「おいしい水の探求(小島貞男著)」
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「おいしい水の探求(小島貞男著)」

2019-03-29 19:00


    ・著者はもと水道局勤務で、当時日本で最も汚いと呼ばれた多摩川の水を浄化する玉川浄水場の所長なども勤め、様々な浄化技術を開発して水質改善に貢献したとのこと。その後退官して民間に転じたようで、この本では民間企業の顧問・中央研究所所長という肩書きになっている。玉川浄水場は氏の在職中にいろいろあって休止されたらしいが、それについてはテーマから外れるためかさらっと触れられているのみ。ここではウルトラマンのロケもされたらしい。
    https://qqquuu7.web.fc2.com/tami.html

     著者は2012年に92歳で亡くなったとの事。
    https://www.nissuicon.co.jp/pro/library/kojima/

     薬品になるべく頼らず、自然の土や川が持つ浄化力を使った(つまりそこにいる微生物の力を利用した)水処理方法を模索していた様子がうかがえる。

     水の浄化には主に二つの方法があって、一つはヨーロッパで発達した緩速(かんそく)ろ過法という簡単に言えば水をゆっくり砂の中を通して自然の浄化力で水をきれいにしようというもの。
     もう一つは急速ろ過法という簡単に言えば薬の力で水をきれいにしましょうというもの。

     それぞれ一長一短があってどちらがよいとは言い切れないみたいだけど、著者はなるべく緩速でやりたいんだろうな、と思う。砂の浄化力というのはすごいらしく、ゆっくり水を通すだけで濁りも病原菌も鉄もマンガンもアンモニアもLASという合成洗剤の主成分もプランクトンや小動物もカビの臭いもほぼ完全に取れるという。戦前は日本ではこの方式が主流で、水はおいしくて当たり前だったらしい。
     だがこの方法を行うにはたいへん広い敷地が必要で大都市の近くでは基本的に無理。さらに浄化に使った砂は目詰まりというのを起こして浄化力を失うため一度水を干して、表面を削り取って回復させないといけない。取った砂はどこかに捨てて、新しく砂を補充しないといけない。砂の厚みは均一でなければならない。これが機械化も十分進んでいなかった当時はたいへんな重労働だったらしい。さらに水源でプランクトンが大発生したりすると目詰まりが頻繁に起きてこの処理回数が増える。通常月に1回か2回でいいものが極端な場合三日ごとになったりする。さらに原水がある程度きれいでないと使えず、濁水という粘土質の物質を多く含んだ水を長期間通すと、粘土が中まで詰まって表面を削り取っても回復しなくなってしまう。
     砂の中にカゲロウやユスリカの幼虫やゴカイなどが大量に発生することもあり、この場合は生物が開けた穴のためにろ過されていない水が出るようになってしまう。

     一方急速ろ過法の方は濁った水に硫酸アルミニウム(俗に硫酸ばんどと呼ぶらしい)を入れると不純物がからめとられて沈殿するので上澄み水を取り、これをさっと砂に通して細菌を殺すために塩素を入れ、マンガンやアルミニウムを取るためにはナニナニ、臭気や合成洗剤を取るためにはコレコレ、と余計なものが原水に入っていればそのそれぞれに対して薬品なり処理方法なりをあんばいしなければならない。そしてプランクトンや小動物は基本的に取り除けない。さらにいろいろな薬を入れた結果として当然ながら水はまずくなる。緩速ろ過法だと事実上運転操作というものはないのだが、急速だと薬の量とか順番とかタイミングとかを考えないといけないので運転員が必要になる。つまりそうした人材が必要になる。自動化すればさらに自動化の監視や保守の人材が必要になる。だが日本の大都会周辺では土地の問題から事実上急速ろ過法しか採用できないことが多く、それが水がまずい、という苦情に繋がって苦悩するようになった頃に著者はその苦情を無くすべく奮闘した最前線の技術者だったということらしい。

     浄水場は飲めない水を飲めるようにするわけだけど、飲めない水には二通りあって
    ①病原菌が混入しているおそれがある水
    ②いわゆる硬度が高い硬水
     よく日本の水は軟水で、外国の水は硬水なので飲むとお腹をこわすみたいに聞くけど、何が軟水と硬水を分けてるのかというと、これは水中に溶けている鉱物、いわゆるミネラルのうちマグネシウムとカルシウムの総量で、これが多く含まれているとしつこい感じになって苦味や渋みを感じるようになり、これが少なければ淡白になるとのこと。
     日本の水は1リットル中にマグネシウム+カリウムが20から80ミリリットル含まれているのに対し、ヨーロッパでは200から400ミリリットルが普通であり、日本人がこれを飲めばほぼ確実に下痢をする。なぜかと言うと、マグネシウムは水中では硫酸マグネシウムという形で溶けており、これは下剤の成分そのものだからだと書いてある。

     病原菌は煮沸すればいなくなる。そして硬度には一時硬度というものがあり、これは煮沸すると抜けるという。これで硬度は半分くらいになるらしい。なので海外に行っても湯冷ましなら大丈夫だったりもするらしい。
     病原菌は塩素で消毒してもいなくなる。でも塩素で硬度は減らないみたい。塩素を入れた水は安全でもおいしくないし、いわゆるカルキ臭がついてしまう。また、塩素消毒すると水中の物質と反応してトリハロメタンという物質が生成されることがあり、これには発ガン性があると言われている。するとまたトリハロメタン対策を考えねばならない。

     一方で飲める水であっても、いやなにおいや味がついたり色がついたりしてしまうことがある。一般家庭では問題にならない微小なものであっても、茶道の先生や日本料理店、喫茶店を営む人たち、酒の醸造元や豆腐店などには水についての味覚が鋭い人がいて、今はあまり見かけないけど現像を行う街の写真屋さんなども現像に影響が出るということでよく苦情を言われたという。ある懐石店主からは銀座店と青山店の味がどうしても違ってしまう、と相談されて、両者の水系が違うことに思い至って敬服したことがあるという。

     著者は職業柄、おいしい水ができる緩速ろ過法が好ましいとは思いつつも、安全な水を供給するのが第一なので急速ろ過法しか現実的には使えないとなれば薬剤を使用するのをためらわず、異臭に対する苦情が絶えなかった当時の多摩川ではその対策としてもさらに薬剤を投入してなんとか飲める水を作りつづけた様子。投入薬品の価格が水の売価を上回っていた時期もあったらしい。民間企業だと当然赤字で倒産していたかも。水の民営化って大丈夫かな?常に利益の何割かを新技術開発やメンテに振り向けないと、増え続ける水の中の新物質除去や水源の管理や水道管網の維持に支障をきたしそうだけど、一時の利益だけを追求する経営者にまかせてよいものなのかどうか。個人的には不安しか感じないけど。

     長くなったのでとりあえずここまで。
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