が議論の中で登場する。
    白い準僧院の殺人(カーター)
    Ring around a Murder(ジョージ・バグビイ)
    ワイルダー一族の失踪(ハーバート・ブリーン)
    明日のための犯罪(関西在住の数学者とだけ)

    ・海辺の悲劇
     テレビ女優がある番組の本読みのためスタッフや役者たちと泊まりこんでいた神奈川県・二宮の旅館から失踪し、翌朝海岸で死体となって発見される。彼女は自分が好意を持っていたプロデューサーに電話で呼び出されてそのまま本読みの時間になっても戻らなかったのだが。プロデューサー本人は特に彼女のことを何とも思っておらず、もちろん偽電話だった。
     海岸で彼女らしい女性と連れ立って歩く長身で痩せた男性が目撃されており、条件に該当する人物が彼女の周辺に二人いることがわかる。演出家と台本作家である。片方にアリバイに不明確なところがあったりしたが、結局犯人ではないらしいとわかり捜査は停滞する。
     偽電話で名前を使われたプロデューサーは釈然とせず、独自に調査をして真相にたどり着く。

     2時間ドラマの原作にちょうどよさそうな感じ。これは密室というよりアリバイ崩しものだと思う。

     以上5本が収録された短編集。

     鮎川さんは本格推理小説というものが廃れた過去のもの、みたいに言われるようになっても孤塁を守り、過去の忘れられた作品や作家を発掘したり、新人の後ろ盾になったりというような活動をした人らしい。
     自分自身については多くを語らず、プライベートは本名や家族はもちろん、生年月日も含めて謎だったらしい。同業者の中でも孤高寡黙の存在として有名だったという。
     あとがきで幻影城編集者だった島崎博という人がそんなエピソードを紹介して、氏は寡黙なのではなく、人間嫌いでもなく、人見知りしすぎる人だったと書いている。

     人柄は実際のところわからないけど、「矛盾する足跡」にちょっと人柄が表れている気がする。鮎川氏のような過去のものを発掘し、後進を育てるような仕事をする人には共感するところがある。

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