「凶笑面(北森鴻著)」②凶笑面
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「凶笑面(北森鴻著)」②凶笑面

2019-04-07 19:00




    ・東京都狛江にある東敬大学の蓮丈那智の研究室に、民族調査の依頼が持ち込まれる。依頼主は安久津事務所。所長の安久津圭吾は「悪食」として民俗学関係者からは蛇蝎のごとく嫌われている民具・骨董店主である。つまり民俗学的に貴重なものを素封家などから二束三文で巻き上げて高値で売る、みたいな。一方で競合になれば大学の予算ではとても出せない価格で競り落とす財力もあり、クヤシイ事に目利きでもある。仕入れ値が予測できて、法外な利益を乗せているとわかっていても彼の扱う品物は無視できないこともあるみたい。彼が送って来るカタログはどうだ、欲しいだろう、やらないよ~、という見せびらかしみたいなものなのだ。

     だがその安久津が民族調査を依頼してきたのは異例なこと。調査対象は「凶笑之面」なるもので、ある村で祭礼用に入手したところ村人に病人が相次ぎ、面に怨念がこもっているということになって封印されたものだというが、安久津によれば面の由来について不審があるのだという。

     いろいろ不審を抱きつつも安久津の送ってきた面の写真は迫力のあるもので、研究者としては実物を見る機会を逃すわけにはいかない。さっそく助手の三国と一緒に長野県北佐久郡H村を訪れる。この村は戦後二つの村が合併してできたものだという。
     面を保管している谷山家当主は足が不自由な若い女性で、那智の著書もよく読んでいて会えて嬉しいなどと言う。今回の調査依頼ももともと彼女の発案らしい。安久津は半年以上も前から谷山家に出入りして、倉の整理をしているという。
     だがここで那智はあまり会いたくない人物と鉢合わせする。島根文理大学の甲山(こうやま)博教授。民俗学のいわばライバルで、那智は神経質なこの人物が好きになれない。彼の書く論文にも冷ややかな評価をしている様子。どうも那智に、という当主の依頼を那智は多忙なので、みたいに安久津が忖度して甲山の方にまわしたらしい。彼は既に面の調査を終え、論文も書いたという。さらに安久津は「喜人面」なる面の写真も出してくる。こちらは写真で見る限り凶笑面より柔らかな印象で、何か対になった面かもしれない。甲山教授の論文はこの二つの面の関係と役割について書かれたらしく、既に提出されて発表を待つばかりだという。

     手にとって調べた凶笑面の迫力は想像以上。まるで断末魔の人間を見るような凶々しい笑いを貼り付かせた、見る者に不快感を与える面である。那智と三国は調査のためしばらく逗留することになるが、逗留三日目に倉の中で安久津が死体となって発見される。死因はビー玉が詰まっていたガラス瓶が上から落ちて来て頭にあたったものらしい。瓶が割れてビー玉が床に散らばり、そのビー玉を使って遺体を移動させようとした跡がある。ビー玉は当主の祖父の収集品だという。安久津の身体の下には例の喜人面の写真がある。

     警察はこれを殺人事件と断定。安久津が当主に黙って倉の合鍵を作り、高価な絵皿などを持ち出して売り払っていたこともわかり、殺害方法が足の不自由な女性でも可能ということになって裏切りを知った当主の女性が犯人だろう、ということになってしまう。だが那智は理路整然と警官の主張を論破して当主の連行を防ぎ、彼女を救うには自分たちが真犯人を捕まえるしかない、と決意する。この殺人事件の謎と、凶笑面はいかなる理由で作られた何用の面なのか、という民俗学的謎を那智が解くことになる。実物を調査してわかったのは、この面には紐を通す穴もなく、口でくわえることもできず、つまり顔につけることができない面だということ。そのような面とははたして。

     民俗学的に面とは何か、面とマレビト、つまりトコヨからやってきて人々を祝福したり悪をなしたりする存在との関係が語られて謎解きにつながる。
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