「海底軍艦(押川春浪作)」
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「海底軍艦(押川春浪作)」

2019-03-12 19:00


    ・ムー帝国やマンダと戦った田崎潤演じる神宮司大佐の轟天号ではなく、明治時代に書かれたその元ネタ小説の方。こちらでは艦長は櫻木重雄海軍大佐。船の名前は電光艇。海底軍艦とあるように、潜航する事が可能な軍艦である。
     単行本が出たのは明治33年らしい。当時の世界情勢は、日清戦争が明治28年に終わって明治37年に日露戦争がはじまる、戦争と戦争に挟まれた時代。やらなければやられる、というのが世界のルールだった時代でもあるだろう。日本から見れば西からも東からも北からも、世界の強国が植民地を作りながら押し寄せて来るように見えていただろう。国力と軍事力をつけねば話し合うこともできずに飲み込まれてしまうという認識だったろう。

     なので当然ながら今読めば軍国主義でけしからん、という人もいるだろうけどそれが当時の常識でもあり、語られているのは卑怯なことをするな、心正しくあれ、かしこくあれ、自分を常に向上させて希望を捨てるな、というようなことを読者である少年たちに伝えつつ娯楽小説として楽しんでもらおう、ということでもあるだろう。

     世界漫遊の旅に出て横浜からアメリカに渡り、さらに大西洋を渡ってイギリス、フランス、ドイツを経てイタリアのネーブルス(今でいうナポリらしい)港に来たという男の回想記のような形になっている。既に国を出て2年近くが過ぎており、ここから弦月丸という船で日本へ帰ろうとする。はっきり年齢は書かれていないけど高等学校にいたのが12、3年前とあるので20代後半くらいか。仕事の事は書いてないがそれだけ漫遊できるということはいわゆる高等遊民みたいな身分なのかもしれない。頭も良いようで柔道も強い。
     同窓の濱島武文(はまじまたけふみ)という男がここで商会を営んでいると聞き彼を訪ねる。語り手は柳川というらしいが名前はわからない。二人は旧交を暖めるが偶然にも濱島氏の8歳になる一人息子日出雄少年と母親である春枝夫人が同じ船で日本に里帰りするのだという。濱島氏は息子の教育は日本本国で行わなければ、という考えを持っていて、妻の兄が海軍大佐で軍艦高雄の艦長をつとめていたものがこのほど病気療養のため待命中の身になったとのことで、見舞いと息子の教育を義兄にまかそうということで妻子を帰国させることになったのだという。柳川は頼まれたこともあり、二人が日本につくまで面倒を見よう、と約束する。

     だが弦月丸は財宝も大量に積んだ船であったため、地中海を抜けアデン湾を経てインド洋に入って六日目、海賊船海蛇(かいだ)丸に襲われる。この時国籍は書いてないけど赤い髭を生やした大男の船長や乗組員たちは乗客の避難誘導もせず我先にボートで逃げてしまい、残った乗客は秩序を失ってボートを争い大混乱となる。柳川はあさましい真似はするまい、この混乱に春枝夫人と日出雄少年を巻き込むまいと二人をかばい、手近にあったブイを二人に渡して海に入る。海は荒れていて間もなく夫人の姿は見えなくなってしまうが、子供だけは守ろうと漂流を続ける。定員以上の人間を乗せたボートは転覆し、カラッポになって二人の前に現われるという行幸があり、二人は半月余りも漂流して無人島にたどり着く。ここはインド洋南方の孤立した島なのだが、ここになんと日本人がいる。彼らこそは海軍の櫻木大佐が率いる37名の水兵たちで、帆船浪の江丸でこの島にやってきて、海軍でも数名しか知らぬ秘密任務についていたのだった。それこそが列強ひしめく世界情勢の中、大日本帝国の独立を保ち対等以上の地位を得るために必須の海軍力増強の切り札となる最新鋭の軍艦の建造であった。造船所を整備して建造を開始してからもう二年が過ぎ去っているという。
     だが櫻木大佐たちも嵐で浪の江丸を失い、この新軍艦を完成させなければこの島を出てゆけない、という苦境に陥っており、二人を日本に送り届けることはできない。
     かくして柳川青年と日出雄少年は大佐たちと生活を共にし、軍艦の建造チームに加わることになる。完成予定は三年後である。この無人島は「朝日島」と名付けられており、軍艦の名前は山岡鉄舟の『電光影裏斬春風(でんこうえいりしゅんぷうをきる)』から「電光艇」と決められているという。
     水兵の中で最も精強な武村新八郎兵曹は少年をことのほかかわいがり守ってもくれる。この島はちょっと奥に入ると猛獣がうようよしているのである。少年にはさらに稲妻という大佐の飼い犬(犬種は書いてないけど子牛ほど大きく真っ黒な犬とある)が猛犬であるにもかかわらずよくなつき、行動を共にするようになる。

     そしてあっという間に三年が過ぎ、完成した電光艇は試運転を成功させる。いよいよ日本へ、というところで津波が襲い造船所が壊滅。試運転のため海に出ていた電光艇は無事だったが船を動かすのに必要な12種類の薬品樽が失われてしまう。船に積んである分だけではあまり遠くまでは行けない。カンラン島という島までがやっとである。
     柳川青年と武村兵曹は気球に乗り込んでコロンボを目指し、ここで薬品と船を調達してカンラン島で電光艇と合流しようということになるがまたしても嵐にあってあらぬほうに流されてしまう。合流約束の日まではあと一週間。もし期日までに合流できなければ、機密保持のために電光艇は爆破されることになっている。
     だが気球の眼下に白色の巡洋艦が現われる。この巡洋艦こそ最新鋭巡洋艦「日の出」であり、息子を失ったと思った濱島氏が息子を軍人にしてお国のために働いてほしいと思っていたのができなくなったため、息子の代わりにと私財を投じてイギリスで建造し、日本海軍に献納した船であった。そしてこの船を今日本へ回航中の艦長は病の癒えた松島大佐であり、彼は日出雄少年の伯父でもある。柳川青年は日出雄少年の無事を知らせるが、この船には献納主である濱島氏と、奇跡的に救助された春枝夫人も乗り込んでいたのだった。虎髭の轟大尉という人物が松島艦長の右腕という感じで登場する。
     「日の出」と松島艦長の尽力で薬品は揃い、電光艇との合流地点にあと少しと迫った特、海蛇丸を旗艦とする七隻の海賊船に襲撃を受ける。海賊はこの新造船を大胆にも強奪しようと精鋭を揃えて7対1で待ち構えていたものだったが、日の出はもちろんこれを迎え撃ち7隻を相手にほぼ互角の戦いとなるが相手を倒すまではいかない。そこにまだ燃料を残した電光艇が駆けつけてあっという間に海賊船7隻は海の藻屑となり、濱島夫妻は逞しく成長し、電光艇の水兵としても活躍した日出雄少年と再会するのであった。
     薬品の補充も成って、「日の出」と「電光艇」は並んで日本へ。大日本帝国万歳!みたいに終わる。そういう時代の小説ですから。

     というわけで、話の九割位は電光艇は活躍しない。ずっと建造が続いて、海賊船との戦いは10ページくらいで終わってしまう。もっと活躍する様子を見たかったと思うのだが。

     電光艇の諸元は6ページにわたって紹介されている。書き写すのはたいへんなのでそのページを画像で引用します。



     読んでおわかりのように、艦首にはドリルはついていない。「衝角」と呼ばれる三尖形の鋭利な突出部が回転するとあるのでドリルの一種ではあるだろうけど、螺旋を切ってあるわけではないみたい。この他1分間に78個の魚形水雷を連射できるとあり、この二つの武装で海賊船を圧倒する。
     残念ながらイラストはないのだけど、ドリルと三尖形衝角を置き換えれば轟天号のデザインでさほど違わないのだと思う。轟天号は空も飛ぶけどさすがに電光艇は空は飛べない。

     猛獣は容赦なく木っ端みじんにふっ飛ばしちゃったりするので今の時代と合わないところは多々あって今の人が読んで面白いか、というと微妙な気もするけど、時代の空気みたいのを感じてみたい人はどうぞ。

     押川春浪氏は「いだてん」にもチラっと登場しているけど、天狗倶楽部の中心人物でもあり当時の大人気作家でもあり。もっと長く寿命があれば、現代の誰でも知っている存在だったかも。
     作家の横田順彌さんがその業績をきちんと後世に伝えたいと押川氏や天狗倶楽部の伝記や彼らを主人公とした小説を多数執筆していた。
     「いだてん」に彼らが登場するのを楽しみにしていたのではないかと思うけど、今年1月4日に亡くなったのだという。合掌。

     
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