「全戸冷暖房バス死体つき(都築道夫著)」
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「全戸冷暖房バス死体つき(都築道夫著)」

2019-09-27 19:00

    ・都築道夫氏の軽いタッチのミステリ。

     南多摩の雑木林を切り開き、隣接していた畑と一緒に開発して建てられた12階建てのマンション。名前はメゾン多摩由良。
     国電中央線に数年前にできた多摩由良駅から徒歩15分。都心まで50分。全戸冷暖房バス電話つきが売り文句。1階は商店街、2階は診療所や美容院が入り、3階以上が住戸。7階までは賃貸で住民の入れ替わりがあるが、8階から12階は分譲であまり出入りはない。
     語り手でもあるヒロインはこのマンション住み込みの警備員の娘。兄も警備員をしている。父親は元刑事である。
     ヒロイン自身は何をしているというわけでもない様子で、亡くなった母親の代わりをしている家事手伝いといったところか。マンションの地下に「破裸毒巣(ぱらどっくす)」というスナックがあって、毎晩ここの常連たちとたむろしている。 
     メンバーはヒロインの滝沢紅子(べにこ。愛称はコーコ)のほか、高校の後輩で翻訳家の卵で大学では推理小説研究会を設立したミステリマニアの民雄(タミイ)、高校のクラスメートで今は大学生の春江(お春)、同じくクラスメートで父親の写真機材店を手伝っている周平(周坊)、そこの上とくいの写真家・風間先生。
     ヒロインも含めたこの5人に猿(ましら)鉱一、通称おサルさんという自称ルポライターの謎めいた男が第一話で加わって、マンションの住民や周辺に発生するもろもろの事件を推理していくみたいな連作。全7話で、どの話も「ナントカの死体」というタイトルで毎回殺人事件が起きる。

    ・冷蔵庫の死体
     10階の16号室に住む野口柚里子から、自室の冷蔵庫の中に男の死体があると連絡が入る。彼女はユリ野口という名前で化粧品のCMなどに出演している人気モデル。同居人の姉・登志子が付人をしている。彼女はかつては歌手を目指してたが芽が出なかった。仕事を伴う旅行から二人で帰宅したら、大き目の冷蔵庫の中身が外に出されて男が中で死んでいたというもの。登志子はスキャンダルになるので警察には知らせるなというのだが殺人となればそうもいかない。やがて男の身元は落ちぶれたかつての人気シンガー・ソング・ライターの多門みのる、本名大門(おおかど)実とわかる。
     マンション5階には元芸能記者で今は作家の浜荻先生の仕事場があり、先生に聞くとおちぶれているというのとはちょっと違って、現在は実業家としてけっこう成功しているらしい。
     元歌手とモデル、となるといろいろ想像してしまうが野口姉妹は全く面識が無いという。
     彼らはスナックで面白半分に事件の真相はこうだ、みたいなことを推理して互いの案を披露するが決定的な案は出ない。
     おひらきになったあと自室に帰ろうとしたヒロインを呼び止めるものがある。これがおサルさん。最近10階の18号室に越してきたという。彼もスナックの隣の席にいてヒロインたちの話を聞いていたのだが、ちょっとした証拠を持っているので条件次第では提供してもよい。親父さんの手柄になるだろうと。

    ・ポケットの死体
     ヒロインのお尻のポケットの中に、見知らぬ男の死体写真がいつの間にか入っている。ポラロイド写真らしい。いつものように仲間と地下のスナックで飲んだ帰りに階段で気付いたので誰かのいたずらだと思うが違う。
     二日後にマンションとは駅の反対にある地蔵ヶ窪という雑木林で埋められていた死体が見つかり、写真の人物とわかる。南多摩署から海江田という刑事が事情を聞きにやってくる。彼は現役時代の父親の部下で顔見知り。彼が言うには、ヒロインが写真に気付いたのは男の死亡推定時刻よりも前らしい。
     例によって仲間はああだこうだと推理するが決め手がない。ヒロインは前回の話で男女の関係になっているおサルさんを連れてきて彼を仲間に紹介し、推理に加わってもらう。

    ・屑篭の死体
     マンション5階23号室の住人が退去して清掃会社の人が部屋に入ったところ、ゴミ箱代わりの大き目のダンボール箱に詰め込まれた若い女性の死体が発見される。美人で全裸である。スタイルも良く、なんとなく芸能関係のような気がする。
     5階には元芸能記者で作家の浜荻先生がいるので一緒にいた担当編集者と一緒に面通ししてもらうと、編集者の方が酒席で一緒になったことがある劇団女優だと言う。だが先生の方は不自然なくらい狼狽している。
     部屋の借主だった古畑氏とはすぐ連絡が付き、もちろん心当たりは無いという。彼が犯人ならこんな稚拙なことをするわけがない。被害者の死亡推定時刻は彼が鍵を返却して退去した翌日である。
     例によっていつものメンバーで地下スナックで推理。今回写真家の風間氏が旅行で不在。代わりにお猿さんが最初から参加。
     被害者は交際が広いがパトロンはおらず男の影も無いという。スナックでたまたま居合せた秋山という女性が被害者の知人だったらしく、死者をサカナに面白おかしく飲むなんて不謹慎だと言ってくるがお猿さんがなだめて事なきを得る。
     なおも推理をめぐらす主人公だが、自分の部屋でレインコートとレインハットの男に襲われてしまう。

    ・エレベーターの死体
     7階20号室の細谷夫人がだれかれ見境なく男をベッドにひっぱりこんでいる、みたいな落書きがエレベーターに繰り返し書かれるという事件が起きる。夫人のエッチなイラスト付。
     細谷氏はカンカン。細谷夫人は困惑。だがいかにも浮気されそうな旦那と浮気しそうな奥さんのカップルではある。
     落書きは三度書かれ、最初はマジックだったが三度目はナイフか何かで彫りこまれている。犯行は毎週金曜の夜から土曜日の朝にかけて。
     そして次の週末。ヒロインは仲間と手分けしてそのエレベーターの出入り口を監視していたのだがエレベーターはほかにもあって、その中で細谷氏が刺殺体で発見される。書きかけの落書きが有り、細谷氏は落書き犯と遭遇したらしい。細谷氏は初婚だが奥さんは再婚で、以前は水商売だったらしい。ここに越して来たのは半年ほど前だ。

    ・飾り窓の死体
     1階の奥のほうにあるメンズショップのショーウィンドーの中で、男が死んでいる。ガラスに寄りかかっていたので外からはマネキンみたいに見えないこともない。何故かほっぺたに正札がついている。1万4千5百円。後頭部を殴られて大量に出血している。目撃者の話を総合すると、男は殴られて出血した状態で店まで歩いてきたらしい。これをヒロインが発見する。
     例によってスナックで推理していると、見知らぬ二人連れの男が喧嘩を売って来る。兄が来たのを幸いなんとかなだめて帰ってもらうと今度は父親から呼び出し。海江田刑事が来ていて、殺されたのは覚醒剤の売人らしいと言う。このマンションの住人に彼の顧客がいるのかもしれない。マンション内の住人に詳しいのは主人公。ということで様子のおかしい奥さん方はいないか、と聞かれるのだが。ふと喧嘩になった二人は覚醒剤をやっていたのではと思う。

    ・電話ボックスの死体
     マンションの正面玄関わきの電話ボックスの中で江藤卓也という男性が死んでいる。早朝牛乳配達が発見。ヒロインはこの人物に面識があり、何度かスナックで見かけていて話したこともある。
     翌日その死んだはずの江藤からヒロインの自宅に電話がかかってくる。彼には独特の訛りがあり、本人と思われる。そして自分を殺した犯人は7階25号室の大学助教授、森山だという。探偵として有名な貴方に、森山を調べて自分を殺したことを証明してほしいと頼んで来る。あわてておサルさんに相談に。おそらく生前に吹き込んだものを協力者に電話させて聞かせたものと思われる。彼は森山の秘密を知っているため殺されたらしい。
     いつもの仲間とも語らって、ここは我々で推理しようということになる。春江は森山助教授がいる大学の学生であり、彼女によれば森山は独身でハンサムな人気教授で学生の評判もよいという。一方の江藤はマンションの住人ではなく駅前商店街裏の安アパートに住む30歳無職。麻雀とパチンコで食っていると話していたらしい。
     だが推理はすすまない。江藤は電話をかけていたらしいのだが切れていて相手はわからず、死亡したの午前3時から4時ということでそんな時間に電話したのも不自然である。おサルさんも珍しく原稿が依頼されたと忙しく、あまり身を入れてくれない。
     時間ばかり過ぎるのにあせったのか、再びヒロインに幽霊から連絡がくる。このままでは江藤さんが浮かばれません、という女の声である。だが一方的に話して切ってしまう。
     ここはやっぱりおサルさんに、と相談にいくと原稿で忙しいというのは嘘で、彼は独りでいろいろ調査して森山助教授に何度も作り声で電話している。内容を聞くとヒロインの知らない事実をいろいろ突き止めているようで、森山が貝塚という教授の娘と結婚する予定でスキャンダルはこの時期まずいこと、世津子という女を捨てたらしいこと、江藤は矢竹と名乗って大学の方にも何度も電話していたことなどが明らかになっている。そして7階15号室に最近片桐世津子という女性が越してきている。

    ・樹の上の死体
     マンション裏庭の木の上でヒロインが裸で死んでいる。と聞かされたヒロインの兄は部屋にヒロインが不在なことを確認すると青くなって現場へ。父親は先に現場に向っている。
     裸ではなくネグリジェ姿。パンティはつけているがブラは無い。そしてよく似ているがヒロインではない。発見者のパン屋のご主人が間違えたのだ。自分が死んでいると聞いてやってきたヒロインは何故か父親と兄に謝る。警備室に父と兄が詰めているこの時間帯、彼女はこっそりおサルさんの部屋にいたのである。
     女性は背中をナイフで刺されていて、殺されてから木の上に運ばれたらしい。
     例によってその夜はスナックで推理大会。おサルさんは大阪出張とかで不参加で、写真家の風間も忙しくメンバーはヒロイン紅子、周平、春江、民雄の4名のみ。女性の身元はいまだ不明だがネグリジェが10万円はする高級品らしく、そちらから調べているらしい。
     めずらしく店のマスターが話に加わって、実は殺された女性が10日ほど前に店に来たという。マスターは彼女を最初はヒロインと間違えたらしい。つまりそれくらい似ている。彼女は電話を1本かけ、水割りを2杯飲んで帰ったといい、電話も「あたし」「わかったわ。じゃあ」としか話さなかったとか。
     そんな時にマンションの住人、作家の浜荻先生が失踪する。先生は12階に奥さんと娘と住んでいて、5階にも仕事場を借りている。仕事が忙しくなると仕事場に数日こもり、食事も店屋物をとったりしてしばらく顔をみないこともあるらしいが、今回は雑誌社から連絡が取れないと自宅の方に電話があり、部屋に入ると愛用の万年筆や原稿用紙、ボストンバッグ、ペーパーナイフが見当たらないという。ところがヒロインは一昨日に先生と会っている。その時はこれから缶詰になりにいくんだ、と編集者と一緒だった。これを奥さんに話すと編集者は偽者らしく、誘拐されたのではということになるが、もう一つ重大なことがあって紛失したペーパーナイフは女性の背中に刺さっていたものとどうも同じものらしいのだ。
     実はこの先生は浮気性で、屑篭の死体事件の被害者とも浮気していたらしい。今回の被害者ともそういう関係だったらしい。犯行現場はどう考えても先生の仕事場なのだが。

     ということで終わり。最後の話でおサルさんのこれまでと違った面が見える。

     こういうマンションの商店街って、時間がたつとほとんどシャッター通りみたいになってしまうのだけど、出来たばかりのせいか商店街にも元気がある様子。

     2時間ドラマのサスペンス枠なんかが今もあったら原作にいいような気もするけど、映像化されたことは無いみたい。今ならタワーマンションが舞台でタイトルも変わりそう。

     滝沢紅子シリーズとして長編があと4作ほどあるらしい。長編だとおサルさんが退場して天才美少女の高瀬美智留という探偵役が登場するらしい。

     http://roadsite.road.jp/mystery/tm/tm-main.html 

     都築さんの作品って、古書価格が高いわけではないけど今はあまり見かけない。
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