「ないしょないしょ(池波正太郎著)」
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「ないしょないしょ(池波正太郎著)」

2019-05-22 19:00


    ・剣客商売の秋山小兵衛が重要な脇役として登場するほか、著者の代表作である剣客商売・鬼平犯科帳・仕掛人藤枝梅安の三作品ゆかりの場所や人物が登場する剣客商売番外編。

     今の新潟県・当時の新発田藩から江戸に出てきた女性が主人公。名はお福。

     彼女には人生で深く関わった人間が三人いるのだが、その三人とも同じ人間に殺されてしまう。殺したのは松永市九郎という剣客。

     お福は10歳で母を、3年後に父を亡くして天涯孤独となり、人の世話で神谷弥十郎という剣客の家で住み込みの下女となる。神谷は35歳。妻を亡くしたらしい。
     神谷は道場を開いていたが教え方が厳しく、ほとんど門人が居つかない。一方松永は教え方が上手いと評判で、道場は流行っている。
     半年ほど前、この二人が殿の前で御前試合をしたことあるらしいが、神谷の圧勝だったという。だが神谷はこれを別に吹聴したりしないので、家中でこれを知る者は少ない。
     やがて神谷には藩の剣術指南役に、という話が持ち上がるがある日、矢を射掛けられ、さらに背中から斬られて死んでいるのを発見される。時を同じくして松永市九郎が出奔し、下手人は松永と思われる。正面からはかなわぬとみて矢を使ったらしい。

     主人を亡くしたお福は、同じく神谷の使用人だった五平という老人と一緒に江戸に出て仕事を探すことにする。江戸には老人の甥がいるという。

     五平は神谷を尊敬していたが、お福はそんなことはない。どちらかというと殺されてざまあみろ、みたいな気持ちがある。というのは神谷がお福を力づくで手込めにしたからで、それは一度ではなく毎晩のように続いていたのだ。
     五平は本来の旦那はあんな人ではない、とかばう。どうやらそれは神谷の妻の死に関係があるらしい。
     お福はこれに恨み骨髄で、主人の味噌汁にネズミの糞を入れたりして仕返しするのだが、それがばれたときの主人は一度は怒ったものの、やがて哀しげな笑いを浮かべる。
     神谷が殺されたのはそのすぐ後だった。お福からすると恨みの対象が急に消えて拍子抜けしたような、仕返しされなくてほっとしたような。

     五平は神谷の妻は自殺したこと、それは神谷の留守中に松永に襲われて手込めにされたのを恥じてのことだったこと、神谷はそれをうすうす察していたようだったが何も言わぬ妻を問い詰めるわけにもゆかず懊悩していたこと、妻の自殺のあとは人知れず苦悩しておりそこにお福がやってきたこと、などを語る。

     江戸に出たお福は五平の甥の伝手で三浦平四郎という老人に奉公することになる。もう隠居している御家人だが、算勘指南という今で言えば経営コンサルタントのようなことをしていて金回りが良く、気前もいい。お福を連れて料亭などにも行く。お福はこの老人に保護者のような温かさを感じるようになる。
     三浦老人は剣術は全く駄目らしく侍のくせに刀もささないのだが、根岸流手裏剣術は達人の域に達していた。やがてお福は手裏剣の手ほどきを受ける。筋がいいらしく、ぐんぐん腕を上げて行く。三浦老人はお福をどこかいいところに嫁に出してやりたいと思っていて、女だてらに手裏剣をやっているなんて誰にも言わない方がよい、ないしょないしょだよ、と言いきかせる。
     
     こうして数年、穏やかな日々が過ぎる。三浦老人は囲碁が趣味で、これまでは五平の奉公先の主人がちょうどいい相手だったのだがこの人が病没し、碁会所に通うようになる。ここに松永市九郎がいる。松永には表の顔と裏の顔があり、表ではある剣術道場の食客のようなものだが裏では仲間と組んで強盗などしている悪人に成り下がっている。
     碁会所では表の顔で、最初は控えめにしていたのだがだんだん本性が見えて来る。三浦老人は腕前が拮抗していたこともあって彼の相手をしていたのだが、だんだん負けるとあからさまに機嫌が悪くなり、勝つまでもう一番、としつこい松永に嫌気が差してくる。

     三浦老人は松永と距離を置くようになるが、これを自分が馬鹿にされたと逆恨みした松永はついに三浦老人宅に押しかけて殺害してしまう。お福はまたしても松永のために主人を失ったのだ。

     お福は五平の知人である倉田屋半七という男の下女として働くことになる。実は五平は若い頃は結構悪いことをしていたらしく、半七はその頃からの仲間である。だが今は足を洗って水茶屋の主人になりきっている。

     松永は新発田で五平の顔を見知っており、五平のことも付け狙って殺害してしまう。五平がいなければお福は江戸に来る伝手など全く無かった。五平も彼女にとっては恩人である。

     ある日そば屋で松永を見かけたお福の表情が変わる。どうしてくれよう。そのお福をやんわりと止めたのが居合わせた秋山小兵衛だった。小兵衛は三浦老人とも顔見知りで何度か屋敷を訪ねてきており、お福とも面識があった。

     お福は小兵衛に全てを話し、小兵衛の助けを得て松永を自分の手裏剣で討つことになる。

     仇を討ったお福はきっぱり手裏剣を捨て、病死した半七の後を継いで水茶屋の女将となり、番頭のような男と所帯を持つ。その番頭とも死に別れて呉服屋の後妻にもなる。だが子ができぬまま36歳の若さで急死する。小兵衛もお福の最期をみとることになる。

     死に際にお福の脳裏には、憎いはずの神谷弥十郎の笑顔が浮かぶ。
    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。