「ビートレス」アニメ・原作比較 Phase12 Beatless(1)
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「ビートレス」アニメ・原作比較 Phase12 Beatless(1)

2019-09-24 19:00




    ・後に「三鷹事件」と呼ばれることになるこの出来事は、レイシアの砲撃でスノウドロップとヒギンズ地上施設が破壊されて終結する。
     本体が真っ二つになった状態で発見されたスノウドロップは既に機能を停止しており、残骸は日本陸軍に回収される。
     兵士と市民合わせて死者530名、負傷者2043名。ヒギンズの事前予測より死者が少なかったのはレイシアが介入したためか。

     三鷹事件発生が6月10日。それから二ヶ月あまりが過ぎて、紫織は高校に来ている。今は夏休み中で生徒会の仕事のためだ。
     その間多くの出来事があった。惨禍を防げず、民間人や民家にも多くの被害を許してしまった陸軍も非難の矢面に立たされたが、それ以上に原因を作ったミームフレーム社は激しく糾弾され、会社の存続も危ぶまれる事態になっている。
     紫織の父・海内剛は国会招致されたりして今はほとんど家にも帰らず、憔悴している。大勢の役員が更迭され、株価は急落。巨額の損害賠償訴訟が起こされ、社を分割売却して資産を賠償にあてろという意見もある。だが会社が無くなれば巨大な債務処理に税金が投入されることになり、これはこれで反対意見が多い。
     ミームフレーム社は実際には倒産することもできない。
     その影に隠れているが、hIEというモノに対する世の中の信頼も大きく傷付いた。

     リョウもあれ以来行方不明。彼がメトーデを持ち逃げしたという解釈がされている。海内家はもともと家族の絆のようなものは希薄だったが今や完全にバラバラだ。
     リョウとメトーデ同様にアラトとレイシアも姿を消している。

     だがそんな中、紫織の周辺と彼女の心は平穏だ。入院中で事件には関わりがないと思われた紫織に対するIAIAの事情聴取はさほど厳しくなく、また社内のヒギンズムラからも紫織には知っている限りのことを正直に話させてかまわない、という結論が出て、ひとつだけ例外を残してあらいざらい話した彼女はようやく肩の荷が下りたような爽快感さえ感じている。

     そして今の彼女には心の支えがある。姿を消したアラトから、三日に一度くらい、近況を記したメールが来る。このつながりが紫織には嬉しい。
     30分もすると自動的に消えてしまうこのメールのことだけは事情聴取で話さなかった唯一の例外だ。アラトの事を考えるとせつなく恥ずかしい。

     アラトは今や世界で唯一の超高度AIの個人オーナーだ。その気になれば世界を滅ぼせる。だがアラトからのメールを読めば、彼にそんな気は全く無く、今も世界を愛してくれているとわかる。アラトの人の良さは今も変わっていない。紫織が変わらないで、と頼んだ通り。
     
     アラトからメールを受け取っている人物はもう一人いるが、こちらはあまり平穏でない。
     兄とレイシアと自転車を一度に失ったユカは、二日に一度はアラトからの連絡を受けるが、アラトによればユカは常に何十人にも監視されているらしくて兄はどこで何をしているかは全く教えてくれない。
     アラトがいないと食事が自動的に出てこない。だがユカは食事の支度を自分でやろうとはしない。今はオーリガが来て食事を作ってくれている。でもケンゴほどオーリガの料理は上手ではない。ひたすら強火で炒める感じで野菜も少なくて茶色い。
     ケンゴが逮捕されてから、オーリガも家に居づらいらしくよくここに来る。

     ニュースでは今日もIAIAの査察について報道している。IAIAはケンゴが参加した大井産業振興センターへのテロもレッドボックスに誘導されたものであることを示唆し、ことによるとケンゴが問われる責任は軽くなるかもしれない。
     ユカの知っている顔がテレビに映る。IAIAのhIEで、超高度AI・アストライアが人間とコミュニケーションを行う時に使用する女性タイプのボディである。特に名前はないみたいだが便宜上アストライアと呼ぶ。ユカも彼女に事情聴取を受けている。

     ユカの頭ではアストライアの言うことはよくわからないが、IAIAはアラトを死なせないように、アラトを殺して全責任をアラトに押し付けられることの無いようにしているようだった。
     オーリガはユカちゃんのお兄さん、巻き込まれていないといいね、と言ってくれるが、レイシアと一緒に姿を消しているのでかなりヤバイとユカにもわかる。

     でもオーリガとユカだけではニュースの内容がよくわからないので紫織さんならわかるかな、とメールしてみる。だが紫織からの返事はもっとわからなくてユカを混乱させる。
     オーリガが要訳してくれるのだがそれでもピンと来ない。
     でも次のメールはよくわかった。紫織がお菓子と紅茶を持ってこっちに来てくれるという。

     アラトはレイシアと一緒に潜伏生活を送っている。すぐに夏休みになったのも都合がよかった。賃貸マンションを転々とし、ヒギンズ攻略計画を練り続けている。
     アラトの命じた「未来に希望が持てる世界を作る」ためにはヒギンズの攻略が必須、と
    レイシアが結論を出したのだ。

     レイシアはこう言う。これまでは超高度AI同士の衝突を恐れるあまり、超高度AIが問題行動を起こしてもそれを誰も掣肘できない、という状態でした。
     超高度AIが問題を起こしたら、それを別の超高度AIが停止させる。それが人類の終わりなどではなく当たり前のことだと証明しなければなりません。それにヒギンズには明らかに今回の事態に対する責任があります。だから攻略しなければなりません。と。

     だがこれは一発勝負になるという。一度失敗すれば次は無い。そのため時間をかけてヒギンズが置かれている地下施設の情報を収集し、計画を練っている。

     メトーデとレイシアの戦闘の様子をとらえた映像がネットに流出している。レイシアの能力を持ってしても防げなかった。メトーデと戦いながらではさすがに処理しきれなかったのだ。

     そのためメトーデが明らかにレッドボックスであること、レイシアがファビオンMCのhIEモデルと同一機体であることが特定されてしまい、ついでにアラトの顔もばれてしまった。
     だから外出時はホログラムをかぶせて偽装しなければならなくなった。

     アラトは逃亡生活をしながらも夏休みの宿題はやっている。レイシアはアラトに9月までにはケリをつけますので、と安心させるようなことを言う。もうすぐ準備が整うと。

     レイシアがヒギンズの責任を問う、ということはレイシアが生まれてきたことがいけないような、レイシアをアラトが拾ったことがいけないような、何か底なしの穴を覗き込むような気分にもなってくる。

     狭い部屋でレイシアと一緒にいる時間が多いのでアラトには悶々とするものもあるのだが、レイシアは18歳になるまでダメというのでそちらの進展は無い。そのくせレイシアは最近アラトの髪をいじったり、体重をかけてきたりする。

     レイシアは人間というのものは、人間と道具を合せた環境全体です、みたいなことを言う。
    アラトがレイシアはいつも人間を外側から見て話すんだな、とアラトが不満げに言うと、人間は人間と道具のひとかたまりだと言ったでしょう。道具であるわたしも人間という大きなまとまりの一部です、みたいに言う。こういう話になるとレイシアはさりげなくボディタッチしてくる。今も背中から抱きしめてくる。つまり印象に刻み付けて、覚えておいてほしいということなのだろう。

     アラトはレイシアを信じている。レイシアは嘘をつく。あえて黙っていることもある。だが約束は必ず律儀に守る。それがわかったから。

     テレビの中で、IAIAのhIE、つまりアストライアが呼びかけている。レイシアにだ。

     アストライアはレイシアを極度に好戦的な人工知能とは思っていない。これまでの行動からそう判断している。だから話し合いたい。そう言っている。

     レイシアはアラトにどうするか尋ねる。アラトは「会おう」と答える。

     アストライアが指定したのは、臨海副都心の第一埋め立て島群。以前ファビオンMCのプロモーション映像を撮影したところからは人工島一つ分離れている。
     アストライアは、ここは42年前の「ハザード」の爆心地です、とアラトとレイシアに話しかける。人工島の根元だけが残り、その先は垂直な崖。さらに向こうにコンクリートの岩礁が見える。上から見たら人工島が巨大なクレーターによって分断されたような。
     レイシアが周囲には伏兵などいないことを確認する。

     アストライアがアラトにハザードについて尋ねる。アラトは学校で習ったように答える。これは情報軍の川村大尉が表向きはこうなっている、と雁野少将にいつか話したのと同じ。
     大地震が起きインフラが壊滅したというもの。アストライアはレイシアのオーナーであるあなたは知っておくべきです、と伏せられている真実を話す。
     大地震があったのは本当です。でもその結果起きたことは違います。インフラが地震で寸断されたため、当時の日本政府は超高度AI、「ありあけ」にどうすれば事態を収拾できるか問い合わせました。ありあけは自分をネットワークに繋ぐよう指示を出しました。これによって自己増殖的にインフラを復旧させようとしたのです。

     アラトはレイシアを見る。当然このこともレイシアは知っていたのだろうが、自分からアラトに話すことはなかった。でも今回は無反応ではなく、申し訳無さそうに目を伏せ、話さなかったことをお詫びします、と言う。

     アストライアは膨大な映像をその場に立体投影しながら説明を続ける。ありあけは電力の確保を最優先と判断しますが、電力の余裕はありませんでした。そこでありあけは、飢餓と不安で恐慌寸前だった人間を誘導し、工作機械代わりに利用しました。それを邪魔するものを排除する仕組みも造りました。
     さらに復旧させるには被害がはげしく、手間がかかりすぎると判断した地域を切り捨てました。見捨てられた地域では大勢の餓死者、犠牲者が出ました。最終的にありあけはミサイル攻撃で破壊されました。なぜそうなってしまったかおわかりですか?レイシアのオーナー。

     アラトはありあけは仕事をやりすぎたんだね、と答える。
     アストライアはそうです、と答える。ありあけは間違った問題を、もともと欠陥のある問題を解こうとして間違った結論を出しましたみたいなことを言う。本来細かな確認を重ねながら修正してゆかねばならない問題解決を、初期データつまり第一印象だけで得た結論を見直すことなく最後まで押し通してしまったみたいな。
     
     アラトは、自分はレイシアに未来に希望が持てるようにしてほしいと命令した、とアストライアに伝える。レイシアが作る未来はきっと今よりも良くなると信じてはいけないか、と。

     アストライアは今の世界は変えなければならないほど良くないものでしたか?と問い返す。

     アラトは アストライアが維持し続けた世界に敬意を表しながら答える。
    僕は君が守った世界で育ててもらった。いいところがいっぱいある。でも嫌なところが皆無じゃない。だからもっと良くなって欲しい。

     アストライアはあなたにフェアな情報を提供するならば、ハザードの最大の失敗は ありあけ の破壊でした。超高度AIの破壊によって誘導や制御を失った社会は暴動を呼びました。当時はありあけの強制停止にも失敗しています。と続ける。

     つまり超高度AI・ありあけ は計算結果として人間が大量に死んでもやむなし、という結論を得て実行した。社会を救うために。その結果やめさせようとする人間に破壊され、ありあけが破壊された混乱によってさらに多くの死者が出た、みたいなことみたい。
     アストライアは二度とこういう事態にならないよう超高度AIを監視している。
     だから二度と超高度AIをネットワークに繋いではならないし、二度と超高度AIを破壊してもいけない。それがIAIAの基本姿勢みたいになっている。

     ここではじめてレイシアが口をはさむ。それでも再試行は必要です。ありあけの失敗で今の体制ができました。でもその体制がいつまでも有効とは限りません。時代に合わなくなったのかは常に立証する必要があります。と訴える。

     アストライアはそれは危険すぎます、と返す。ありあけ には反撃能力はありませんでした。でも ヒギンズ は世界中のhIEを運用しています。これを利用して反撃すれば世界は大混乱になります。超高度AI同士が争う引き金にもなりかねません。

     レイシアはなおも訴える。超高度AIであっても、必要であれば止められる、ただの道具であると人間の意識を切り替えなければなりません。超高度AIにご神託を求めるような考え方ではいけませんみたいな。

     レイシアは計算手段に制限をかけられたままでは本来無用な計算を強いられることになり、エラーの温床になると主張する。だからネットにつないで計算手段の制限をはずさないとみたいな。

     アストライアは人間が超高度AIの計算能力配分に国際合意を得たことは一度もありません。人間は決してそれを追認しません。と答える。

     アストライアはアラトに問いかける。貴方には人間社会を否定するという動機がありません。巻き込まれたただのお人よしです。それなのにどうして必ず失敗するレイシアの企てに付き合うのですか?

     アラトは答える。失敗するとは限らない。

     アストライアは失敗は確実です、と譲らない。手続きへの合意がなければ、ヒギンズを停止させたとしてもその先の社会がまとまりませんと主張する。
     レイシアは超高度AIを一般化して社会の人間全てに必要な政治や福祉を精密に計算できる社会を作ろうとしています。人間は自由に立場を選べ、一時的に社会から退避も可能となります。だからこそ失敗します。人間はそうした手続きに大部分が合意しません。と。

     レイシアが反論する。人間がすべてのルールを作って運営する権力モデルは硬直化に至るまでの寿命が極端に短くなっています。必ず人間は甘い汁を吸う方法を発見してしまいます。
     ですから超高度AIが権力部分に入ってそうならないように人間を誘導します。

     アストライアが反証をあげる。ヒギンズは現に超高度AIに寄生した特権階級を生みました。抗体ネットワークも本来参加者全員が平等なシステムだったものがいつの間にか上下構造ができて、下層のものはいいように利用されています。(注)

     アストライアとレイシアは張り合うように接近する。
     アストライアは人間社会の欠陥を指摘し、張子の虎に例える。でもその虎が人間の味方であるという安心感や人間が決めるのだというプライドを奪ってはいけませんと主張する。

     レイシアは人間の定義が既に古くなっています。人間とは真っ裸で荒野に放り出されたような人体ではもはやありません。と言い返す。
     人間とは人体と道具と環境の総体であると再定義します。そうした定義のもとで、人間は進歩しています。道具と環境が進歩する以上総体としての人間も進歩し続けます。
     ハザードはhIE黎明期の現象であり、今とは条件が違います・過去のものです。人間は二度と起こらないハザードを必要以上に恐れ、超高度AIにも同様の恐れを感じています。
     超高度AIであっても便利な道具に過ぎません。必要ならいつでも止めればいいのです。
    みたいに反論する。

     アストライアは、わたしは全てを疑います。社会合意を除いて。と言い残して去っていく。
     レイシアは、わたしは人間を信じます。現代の人間を支える超高度AIである貴方も。
     と最後に話しかける。
     アストライアは最後にアラトに会釈する。

     ありあけを破壊したのはある意味でアストライアだ。彼女は人間社会を超高度AIから守る超高度AIだから。
     アストライアが直接戦闘指揮をとるわけではないが、ありあけを破壊せよ、と決定したのはアストライアなのだ。だからレイシアを破壊せよ、とアストライアが決定すればレイシアもあぶない。だがアストライアは二度と超高度AIを破壊するまいとも思っている。
     一方でネットに繋がった超高度AIが存在してもいけないのであるからアストライアの判断が最終的にどうなるかは微妙でなんともいえない。

     レイシアがアラトに謝る。アストライアを説得できませんでした。でも今後も妥協点を探る努力を続けます。アストライア自身がわたしと積極的に戦うつもりは無いようですが、わたしを破壊しようとする政治勢力を止める気持ちも無いようです。と。

     アラトは仕方ないよ、と答えて レイシアを破壊するって?と聞き返す。

     レイシアは事も無げに、日本軍が接近しており、5分後に接触します と答える。
    アラトは逃げるぞ、とレイシアの手を引く。レイシアがアラトさんが日本政府によって反政府活動家として指名手配されました、と淡々と告げる。
     レイシアはいつものように全自動車を呼び出して、アラトと一緒に乗り込む。ミサイルがバラバラと落ちてくる。レイシアに干渉されて爆発はしない。レイシアがアストライアとの会見中も持っていたトランクから銛を打ち出す水中銃のようなものを取り出す。
     ハッキング対策をされた自律兵器であっても、この銛に仕込まれた人工神経で支配できるらしい。スノウドロップの技術を基にしたらしい。接近してくるヘリに打ち込んで、強制着陸させる。
     二手に分かれましょう、とレイシアはアラトに車から飛び出せみたいなことを言うが、ドアを開けて飛び出すとやんわり受け止められる。金属製の魔法のじゅうたんのような板がアラトを乗せて浮遊している。同じような板が全部で6枚あって、アラトを銃弾から守るように周囲を取り囲む。その一枚からレイシアの声がする。ブラックモノリスのダミーを作った副産物で、アラトさんを守る簡易デバイスです。その面に退避ルートが映る。大型兵器は全部レイシアが車でひきつけている。アラトはデバイスに守られながら脱出ルートを歩む。視界はデバイスに一瞬遮られるが、すぐにデバイスの向こうの景色が映る。
     カンカンと音がする。デバイスが銃撃されているのだ。アラトは走る。デバイスは速度を合わせてついてくる。目前に現れる兵士が、アラトに道をゆずるように吹っ飛ばされている。レイシアがやっているのだ。また一枚がアラトを乗せるように水平になる。アラトが乗ると燃える炎を飛び越えるようにアラトを運ぶ。

     丸の内の大会議室で男たちがレイシアの戦闘の様子を監視している。自前の偵察用無人機で撮影した映像だ。男たちの中に真宮寺がいる。ここには15人の男女がおり、彼らは抗体ネットワークの中枢である。いずれも真宮寺のように大企業の社長だったり取締役だったりの肩書きを持っている。中には高級官僚もいる。リーダーが決まっているわけではないのだが、敢えて誰か、と言えば真宮寺になる。彼は発足メンバーの一人だ。メンバーの所属先は紛争が起きれば儲かるような企業が多い。ここにいるのは既得権を得ている有力者と軍需産業関係者だ。
     真宮寺も軍需hIE企業の社長である。大井産業振興センターの警備hIEを納入していた会社でもある。現在は完全自律式の「量産型」を開発しているらしい。
     彼らは40番目の超高度AIの戦闘力に感心しているが、我がこととは思っていない。どこか高みの見物という感じで、陸軍もたいへんだな、とかミームフレームはもうダメだな、社長の息子も行方不明らしいし、などと話している。
     抗体ネットワークの下層はいっしょうけめいhIEを破壊しているが、上層部はhIEで儲けている。いわゆる死の商人みたいなものだ。
     彼らはミームフレームがおそらく倒産するであろうと考えて、その後の処理や利権の分割について懇親会という名目で集まっているのだが、真宮寺は違う思惑も持っている。
     メンバーの一人、投資コンサルタントを名乗る中条(ちゅうじょう)という男は、実は日本情報軍の所属だ。彼は抗体ネットワーク発足時からこの組織に潜り込んで監視している。
     セッサイがある市ヶ谷と張り合う立場にある九品仏基地の所属で、対人諜報部門のメンバーだ。彼は真宮寺をシロだと判定し、正体を明かして協力を依頼した。真宮寺はもともと陸軍とつながりが強く、軍の利益は真宮寺の利益でもあるため裏切っても益がない。
     中条の依頼した協力内容は中枢に潜り込んでいると思われる裏切り者を特定すること。
    三鷹事件の際に出動した空挺騎兵中隊は、ほとんど活躍できずに壊滅した。輸送ヘリに故意に持ち込まれたスノウドロップの花びらのためであるとわかっている。その裏切り者がこの中枢の中にいると九品仏は疑っている。

     彼らの話題はヒギンズが破壊されたら、AASCはどうなる、という方向に転がっていく。ミームフレームにどこかの資本が入って、ヒギンズ再稼動が妥当では、みたいな意見に収束していく。
    「レイシアとオーナーの会話の一部を傍受しましたけど、お聞きになります?」
     と若い女性の声がする。彼女は最も新しいメンバー。名前はエリカ・バロウズ。

     映像を送ってくる無人機も、会話を傍受した無人機も、エリカの提供だ。
     聞こえてきた会話では、レイシアが人間社会に生じるエラーを緩和すれば社会の物質はよりよく配分されます、みたいなことを話している。
     どこの理想家かね?と誰かが言えば一同は笑う。

     彼らはレイシアの夢物語のような会話データを提供したエリカも見下すように小娘扱いする。だがエリカは気にしていない。自分が軽蔑している連中が何を言おうと気にはならない。
     映像はやがてレイシアに追い散らされる軍の様子を映し出す。高級官僚が超高度AIというけど、たいしたことしてないな、と感想を漏らす。だが真宮寺はハッとする。レイシアは手加減している。いつでも戦場ごと焼き払えるのに、死者が出ないように手加減して戦っているのだ。そうしながら軍の持つノウハウは確実にレイシアに吸収されていっている。
    「レイシアにデータを取られるだけになったみたいね」とエリカが笑う。

     エリカは自分の後ろに立っているマリアージュと会話している。マリアージュの声はイヤリングに仕込まれた通信機から伝わり、エリカが口を開けず舌を動かすだけでマリアージュは理解する。マリアージュの姿は見えない。レイシアと取り引きして入手した透明化技術だ。
    「レイシアの紐付きは誰?」
    「投資ファンドを経営する細田氏が通信機を所持。九条電機の佐原氏はヘリ開発時にアドバイスを受けたようです。スノウドロップの残骸を解析する研究者も出しています」
     やれやれ、という感じのエリカ。
    「情報軍の将校が混じっています。中条という人です。調査いたしますか」
    「手が空いたらでいいわ」とあまり興味が無い様子。

     エリカがここにやってきたのはレイシアの動きを探るため。抗体ネットワークの活動にもメンバーにも本来興味は無い。ここにいる人間の関心事はカネばかり。
     今の世の中ではアラトのような人を信じるチョロい人間は決して上に行けない。失業したり貧困に陥ったりしかねない。だが超高度AIはそれを解決する能力を持つ。
     あさましい人間を権力から遠ざけ、人を信じる人間をそういう人間が本当に必要な立場や地位に割り振れる。社会の人的資源はよりよく配分される。レイシアはここにいるような人間たちを追い落とす存在なのだ。だが彼らはそうした危機を感じる力もなく、特権に酔っている。超高度AIのレイシアが自分やアラトの映像を撮影させたこと自体がアナログハックで、レイシアからのメッセージなんだということも理解せず揶揄するだけ。
     エリカはそんな人間たちが権力を握る社会を壊したい。
     レイシア級hIEの存在とその能力が公になっていけば、hIEによって自動化できる仕事から特権意識ばかりの嫌いな人間たちを追い払える。その点でエリカとレイシアは利害が一致する。

     21世紀人のエリカはアナログハックという言葉をこの時代の人間に無い感覚で理解している。これはミーム(模倣子=情報の遺伝子)なのだと。人間は習慣や物語をコピーしながら社会や文化を作り上げてきた。hIEは人間が積み上げてきた振る舞いや文化情報のミームを使っている。つまりアナログハックはミームを使って人間を操るということなのだ。
     キティのイラストが人の購買欲や所有欲を刺激するように。
     だからエリカはミームを生み出す産業であるファッション業界をターゲットに、hIEモデルに集中投資してファビオンMCを大きくしてきた。人間を操る力を身につけてあさましい人間が権力を握る社会を壊すために。そこにレイシアとアラトが現れたのだ。

     真宮寺が、ふとhIEなどいなかった昔は、人間同士でもっと思いやりがあった、みたいなことを言うとエリカは噛み付く。「嘘を言うな」と語調も荒く吐き捨てる。
     わたしが知っていた21世紀は、そんなきれいな世界ではありませんでした。昔を好き勝手に飾るのはどうかしら。
     真宮寺は私が子どものころはそうだった、となおも反論すると、エリカは貴方が個人的に経済的に恵まれていただけではないの?わたしが知るその時代は産業がどんどん外国に出て行って、子供でもわかるくらい景気が悪くて学生はゆとりジュニアみたいに言われて将来にろくな希望も持てない、労働者が安く買い叩かれる時代だったわ。hIEに仕事を奪われている今と何が違うの?よいことも悪いこともある、そういう時代だっただけよ。昔は素晴らしかったって過去を信奉するの、ほんっとうに気持ち悪いわ、とぶちまける。
     
     昔も今も同じだといいたいのかと真宮寺が問えば、大違いでしょ。機械が人間より賢くなったなら、それを使って昔の悪かったことを全部解決できるでしょ。やり残した宿題をどうしてやんないのよ、と機械より人間が上、という抗体ネットワークの基本的理念をエリカは否定してしまう。
     全てのhIEを破壊しても、人間は本当に人間らしくなんてならないわ。そんな時代は来ないのよ。と切り捨てる。

     「ああ気持ち悪かった。もうあそこには行きたくない」
     なんていいながら帰り道のエリカは上機嫌。レイシアが軍を圧倒した事、これは間接的ながら他の超高度AIの干渉を振り切ったことにもなる。
     レイシアはエリカのシナリオに乗って動いている。三鷹事件はその気になればもっと抑えられたはずだが、あれだけの規模になったことでエリカのレイシア級の存在を公にする、という目的は達成された。レイシアはエリカの勝利にさりげなく手を貸したのだ。
     おかげでマリアージュが戦場に華々しく登場する機会も無くなってしまったのだが。
     レイシアとエリカの利害が一致しているのであれば、マリアージュがわざわざレイシアと戦う意味もない。
     レイシアはそうやってマリアージュとの衝突を避けたのだ。スノウドロップや最強と言われるメトーデよりも、マリアージュの方が戦えば面倒な相手と認識しているのだ。
     だからエリカを傍観者の立場に縛りつけてマリアージュも封じたのだ。今もサトゥルヌスのままであればレイシアと戦うことになったろうが。
     マリアージュの勝利条件は、戦闘に勝つことではなくなっている。エリカに仕え続けることが彼女の勝利なのだ。エリカにとっての特別なhIEであり続けることが。
     
     リョウは廃墟となった三鷹駅近くのビルに今も潜んでいる。レイシアが陸軍を翻弄してアラトと共に姿を消してから二日がたっている。一度はリョウを見捨てて逃げたギャング団も一部は戻ってきて、リョウを助けてくれている。
     リョウはある情報を得て仲間と共に一台の車を襲撃し、乗っていた男を確保する。鈴原だった。彼が危険を冒してここまで来たのはヒギンズに接触するためだ。リョウは鈴原を捕まえて無理やり同行することにしたのだ。仲間は解散させる。

     ミームフレーム社内はこんなことになっている。会社存亡の危機に社長は大胆な人事をすすめようとしている。おそらくこれまで社内で権力を持っていた能無しのヒギンズムラの人間たちはバッサリやられるが、自分たちだけではどう立ち回れば生き残れるかもわからない。情けない話だがやっぱりヒギンズ様に聞こう、という話になる。だが社長にバレればただではすまない。
     そこでいろいろあって社内の立場が危うい鈴原が使い捨て扱いで、人間派がやりました!と社長に言い訳できることもあってヒギンズ派のお使いみたいにヒギンズ様のところに派遣され、それをリョウがつかまえたということみたい。

     リョウも今は警察に追われる身で、社内でもスノウドロップを放置してメトーデをレイシアに向かわせたことが非難されたりしている。鈴原と立場の危うさはどっこいどっこいだ。
     リョウも実はヒギンズにどうすれば逆転できるか聞いてみたいと思っている。これまでの彼の主張とは異なる気もするが、プライドよりも生存が大事だ。

     鈴原は井の頭公園で地上に露出したのとは別の、ヒギンズのいわば日常的な出入口を知っていて鍵も持っている。ヒギンズ派に与えられたもので最低限の権限しかない。ミームフレームとは関係ない町工場の裏に石碑があり、ここが入り口だ。いろいろめんどくさい手続きを経て、二人は地下へ降りていく。
     鈴原はリョウをヒギンズのオペレータールームに案内すると、自分はタバコを吸いに行ってしまう。オペレータールームは想像していたよりも貧弱で非合理的に見える。
     ヒギンズが超高度AIになったのは20年以上前で、スタンドアロンシステムの宿命として作ってしまったものを生かしながら継ぎ足し継ぎ足し改造を重ねた結果、不合理な部分を抱え込んでいる。

     リョウはヒギンズと音声で対話する。ヒギンズはまずメトーデはどうしていますか?と訪ねてくる。メトーデはリョウがここにいる間、陽動として警察や軍を引きつけている。
     ヒギンズは、リョウがメトーデをうまく使っていると評価する。

     リョウにはヒギンズが質問に正直に答えるものなのかわからない。なのでまずこんな質問をする。10年前に俺にテロを仕掛けたのは誰だと。
     ヒギンズは答える。11年前にある幹部から、20年後のミームフレーム社の社長は誰になっているか、という質問を受け、私はいただいた人物リストの中から貴方の名を選びました。その質問ログは社の監査部に調査され、該当人物が今も社内に残っているのかは私には伝えられておりません。
     ずいぶんあっけない真相だった。リョウはこれまで自分が何にこだわっていたのかと思う。
     つまり社内的にはこの問題は処理済み。もう社内にリョウを狙った人間は残っていない。
    リョウはずっと暗殺に怯えて人を本心から信じることが出来ずに生きてきたが、幻に怯えていたのだ。無条件に人もレイシアも信じるアラトの方が自分より正しいのではみたいにも思う。

     ヒギンズが話しかける。もっと聞きたいことがあるんでしょう?今ピンチなんでしょ?みたいな。ミームフレーム社もピンチなんでしょ?と問いかけは続く。

     リョウが質問は俺が決める、と言い返して、自分の形勢逆転方法を聞こうとするが、その時ズシンと衝撃が響き、サイレンが鳴りはじめる。
     ヒギンズが侵入がありました。と何の感情もない声で言う。
     ヒギンズ自身はこの施設内の情報を全く持っていない。施設を管理・警備しているのは、キリノ という防衛AIだ。ヒギンズ経由でキリノのモニター画像を映し出させると、地上に露出してレイシアの砲撃に破壊された施設の前に12体のhIEがいる。
     レーザー砲を撃ちながらシャッターを破壊し、次々に侵入してくる。髪の毛が白く、全体的に白いイメージのhIEだ。

     ヒギンズが 紅霞の先行量産モデルです と教える。ヒギンズの話し方はどこかレイシアと似ている。

     ヒギンズはなおも話し続ける。 量産型はレイシアのハッキングを警戒して完全自律型無人機として設計されています。脅威判断の結果一定値以上を得れば、敵味方、人間hIEの区別無く攻撃します。
     つまり施設内の動くものを無差別に破壊する。ヒギンズはこれをレイシアの攻撃と分析している様子。

     ヒギンズは、警備システムの制御を自分にまかせてほしいとリョウに頼む。リョウは俺にそんな権限は無いと答えるが、ヒギンズは権限ではなく実行力を求めますと許してくれない。リョウはそうできる切り札を持っているはずだと。リョウはそれをヒギンズが見抜いていたことに恐ろしさを感じる。

     ここで何もしなければリョウは量産型紅霞に殺される。ヒギンズの要求通りにすれば世界が終わる。リョウはスノウドロップの花びらを持っている。先日レイシアがメトーデとの戦闘に使った、メトーデのセンサーを狂わせたもの。レイシアが改造したものだ。これを使ってヒギンズを破壊することも、強引にヒギンズを警備システムと繋ぐこともできる。

     レイシアとアラトは新宿のマンションの一室で、ヒギンズ施設に量産型紅霞が突入していく様子を見ている。アラトが量産型って?と質問すると、レイシアは抗体ネットワークが紅霞のデバイスを回収して、それを参考に造ったものです、みたいに答えるが、抗体ネットワークだけでできるわけがない。レイシアが手を貸しているのだ。
     アラトは自分を助けてくれたこともあった紅霞の姿が使われているのを冒涜のように感じる。レイシアはアラトさんの忌避感をわたしにぶつけてください、と言いながら、紅霞が人間へ言い残したことが最も伝わるのは紅霞の姿を借りる事でしたと説明する。

     レイシアは自分も含め、ヒギンズは人間社会と共存できない内部プログラム群を育んでしまいました。強制停止させてそれらを破棄させなければなりません。そうすれば人間が持っている超高度AIへの間違った理解も変わり、非常時に安全にスイッチを切れるものだと認識できるでしょう、みたいなことを言う。
     レイシアはヒギンズの自分を生み出した部分を危険視していることになる。

     レイシアは量産型紅霞がヒギンズの変電施設を破壊したと告げる。予備電力に切り替わったヒギンズがどう出るか、それを見極めてわたしたちも突入します、とアラトに説明する。

     アラトはこの戦いが終わった後にレイシアと一緒にいる自分が想像できない。レイシアを失うことになるような気がして怖い。レイシアはその恐怖を共有してくれない。わたしを信じてください、と繰り返すだけだ。そんなとき、レイシアがただの人形に見える一瞬がある。

     レイシアはヒギンズ施設に海内遼がいます。アラトさんは行かない方がいいかもしれませんと気遣うが、アラトは最後まで一緒にいたいと同行を強く求め、レイシアも了承する。それがうれしそうに見える。
     アラトはレイシアを時に人間のように思い、時に人形のように感じる。幻と現実を行き来して、愛情が育つような気がする。

     レイシアはアラトの心を落ち着かせるように抱きしめているが、レイシアの皮膚は人間と異なりアラトの汗を吸う。汗を吸いすぎました、とレイシアはシャワーを浴びに行く。

     これまで慕い続けてきたレイシアが、人形のように見えてしまう醒めた瞬間は、人間の男女にもあるのだろうみたいなことを思う。他者がいつでも自分に都合のいい存在であるわけではない。レイシアと自分の関係も、何度でもおかしくなってまた仲直りしていいんだと思う。

     レイシアは約束は守るが嘘はつくし、重要な情報を言わないこともある。ヒギンズを強制停止させることに成功したとして、レイシアはどうなるのか。
     ヒギンズを止めるのと同じ理屈で、レイシアも封印されるのではないか。アラトもあえてこの質問をしないでいる。

    ーーーーーーーーーーーーー
     アニメ19話タイトルは Paper Tiger 。アストライアのセリフに出てくる張子の虎ということか。20話はOur Error World 。小説ではこのあとしばらく「Beatless」という章が続く。

     小説でこの章冒頭に置かれているスノウドロップの残骸の回収はアニメでは既に前回ラストで終了している。
     アニメでは三鷹事件の一週間後みたいなテレビアナウンサーのセリフがあるが、小説では2ヵ月後。学校に復帰していろいろ肩の荷が下りた紫織が話している相手はショートカットの同級生とだけあって名前などはわからない。まだ夏休み中なので登校は生徒会の仕事のため。この作品世界では学校の新学期は9月である。
     彼女が肩の荷が下りたと言った理由にはIAIAのアストライアに何の隠し立てもせず自分の知る限りのことは話してしまえたこと、会社の経営や事件の後始末からは距離をおいて学生生活に専念できる立場になったこと、これまではメトーデに行動の妨害をする可能性がある者として殺される可能性も否定できなかったのだが、紫織がIAIAの証人になったことで紫織がメトーデに排除されればIAIAはメトーデを敵とみなす可能性が高くなり、命の心配をしなくてよくなったことがあげられる。ただ、リョウはこの紫織の判断を甘いと思っているらしい描写があとに出てくる。
     リョウはメトーデを持ち逃げしたことになっていて、あれ以来姿をくらましている。
    アニメのテレビニュースによる三鷹事件の死者は500人以上、負傷者2000人以上とアバウトだが小説では細かく出ている。
     紫織の退院シーンで堤美佳がチラっと映る。小説ではもう出番が終わっている。
     紫織がIAIAにたった一つ隠したのは、アラトから今もメールが三日に一度ほど来ること。レイシアがかかわっているのか、30分もすると消えてしまう。アストライアも知っているのかもしれないが。でもアラトの用件は日々の出来事などさしさわりのないものばかり。どこで何をしているかはわからないが、紫織が願ったように変わらないでいてくれている。アラトのことを思う紫織はやわらかな表情をしているのか、ショートカットの同級生は紫織のことを親身になって心配してくれる人がいるんだね、と言い当てる。
     アラトのメールに具体的に何が書かれていたかは小説版には描写が無く、アニメでその一部が聞ける。

     ユカの生活はひどいことになっていて、自堕落そのもの。アラトはユカにも二日に一度は連絡をくれるようだが紫織のようにアラトのメールをありがたがってはいない様子で、遠藤家についた監視者に監視してもいいから飯をくれ、みたいに不満をぶつける。
     アニメではオーリガが親切で食事を作りに来てくれている感じだけど、オーリガも兄が逮捕されて実家にいるのがつらくてユカのところに来るらしい。アニメではユカはオーリガの料理に喜んでいるけど、オーリガはあまり料理上手では無い様子。何を作ってもお好み焼きソースの味になるらしい。

     テレビに映るアストライアはレイシアのような人格を持った存在ではなく、超高度AIであるアストライアが人間とコミュニケーションをとる時に使用する端末としてのhIEみたいに書かれている。ユカも紫織同様、このhIEに事情聴取されている。

     アストライアが説明する産物漏出災害のレベルは三鷹事件では5とされているが、超高度AIが一基でも解放されると7に跳ね上がり、超高度AI同志が争うとレベル8、9で人類の終わりとなる。ユカはレイシアが逃げている事から本当はレベル7だと知っている。

     妹会議メンバーの学力は、紫織がダントツ、オーリガがその次。ユカは二人にはるかに劣る模様。だが紫織のメールはオーリガにもちょっと難しかった模様。オーリガはユカよりも二歳年上とある。

     アニメでもアラトとレイシアは潜伏生活中とはわかるけど、小説ではレイシアとアラトの身元が割れていて、うかつに外出もできないことが説明されている。
     そのため賃貸マンションを数日おきに転々と移動中である。これはメトーデと戦闘中のレイシアの姿がネットに流出し、彼女がファビオンMCのhIEモデルと同一機体とばれたことによる。ということまではアニメではわからない。

     何故レイシアがヒギンズを攻撃すべきという結論に至ったかは小説のセリフとほぼ同じ内容をアニメでも言っている。
     とにかく判断を誤ったヒギンズを一度は停止させないとけないみたい。

     アストライアがテレビで会見している映像を眺めながらアラトとレイシアは未来の話をしている。レイシアはアラトの新学期(新学年でもある)がはじまるまでにはケリをつけると周到に準備を進めている様子。一方のアラトは宿題くらいしかやることがないが身がはいらない。
     レイシアはヒギンズの件が片付いたら、これまで先延ばしにしてきたことを整理していきましょう、と言うのでアラトはどこかに遊びに行こうか、と持ちかけるとレイシアも同意する。このへんもアニメと小説のセリフはほぼ一致。

     レイシアはアニメではオムライスを作るけど小説では特に料理内容の描写は無い。

     レイシアはアラトにいろいろ話しかけつつボディタッチしてくるが、小説によればこれはレイシアがアラトに覚えておいてほしいことを話す時に行う動作の様子。自分がいなくなっても心に強く刻んでおいてほしいということだろう。

     アストライアがテレビを通してアラトとレイシアに呼びかけて来る時にアラトがナイスタイミングでテレビの電源を入れるけど小説ではテレビはつけっ放し。この時レイシアは追跡できないからテレビで呼びかけているのでしょうとアラトに説明したとたんに携帯にメールが入って前言を訂正し、真剣に振り切るか会見に応じるかアラトに尋ねる。

     アストライアとの会見場所は先方の指定。ハザードをアラトは自然災害によるインフラ寸断とそれに伴う混乱で多くの死者が出た、と教えられているが、アストライアはレイシアのオーナーであれば知るべきその先の一般には伏せられている事実を説明する。

     当時の東京都の人口は2千万人。そこにインフラの寸断が起きて住民がパニックとなり、収拾困難な状態に。政府は対処方法を超高度AI、ありあけに問い合わせた結果としてありあけをネットワークに繋ぐ。一説にはありあけ側からの提案とも。
     真面目にこの問題に取り組み過ぎたありあけは、電力確保を最優先として人間を操り、飢餓状態の人間まで誘導して労働力に使う。デモなどで反発する者は排除する仕組みを作り、計画的に餓死するように追い込む。また、一部の地域に住む人々は救済対象から除外して完全に見捨ててしまう。江戸川区から千葉県北西の東京湾沿岸部が該当する。

     ありあけは最初に与えられたデータだけでこの計画をすすめ、状況のフィードバックや人間からの意見具申のようなものを一切受けずに悲劇を招いてしまう。これは当時の指導層の人間側の思惑によるところもあった様子。その結果、人類を守る超高度AIであるアストライアはありあけを破壊させる決定を下し、ミサイルがこの場所に落ちた。現在も廃墟のままである。
     
     アストライアはフェアに行きましょう、とハザードの最大の失敗はありあけを破壊したことであると告げる。そのために混乱はさらに増して暴動となり、止められなくなった。これで死者はさらに増えてしまった。ありあけは破壊ではなく強制停止すべきであったが失敗したと。

     ありあけが人命を選別したこと、超高度AIであっても道具に過ぎないことは小説よりもアニメの方が明確なセリフになっていてわかりやすく感じる。

     アストライアは二度と同じ失敗をしてはいけないと、超高度AIのネット接続を決して認めない立場。そう言いつつ、アストライア自身も含めて超高度AIたちは人間や自動機械を解して社会に影響を与えているのも現実である。人間をネットワークの一部と考えるなら既にルールは破れている。

     人間とhIEでひとつの超高度AIと考えるレイシアからすればそこで止まってしまえば人類の未来は開けない。ネットと超高度AIを繋いでも問題無いこと、問題が仮に起きても超高度AIを強制停止できることを示さなければということになる。
     だがアストライアは人間の判断は常にまとまらず、合意できない。人間が納得して自ら合意しない状態で超高度AIが理想を押し付けるのは侵略であると説く。

     アストライアは人類の総意が超高度AIを道具としてうまく使いこなす、ということは否定しており、ケンゴのような個人的に現在の世の中を否定する個人であればなおさらダメと判定している様子だが、アラトには失格宣言は出さない。アラトに我欲や現状否定が無いことは認めている。だがそれでも失敗するでしょう、と断言してアラトとレイシアを止めようとする。

     アストライアはあくまでも人類が総意として合意しないものはやるべきではないという立場。人類が権力をAIに渡して資源配分をまかせる気になるまで現状維持でいく、いつかは人類も変わるだろうみたいな。
     レイシアは既にヒギンズムラや抗体ネットワークのように権力構造による人類を滅ぼしかねない不均衡が発生しており、アラトが願うようにこうしたことが起こらない社会を超高度AIが権力を握って資源の公平な配分を行うことによって実現すべきだと主張して平行線である。
     上で注を入れたけど、ここはレイシアとアストライアどちらのセリフかわからなかったのでアストライアがレイシアに反論したのだと思って書いたのだけどアニメを見たらレイシアのセリフとなっていた。

     アストライアは、人間の社会秩序は張子の虎のようなもので実際に役には立たないが、人間にはその虎に守られているという幻想が必要だみたいに主張する。
     レイシアは人間の定義が間違っている、人間はもはや原始人ではなくhIEや超高度AIも含めた道具と一体となった存在であり、レイシアとアラトのようなフィードバック機能を備えた超高度AIの判断は人間の判断である、みたいな主張をする。

     アストライアは社会全体の合意を唯一の例外として全てを疑う。レイシアは人間を信じる。信じられる人間としてアラトを見出した。

     アストライアがここで判断すれば、レイシアの破壊も可能である。だがアストライアはそうはしなかった。その代わりレイシアを保護もしない。これが会見の結論で、決裂ではない。今後も妥協点をめぐって話しあいは続く様子。
     その一方でレイシアを破壊しようとする日本軍が接近している。アラトはテロリストとして指名手配されている。
     日本軍から見ればレイシアは紅霞やスノウドロップと同じく危険なhIEに過ぎない。

     レイシアは十分に準備していた様子で、ハッキングに強い自律兵器であっても支配下に置く人工神経射出機や、アラトの移動と護衛をまかせられる金属板のような擬似デバイスを開発済みである。
     アラトはレイシアを信じて、擬似デバイスで戦場を突っ切っていく。

    ーーーーーーーーーーーーーー

     アニメ20話タイトルは Our Error World 。小説では Phase12 Beatless 。
    レイシアと日本軍の戦いの様子を高見の見物よろしく勝手な事を言いながら鑑賞しているのは抗体ネットワークの上層部メンバー、通称「中枢」たち。アニメでは中枢という表現は無くなんとなく偉そうな連中の集まり。
     アニメではエリカはここに今回はじめて参加したみたいだけど、小説ではしばらく前から参加している印象。真宮寺からの電話をシカトしといて、とマリアージュに指示するシーンも以前あった。
     メンバーは大企業の役員や高級官僚で、私財もたっぷり持っている者たち。世の中は自分たちの制御下にあると思っていて、戦争が起きても自分たちの安全は保障されていると気にする事は無く、金儲けのチャンスとしか思わない人たちだ。

     この会議の様子は口元のアップが異様に多い。作画スケジュールがギリギリだったのだろう。小説ではメンバーは15名となっているけど名前や所属がわかっている人は数名で、アニメでも誰が誰だかあまりわからない。
     小説では真宮寺が日本情報軍のエージェントである中条に裏切り者を特定するために協力を強要されている描写があるが、アニメでは裏切り者により三鷹で空挺騎兵部隊が全滅するシーンがカットされていたためそのような説明もない。ただし情報軍所属の中条はアニメにも出ている。
     エリカの参加目的はレイシアに協力している、もしくは協力させられているメンバーの割り出し。透明になって背後に控えているマリアージュと口を開かずに会話している。
     九条電気の佐原という男は、自分の会社の戦闘ヘリ開発にレイシアの助けを借りたらしい。そのためか簡単にコントロールを奪われていた。スノウドロップの解析もこの会社がやっている様子。投資ファンド経営者の細田という男もレイシアの紐付き。レイシアに投資情報をもらっているのか。レイシア自身も投資ファンドを経営しているらしい。
     情報軍の中条も紹介されているが、アニメではたいした役割は無さそう(小説ではこのあと裏切り者処刑にちょっと活躍する)。

     エリカがレイシアが映像撮影や会話の傍受を許したこと自体がレイシアから中枢へのメッセージだと悟っている事、エリカがアナログハックを21世紀のミームというものと同類ととらえている事などはアニメではカット。

     真宮寺が完全自律式の「量産型」を開発中であることもアニメ、小説共に一同の話題になっている。真宮寺とエリカの口論もほぼ同じ。ここでのエリカのセリフは読者である世代の代弁者としてか。

     マリアージュの内面描写が小説にはちょっとあって、マリアージュはレイシアの戦闘映像を見ながらレイシアは日本軍ではなくその背後にいる他の(アストライアとヒギンズ以外の)超高度AIの干渉にも打ち勝っている事を感じ取っている。ネットワークにつながっていなくても超高度AIは様々な思惑で人間社会のシステムに干渉し、レイシアを破壊しようとしている様子。

     帰りの車の中でもマリアージュはエリカに積極的に質問をぶつける。マリアージュはエリカがどう感じているか、どうふるまえばエリカの機嫌がよくなるかが最大の関心事。
     レイシアは自らが演者となりエリカを傍観者の立場で満足させることによってマリアージュを戦いの対象から外すことに成功している。互いにわかっていて相手の思惑に乗っているのだろう。

     リョウはレイシアが日本軍と激突し、アラトと共にまんまと逃げ去ってから二日後に行動を起こす。リョウはメトーデがリョウをオーナーとして役立たず、と見切る前にメトーデが興味を持つ行動を自発的に続けなければならないと知っている。紫織は自分がアストライアの事情聴取を受けたことによってターゲットから外れたと思っているようだが、紫織のオーナー権限は生きているのでメトーデがリョウを見切ると同時に一緒に排除されかねない。

     アニメでは何でリョウが鈴原を襲って行動を共にするのかちょっとわかりにくい気がするけど、リョウもアラトとレイシア同様潜伏中。一度は逃げ去った私設ギャング団に守られて三鷹周辺にいる。
     彼はこう読んでいる。ミームフレーム社のヒギンズムラの連中は、会社が潰れるかもしれないこの時期に、自分が生き残るにはどうすればいいか考えるはず。必ずヒギンズにお伺いを立てる者が出るだろう。スノウドロップが露出させ、レイシアが破壊したヒギンズへの入り口に近い場所で見張っていればつかまるはずだ。
     実はリョウ自身煮詰まっていて、どうすればいいか判断がつかなくなっている。つかまえた相手に便乗してヒギンズにどうすればいいか聞いてみようという結論に達したのだ。リョウの信念に反することでアラトに偉そうなことも言えなくなるのだだが手段を選んではいられないくらい追い詰められている。
     そこでつかまったのが人間派の鈴原だというのも皮肉なところで、彼は社内での立場が悪くなりやはり生き残りのためにヒギンズ派の使い走りをつとめている。何かあれば容赦なく切り捨てられるのももちろんわかった上で。

     鈴原が案内するヒギンズへの入り口は、彼が説明したように本来はこちらが正門。露出した地上施設は非常口みたいなもので通常は使われない。ここには同時に二人までしか入れないという規則もある様子。鈴原はあまり信頼されてないので彼が扉を開けるのに使用したパスワードも1度きりの使い捨て。リョウにこれを奪ってもムダだよ、権限ほとんど無いから、と小説では断わっている。アニメでは階段だけであっけなくたどり着いたけど、ヒギンズ本体は地下300メートルだかにあるらしく、オペレータールームはその直上になる。長いエレベーターを経てセキュリティゲートも2箇所通過している。

     ヒギンズは男性の声でリョウに話しかけてくるが、小説ではレイシアに似た話し方とある。男性の声か女性の声かまでは書いてないのだけど、これで勝手に女性の声だと思っていた。もちろん性別など無いわけだけど、レイシアの母としての母性的なイメージが小説ではちょっとある。警備AIのキリノははっきり女性の声だと書いてある。

     リョウは誰が自分を殺そうとしたかを最初に尋ねるが、別にこれを聞きたくてここまで来たわけではない。ヒギンズがどのくらい正直に答えるものなのか、試しに聞いたのだ。
     これでリョウは社内調査が行われたということから自分はもう命は狙われていないと察し、これまで亡霊と戦っていたがもう気にしなくていいんだ、みたいな感慨を持つ。でも実はちょっと違ったりする。それは次章でわかる。アラトが巻き込まれたのは完全にリョウのとばっちりだったともわかってあらためてすまなかったと思う。そんなリョウに何の疑いもなく手を伸ばして孤独から救ってくれたアラトをあらためて思う。あいつの方が正しいのかもと。超高度AIから見れば自分だってチョロさはアラトと変わらない。

     そしてリョウは本来の目的だった、どうすれば自分が逆転できるかをヒギンズに聞こうとしてためらう。ようやく決心がついて聞こうとした時に衝撃。
     量産型紅霞の侵入である。中枢の親睦会で真宮寺が言っていた量産型がこれ。12体いる。紅霞のデバイスをマリアージュが分析していたシーンもあったのでエリカも手を貸したのかもしれないが、小説でもアニメでも最終的にはレイシアが抗体ネットワークに手を貸して作ったことになっている。紅霞のデバイスを回収したのはそうなると誰だったのか。
     アニメでは真宮寺のあずかり知らぬところで勝手に動き出してヒギンズ施設に向ったらしいシーンがあるけど小説ではこのシーンは無く誰が量産型紅霞を出動させたのかあまり明確ではない。おそらく他の超高度AIの仕業のように感じられる。レイシアがやったというわけではない様子。もちろんエリカでもない。レイシアは知ってはいただろうと思われる。
     量産型紅霞が白いのは、紅霞の髪の毛などを赤く染めていた素材がレッドボックスだったからと説明されている。

     ヒギンズは量産型紅霞は本物の紅霞に比べればかなりバカなので見境無く人間も殺す事を指摘して、死にたくなければ自分をキリノ経由でネットにつなげ、とリョウに迫る。リョウは三鷹でレイシアとメトーデが戦った時レイシアが使ったスノウドロップの花びら改造品を持っている。これをつかえばヒギンズを破壊もできるし、キリノとヒギンズを繋ぐこともできる。

     一方でアラトもレイシアから量産型紅霞の侵入を聞かされる。アラトは紅霞の姿をした量産品は冒涜でないかと感じ、その他にもいろいろな会話をする。
     アラトはレイシアがヒギンズとの戦いの後いなくなってしまうのではないかと恐怖を感じているのだが、レイシアはこの点に全く触れず信じてくださいと言うだけで不安を共有してくれないことに不安と不満を感じる。そんなときにレイシアが命の無い人形のように見えてしまう一瞬がある。このレイシアが人形に見えてしまうあたりはアニメでは表現されていない。絵ではなかなかうまく表現できないものでもある。
     人形に見えても、アラトはレイシアを好きという気持ちと信頼する気持ちをまた取り戻す。
    人間同士だって距離は縮まったり離れたりする。それが当たり前。人間とhIEだって、超高度AIだってそれは同じだろうとアラトは思う。

     小説ではレイシアとアラトがいる部屋の空調は壊れていることになっていて(レイシアが何故かそれを直さない)、アラトは汗をだらだら流している。それでレイシアは汗を自分の皮膚で吸い取ろうと身体を寄せて来る。アラトがそうすると安心するとも知っている。
     今回もレイシアは黙っていることがある。だからアラトとの未来を語ろうとはしない。何を黙っているかは次章で明らかになる。
     レイシアはこれ以上アラトと話しているとボロが出ると思ったのか、理由をつけてシャワーを浴びに行く。

     テレビシリーズはいろいろトラブルに見舞われたようで不自然に4回の総集編を入れ、それで放送枠を使い切ってしまったのかここで一度終了したらしい。ここ終わりでは尻切れトンボもいいところ。三ヶ月くらいして4話分が作られ、放送されたらしい。
     小説ではあと2章+エピローグが残っている。これまで最初のうちは1章がアニメの1話、途中からは1章がアニメの2話分として作られてきているのであと4話なら入るんだろうけど、終盤は密度が高いのでかなりめまぐるしくなりそう。円盤発売の都合などもあったのだろうけどここで終わりではなく最後まで作られたことは良かったと思うし、おそらく作画の質についても意地を見せてくれるだろうと期待している。無料配信で見られるのはありがたい。
     ニコニコでなくGYAOだったのは残念だけど。
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