「吸血鬼カーミラ(レ・ファニュ) 」表題作以外
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「吸血鬼カーミラ(レ・ファニュ) 」表題作以外

2019-03-07 19:00




    ・「吸血鬼カーミラ」に入っている表題作以外の短編のレビュー。

    ・白い手の怪
     「瓦屋根の屋敷」と呼ばれている家に移り住んだ夫妻が、家の窓の外に現われ、戸を叩く白い手に結局追い出されるような話。何の謎解きもオチもない。

    ・墓掘りクルックの死
     ノーサンプトン州にあるゴールデン・フライヤーズという小さな町だか村だかに、「ジョージ・アンド・ドラゴン」という古いはたご屋がある。
     ある日、教会の鐘楼で墓掘り男の死体が発見される。トビー・クルックというこの男は若い頃にぐれてこの村を飛び出し、12年後に別人のようにおとなしい男になって舞い戻ってきた。既に母親は死んで村に係累はいなくなっていたが村人の善意で教会の墓掘りとして50代の今日まで真面目に過ごしてきたのだった。だが調べると彼の荷物から村人たちが無くした高価な食器などが見つかり、教会の鐘も盗んで持ち出そうとしていたことがわかる。そして鐘をもう一つ取ろうとした時に転んで後頭部を打ち、さらに鐘が頭の上に落ちて頭蓋骨が砕けて死んだらしい。
     はたご屋の馬小屋に遺体を安置して葬儀の段取りを考えている時に、はたごにやって来た悪魔のような客が彼の死体を持ってどこかへ行ってしまう。もしかしたらクルックは吸血鬼だったのでは、などとの噂が出る。この話も特に謎解きはない。

    ・シャルケン画伯
     後に画伯と呼ばれるようになった画家・シャルケンがまだ修行中の青年時代、彼は巨匠と誉れ高いゲルアルド・ドウの弟子だった。ドウには17歳のローゼ・ヴェルデルカウストという姪がおり、田舎者で貧乏で色男でもないシャルケンと金持ちの娘で美貌のローゼとはその違いをものともせず相思相愛の恋人同士となる。
     だがシャルケンは自分の力で彼女を養えるようになるまでは、とドウにこのことを話せないでいる。ローゼもこれに従う。
     そんな時にロッテルダムのヴァンデルハウゼン卿という貴族からローゼを嫁にもらいたいとの申し入れがドウにもたらされる。卿は老人といえる年配だが莫大な財産を持つ。尊大な人柄でドウは好感を持てないのだが、卿が前払いみたいに持ってきた財産にさすがに心惹かれるところもあり、身分が高いらしいのに打算が働いたこともあり、ローゼとシャルケンが恋仲であると知らなかったこともあり結局承諾してしまう。だがこのヴァンデルハウゼン卿がいかなる人物でどこに住んでいるかは明らかにならず、訪問時も帰る時も目撃されておらずドアの外で突然出現したり消えたりしている様子である。
     さらにこうした話をしていた間、卿の顔はフードに隠れて見えなかったのだがローゼを迎えに来たときに見えた彼の素顔は鉛色でところどころどす黒い、死人のような顔だった。
     身体の動きも人間の身体に慣れていない何かが動かしている、というような。突然この人に嫁ぐのだ、と言われたローゼは嫌がるがドウは無理やり嫁がせてしまう。
     シャルケンは何もできず、ひたすら修行に打ち込む。だがローゼの消息はそれきり絶えてしまう。卿が教えた住所はデタラメだったし、花嫁を連れて行った馬車は途中で別のものが迎えに来て乗り変わっていた。。
     だがある日ローゼが師弟の暮らす屋敷に駆け込んで来て匿ってほしいと言う。取り乱した様子で牧師様を呼んでという。ローゼは私は悪魔に魅入られています、生きている人間と死者が一緒になるなんて、などとうわごとのようなことを口走る。牧師がやってきて祈祷をはじめようとした矢先、ローゼのいる部屋のドアが突然閉まり、開かなくなる。中から悲鳴があがり、それきり彼女は消えてしまう。

     数年後、シャルケンは故郷で父親の葬儀に出席する。納骨堂でつい居眠りをした彼は、悪魔のそばで悲しげに微笑むローゼの姿を夢に見る。このローゼの姿を描いた肖像画は、シャルケンの代表作となっている。

    ※この画家は実在するらしいが、小説に書かれたような絵が実在したのかどうかはよくわからないらしい。

    ・大地主トビーの遺言
     ヨークとロンドンの間を駅伝馬車が行き交っていた並木道に「ジリングデン・ホール」という古屋敷があり近くにはマーストン家代々の墓地がある。現在は荒れ果てているが70年ほど前、トビー・マーストン老人が健在の頃はそうではなかった。だがこの老人の代で莫大な財産は借財の山となり、二人の息子はいがみあって裁判を繰り返した末に次男が屋敷を相続した。
     長男は復讐の念を胸に秘めて去るが次男は狩猟の際の事故で腰に障害を持つ身になった。
     外出もままならぬ次男は広い屋敷の中を動き回るようになり、使っていなかった部屋の戸棚から証文を見つける。それはこの屋敷の正当な継承者は長男であることを証明する書類だった。父親の生前から既に屋敷は長男のものだったのだが、兄弟二人ともそれを知らずに父親の死後所有権を争ったのだった。もちろん父親は知っていたのだろうが長男を嫌い、次男をかっていたのでこのことを黙っていたらしい。
     次男は証拠を隠滅しようとして一度は思いとどまるが兄から脅しの言葉が来て結局証文を処分してしまう。兄とはまたしても裁判で争うことになってしまう。
     だがその訴訟準備中に兄は急死する。次男に長く仕える忠義な老人は、間もなく次男の屋敷に黒い影が入ってきたのを下男から聞く。それ以降屋敷の中で怪異が続き、使用人はひとり、またひとりと辞めていく。そのあともいろいろあって、この老人が主人の自殺体を発見することになる。老人は自殺ではないと知っていたが決して口外しなかったという。

    ・仇魔
     貴族の血筋で南北戦争で殊勲もあった人物が故郷ダブリンに帰って来る。40代を過ぎているが独身である。生活に困ることはなく人には好かれ、分別があり悪い遊びもしない、良き紳士みたいな人物である。彼がある若い婦人と恋仲になる。若くて美人だが財産は無い。後見人の叔母がなんとか社交界にデビューさせ、願ってもない相手と巡りあったわけで二人は婚約者としてふるまうようになり、社交界からは遠ざかる。娘の父がもうすぐ帰国するので、これを待って式を挙げる予定である。
     紳士は毎晩のようにこの娘と叔母が暮らす家を訪ね、遅くに自宅へ帰るようになるが、ある日後ろから誰かがついてくる気配を感じる。足音がすぐ後ろでするのだが振り向いても誰もいない。翌朝家に差出人不明の手紙が届き、あの街には近づかぬがよい、などと書かれている。
     その場所は毎日通る場所ではなかったのでしばらく何も起きないが、一週間後に用事で通るとまた足音がし、翌朝手紙が届く。逃げようとしても無駄だみたいに書いてある。
     やがて紳士の行動は神経質なものとなり婚約者の令嬢にも知れる。紳士は幽霊に取り付かれたようだと正直に話し、娘もこれを信じ、娘の父親も帰国して事実上の婿として新居へ移る。
    だが結局紳士は新居の自分の部屋で死んでしまう。何者かと争っているような声がして下男が駆けつけるがドアが開かず。やがて開いた時にはこときれていた。
     その後、紳士が戦争で軍艦の艦長をしていた時に乗組員の娘と間違いを起こし、その結果父親の暴力もあって娘が自殺、紳士はこの父親に厳しく罰を与えて死に至らしめたという事件があったことがわかる。真実はわからないが、紳士は足音の主はこの父親と思っていたらしい。

    ・判事ハーボットル氏
     ハーボットルという人物は長く判事として働き、60を過ぎてもその職にあったが人物は下劣で、裁判をしばしば捻じ曲げてこすっからく生きているタイプの人間だった。それなりに権力もあっていかがわしい宴会を開いて暴君のように騒ぎ立てたりもする。
     この人物は67歳で死んだのだが、その直前にこんなことがあった。ピーターズという老人が判事を訪ねてきて、今貴方が扱っている事件は審理しない方がよい、みたいなことを言う。この当時政治は勤王党と自由党に分かれてせめぎ合っていて、ハーボットル氏はどちらでもないみたいだがこの事件を扱うと両派の陰謀に巻き込まれて命もあぶないと。

     調べるとピーターズというのは偽名らしく、その事件で取り調べられているルイズ・パインウェックという男と瓜二つだったとわかる。だがパインウェックは確かに獄中におり、そっくりの人間が二人いるということらしい。そして実はパインウェックの女房はハーボットル氏の家政婦をしており、氏は愛人の夫を裁いて死刑にしようとしているのである。愛人はこの夫に財産を取られて追い出されたのであったが、娘もおり愛情は残る様子。憎くもあるのだがいざ死刑判決が出そうになるとちょっとためらいも感じている様子。

     そして死刑は実行され、判事はパインウィックの姿を法廷で目撃するがその姿は他の人には見えない。そしてパインウィックは無罪であったものが勤王党と自由党の勢力争いの結果告発されたもので、ハーボットルは彼の無罪を知りつつ処刑台に送ったのだ、と弾劾する手紙が届く。処刑された男の妻を雇っていることも公に知られることになって気まずい思いもするが次第に問題は沈静化し、彼がほっとしたころそれは起きる。

     友人と夜遊びに出た馬車の中で、ハーボットル氏は突然拉致される。馬車はさびしい沼地のそばにある牢獄のような建物に連れてゆかれ、そこで裁判にかけられる。
     原告はルイズ・パインウェック。裁判長はトゥーフィールド。そして被告はもちろんハーボットルである。抗議も許されず裁判はグイグイ進み、有罪と決まったハーボットルは死刑を言い渡される。処刑はひと月後。彼は監獄に送られ、真っ赤に焼けた足枷をつけられたところで目が覚める。夢だったのだ。

     彼はそれから痛風が悪化して気鬱になる。無口になり気難しくなり、ついに予告された処刑の日が来る。その日、家政婦の娘が黒い服を着た痩せた男が家に入って来た、と言い出す。母親は否定するが自分でも見てしまう。だが下男が様子を見に行くとハーボットル氏は起きていて、邪魔をするな!と追い返す。

     そしてハーボットル氏は大階段の欄干から首を吊った状態で発見される。


     以上。どの作品も種明かしとか説明とかが無くて、基本的に救いが無い。淡々と破滅に向って起きたことを綴っていく感じ。書き方がこわい。解説によれば著者は自分の見た夢にヒントを得てこうした小説を書いたとのことで、こわい夢ばかりみる人だったらしい。そして真夜中にローソクの明かりで執筆したという。
     晩年は同じ屋敷を何度も夢に見て、その屋敷が自分の上に崩れて来るところで何度も目を覚ます、ということを繰り返し、58歳で睡眠中に心臓麻痺を起こして亡くなったという。
     彼の主治医はあの屋敷がついに彼の上に崩れたのだろうと言ったという。この話もコワイ。

     生前は人気作家だったが死後忘れられ、死後50年を過ぎて彼の作品を雑誌から探して単行本にまとめて出版した人があり、これによって再評価されるようになったという。
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