「温かな手(石持浅海著)」
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「温かな手(石持浅海著)」

2019-04-18 19:00




    ・おだやかな語り口の連作推理小説短編集なのだが、設定が特殊。探偵役が人間の世界に紛れ込んでいる謎の生命体ということで。

     彼らは人間の生体エネルギーみたいなものを「食べて」生きているのだけどグルメでもあって、マズいエネルギーは嫌。どういうのばマズクてどういうのがおいしいかというと、心の汚れた人のはマズくて心のきれいな人のはおいしい。だが現在の世の中、大人になって彼らがおいしく食べられる純粋さを持っている人間はそうそういない。なので彼らはそうした人を発見すると、同居して味が濁らないように保護を与え、養殖するみたいにその人間のエネルギーだけを食べて生活するようになる。そうするためには自分自身も人間に擬態して生きた方が都合がよい。その人間が男なら自分は女、女なら自分は男に擬態して一緒に暮らす。その方が目立たないので。擬態としておだやかで人当たりのいいイケメンあるいはビジョであるが、絶世の、だと目立ちすぎるので普通の、みたいな線をはみ出さない程度の容姿である。

     彼らは長命で、姿も変わらない。ポーの一族みたいな。でも吸血鬼みたいですね!と言うとあんなのと一緒にしないで、と悲しそうな顔をする。それ以上自分たちの種族については暗黙の了解で話題にしないことになっている。彼らの同居人に選ばれた人間は、彼らが余分なエネルギーを吸ってくれるので暴飲暴食しても太らない。おそらく病気などにもならないのだろう。
     
     そんな生命体が、自分のお弁当の味が濁らないように、周囲で発生する殺人事件とかを嫌疑がかからぬように鮮やかに解決するみたいな。

     生命体は二体登場して、兄妹だというが、本当にそういう概念があるのかは定かではない。

    ・白衣の意匠
     男性タイプの謎の生命体・ギンと同居している心のきれいな女性・畑寛子は生物学研究者。大学で助手をつとめている。同じ研究室には大学院に通う女性が二人。二人とも優秀であり、当然ながらライバル関係にもある。
     そんなある日、その片方が研究室で死んでいる。何故か寛子の白衣を着て。ギンは寛子の心を濁らせないために事件を鮮やかに解決する。

    ・陰樹の森で
     目の前で殺人事件が起き、それが自分の通う大学であったということは寛子の心にかげりを残す。見かねた友人たちがキャンプに誘ってくれる。メンバーは寛子と恋人と世間には思わせているギンちゃん、寛子の旧友の山城と牧原に男性二人と牧原の婚約者の英恵、牧原の妹・良子。彼らは寛子が勤務する大学の近所の居酒屋で知り合った仲間である。
     だがその楽しいはずのキャンプで二人が死体で発見される。ギンは残った人々に真相を話し、ある提案をする。

    ・酬い
     痴漢常習者が好みの女性を発見して尻を触るが、突然エネルギーを吸い取られて昏倒し、電車から降りる人々に踏まれまくるという事件がある。もちろん触られた女性、ギンの妹であるムーちゃんがやったのだ。彼女はそのことを同居人の北西匠に話す。ギンは会社員として人間社会に溶け込んでいるが、ムーちゃんは学生である。北西は社会人。
     数日後、ムーちゃんが痴漢を懲らしめた駅で人だかりがしている。覗き込むと男がナイフを腹に突き立てられて死んでいる。ムーちゃんは北西に痴漢の人だ、と言う。
     既に警官が来ていて一人の女性に事情を聞いている。彼女は自分に痴漢を働いた男の手首をつかみ、電車から引きずりおろしたら男が死んでいるのに気付いたのだという。
     ムーちゃんがこの女性の無実をはらすべく、何が起こったかを推理する。
     
    ・大地を歩む
     北西は友人とイチゴ狩りに行こうとしている。メンバーは橋詰健太、国元真一、鹿山悠里とムーちゃん。まずその前にムーちゃんの紹介も兼ねた食事会がある。国元はみんなの食事代をまとめてカードで払う。いわゆるマイルを貯めるの凝っているのだ。だがイチゴ狩り当日、車を出した橋詰がメンバーをピックアップしながら最後に国元の家を訪れるとドアが開いている。中に入ると頭から血を流して死んでいる。
     一同は警察に連絡しようとするが、机の上の国元の財布がふくらんでいて、50万円もの現金が入っているのに驚き、カード利用が主で現金をほとんど持たない国元がこんな大金を持っているのは何か犯罪に関係していたのでは、警察に連絡すると個人の名誉にかかわるのでは、と連絡を躊躇する。ムーちゃんが何があったのかを解き明かす。

    ・お嬢さんをください事件
     ギンちゃんと寛子は表向きは恋人同士だが、実際には恋人ではない。どちらにも異種族を恋愛対象とする気は全くない。なのでギンちゃんは、寛子がもうすぐ20代を終える年齢であってか、本当の恋人ができたら僕はいつでも消えるからね、と言っている。
     寛子はギンちゃんとの出会いを思い出している。彼とは友人の弓田咲子の紹介で出会ったのだった。彼女が交際している会社の同僚・倉科と一緒に車で伊豆半島まで遊びに行くというのに誘われて、そこにもう一人乗ってきたのが同じ会社のギンだった。
     美女の咲子に対し倉科はかなりブサイクである。だが心は優しい。途中サービスエリアに寄った時に事件は起きる。トイレをすませたらフードコートに集合、と言った本人の倉科がいつまでたってもやって来ない。携帯にも出ない。だんだんどこかで倒れているのでは、と不安になってくる。もう警察に、となりかけたときにギンが、倉科さんが姿を消したのは、咲子さん、貴方のためなんです。と言い出す。

    ・子豚を連れて
     北西とムーちゃんは伊豆のペンションに来ている。なんでも兄を紹介したいのだという。このペンションはペット可で、北西たちはペットを連れていないが他の客はみなペット同伴である。中でも子豚のソクラテスを連れた児玉さんという女性は目立つ。
     北西とムーちゃんの間でも、北西に人間の恋人ができたら私はいつでもいなくなるみたいな話がされている。今回はギンにムーちゃんが誘われたこともあるが、国元の死で落ち込んだ北西を元気づけようという意味もある様子。動物好きの北西のためにペットホテルにしたらしい。
     ギンとの待ち合わせ場所で、偶然子豚の児玉さんと再会し、話し込む。すると彼女はご主人とうまくいかなくなっていて思わず家出してきてしまったのだという。めぐまれているはずなのにどこか物足りない、子供ができなかったせいもあって何か満たされない。それでご主人がゴルフに出かけた隙に自分も出てきてしまったのだと。ムーちゃんは彼女の気持ちが落ち着くようなことを言って分かれるが、ぽつりと これから、どうするんだろう と呟く。
     ムーちゃんは児玉さんが嘘をついていることを北西に話す。

    ・温かな手
     待ち合わせ場所にギンと寛子がやって来る。北西と寛子はもちろん初対面。ギンは北西の、ムーちゃんは寛子の「味見」をして、二人とも心が汚れていないことを誉めてこれなら安心だ、みたいなことを言う。
     みんなでソバを食べたあと、ギンが少し付き合ってくれないか、とハンドルを向けたのは老人ホームだった。そこには落合富江という高齢の女性が入居しているが、脳溢血のために今は認知症も出て話もできないとのこと。それまでは人柄もよくて親切でホームの皆に慕われていたという。心のきれいな人だったのだろう。
     ギンは富子さんの手を握る。すると彼女は笑顔を見せる。寛子は、ギンが彼女の残り少ないエネルギーを吸ったのだとわかる。
     北西と寛子は、ギンの行為の意味について語りあい、手を握る。温かい手を。

     以上で終わり。長命種と短命な人間という種の話は相手がポーの一族なりゲゲゲの鬼太郎なり妖怪や精霊だったり、宇宙人だったりいろんなパターンがあるけどこれもその変形みたいな。別に人間の味方でもないけど、グルメなのでこれと見込んだ人間の心をおいしいままにしておくため人間社会の犯罪などに干渉するというのがちょっとおもしろい。
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