「凶笑面(北森鴻著)」①鬼封会
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「凶笑面(北森鴻著)」①鬼封会

2019-04-04 19:00




    ・民俗学ミステリーの連作集。著者は48歳という若さで亡くなってしまった。
     蓮丈那智という女性民俗学者を探偵役にして、彼女と助手の内藤三國という男性が民俗学の学術調査に出向いて民俗学的謎と推理小説的謎をセットで解き明かす、というようなシリーズ。文庫版序文には「諸星大二郎先生の 「妖怪ハンター」に捧ぐ」とある。

    ・鬼封会(きふうえ)
     蓮丈那智は東敬(とうけい)大学の助教授で、民俗学の講座を持っている。だがその卒業試験問題は知識ではなく仮説の構築力と想像力を試すようなもので毎年学生を戸惑わせている。
     彼女の助手をつとめる内藤三國はもと教え子だったが、三年ほど前にその試験の解答がユニークだったことで那智の目にとまり、就職のあてが無かったこともあって助手となった。
     民俗学を学ぶ学生の進路は厳しく、博物館の学芸員を希望する者は多いがバブルの一時期をのぞけば狭き門である。
     その年、卒業試験に少しユニークな回答を出した学生がおり、彼はとある宗教行事のビデオも送って来る。これは彼の郷里の旧家に伝わる鬼封会という秘祭で、なんとしても学芸員になりたい彼はこのビデオを送る代償として、那智に就職先の口利きをしてほしいという計算があるらしい。
     めんどくさそうな学生だなと思いつつそのビデオの祭事には興味をひかれ、那智はさっそく現地調査に行くことにする。この祭事は岡山県K市の青月家に伝わるもので、一見すると東大寺や薬師寺に伝わる「修二会(しゅにえ)」もしくは「修正会(しゅしょうえ)」と呼ばれる祭祀のようであるが、毘沙門天に扮した人物が鬼に扮した人物を倒して面を奪う、つまり鬼を殺して首を取る、という仕草で終わっている。これはこれまでに知られた修二会の類型に無いパターンで、五来重(ごらいしげる)という民俗学者が分析した16の類型いずれにもあてはまらない。
     何故そのようなパターンが生じたのかは民俗学的に謎であり、調査によって明らかにしたい、と那智は思い、現地調査を思い立ったということである。
     まず現地の古文書を調べると、明治18年にそれまでこの祭祀を伝えてきた寺から青月家に委譲されたとある。当時は廃仏毀釈という仏教の弾圧が行われ、寺は暴徒によって破壊されて祭祀が民間人である青月家に委譲されたらしい。
     当代の青月家当主は入り婿らしいが、それだけに協力的で調査は順調に進むかと思われたがここで問題が発生する。ビデオを送ってきた学生が殺されたのだ。そして犯人は青月家の長女だという。どうも殺された学生が彼女のストーカーだったらしく、東京に出た彼女を追いかけて三回も引越しをしているらしい。もちろん彼女は逃げ回っていたのだろう。

     鬼は一般に悪のイメージだが、修二会での鬼は意味合いがちょっと異なるらしい。それが青月家に伝わる祭祀が何故他の類型と異なるかの謎をとく手がかりとなる。
     この民俗学的謎と、殺人事件の謎を那智が解明することになる。


     ミステリなのでネタバレは避けるけど、民族学の方では江戸時代までは神仏習合といって外来の仏教と日本古来の神道とを融合させて、神宮寺などというものもあったりしてごっちゃにして尊んでいたものを、明治になって白黒はっきりしろ、お前は寺なのか神社なのかどちだ、みたいな神仏判然令とか分離令とかいうものが出て神社です、というところは大事にされ、お寺です、というところは襲われて壊されたりした廃仏毀釈というものがあり、今残っていれば国宝級の仏像や建物がいくつも壊されたらしく、このことが著者の創作であろう鬼封会なる祭祀の源になっているという設定。五来重という民俗学者も実在の様子。
     
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