「天図(王晋康著 上原かおり訳)」
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「天図(王晋康著 上原かおり訳)」

2019-07-12 19:00





    ・「三体」を読んだのでその勢いで中国SFを少し読んでみる。
     SFマガジン8月号では中国SF特集として短編4本が掲載されている。その一番目。

    ・天図
     主人公の「わたし」は10年前高校生だったと語ってるので20代後半の女性。「未来世界当世駐留連絡所」の所長である。といってもこれは自分で勝手に名乗っているだけ。
     科学者やサイエンスライター、SF作家と連絡をとって公益活動や交流親睦会をやるみたいな商売。ほぼ同じ年の兄貴分みたいな人物がいて、彼は中国科学院の広報部にいる。おかげで仕事上いろいろ助けてもらっているが恋人とかではなく、本当に兄と妹のような関係らしい。
     彼は彼女を小易(シャオイー)と呼び、彼女は彼を林兄さんと呼ぶ。その林兄さんから電話があって、珍しく彼から彼女への頼みごと。
     科学院に老人がやってきて、16歳の孫が描いたという図面・天図なるものを鑑定してほしいという。何でも科学にとってとても画期的な図だというのだが。本来素人が描いた絵など門前払いするのだが、ちょっとためらう理由があって、これを描いた孫というのは10年前にネットで広まった写真の当事者だったから。交通事故で血まみれになった両親の傍らで、両親に何があったかわからない、という顔で怪我も無くカメラを見ていた自閉症の子供として。
     彼女はこれをしかるべき科学者に見てもらうよう、自分の人脈でいろいろ当たってみる。林兄さんは公務員なのでそういうことを直接やるとまずいのだろう。科学的に意味の無い絵を権限を使って忙しい科学者に無理やり意見を求めた、みたいになるのかも。
     林兄さんから届けられた天図は、少年が手書きしたもののようでうねうねした図形が並び、数字やアルファベットがびっしり書かれている。彼女にはさっぱり意味がわからない。
     心当たりの科学者に写真を送ってみたものの、一週間たってもこれといった反応は無い。こちらから連絡してみると一応こちらの顔を立てていろいろ言ってはくれるが、意味の無い図ということみたい。だめだったよ、という報告書を林兄さん宛に作り始める。

     そこでものすごい大物科学者から電話が来る。中国科学技術大学の教授で物理学者。中国科学院のアカデミー会員でもある沈世傲(シェン・シーアオ)先生だ。だがその名声のわりには気さくな人物で、囲碁など多才な趣味も持っている。彼は是非原図を見たいとやってきて、実物を見てやっぱりか、これはステレオグラム、いわゆる飛び出して見える図だ、と言う。
     先生に言われて彼女が見てみると、図形は長いほら貝のような螺旋となって浮かび上がり、図形の中には様々な物理公式がツリー状に書かれている。彼女にはわからなかったが先生はもっと読み取っていて、このツリーには単純なものから複雑なものに物理公式が広がっていく様子が描かれている。そして先生によればまだ未発見の公式もあり、一方で弦理論やM理論など現代物理学の最前線の公式が欠けている。ということは現在の理論は間違っているという意味なのかもしれない。だが何故16歳の自閉症少年がそんなものを描けるのか。
     世界にはノーベル経済学賞を受けたナッシュのような自閉症の天才もいるにはいるが。

     さらに林兄さんが隠していた情報を開示する。その子は囲碁AIに挑戦してほぼ互角の勝負をしたことがあるのだと。この時代、AIを使った囲碁プログラムは発達して、人間の棋士は世界最強と言われる人物も含めて全くAIに勝てなくなっている。それとほぼ互角というのであれば、人間では最強ということになる。

     一堂は少年の家に向かう。だが自閉症の少年は、自分の祖父以外とはまったく口を聞かない。そして少年のパソコンの中には、さらに驚くようなものが隠されていた・・・

     AIがどこまでも人間の領域を侵していくみたいな話になるのだが、ちょっと暖かく終わる。主人公の女性は非常に活動的で、日本のドラマに出てきそうな(あまり日本のドラマ見てないけど)。


     著者は現在中国で四天王と呼ばれているSF作家の一人とのこと。1948年生まれというからかなり年配だ。世間には理解されない天才を描くことが多いらしい。王晋康にはワン・ジンカンとルビがふってある。原題は天图とのこと。图は環境依存文字らしいけど、国がまえの中に冬という字。

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