「風流太平記(山本周五郎著)」
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「風流太平記(山本周五郎著)」

2019-11-22 19:00




    ・何でこの内容でタイトルに風流がつくのだろう、と思うんだけど最後になるほどそういう意味か、となんとなくわかる。山本周五郎さんの作品だけどかなりチャンバラ要素が強くて、山手樹一郎さんとか藤沢周平さんとかの作品みたいな。そのせいか山本周五郎作品の中では知名度も低く不遇な扱いを受けているらしい。

     松平定信が老中首座を勤める時代だから、剣客商売のちょっと後、鬼平犯科帳と時代が重なる。実在の人物としては定信のほか松平伊豆守(魔界転生や幻魔大戦に出て来るいわゆる知恵伊豆ではない、松平信明)、井伊兵部少輔直明、など。

     紀伊家十代現藩主徳川冶宝の叔父である左近将監(頼興)がイスパニアと手を組んで武器弾薬を密輸入し、ひそかに幕府転覆をたくらんでいるという背景があって、この陰謀を防ごうと架空の人物であろう三兄弟が活躍する。この三兄弟の後ろ盾になるのが松平伊豆守や井伊兵部少輔直明である。
     
     花田三兄弟は長兄徹之助が旗本の花田家850石を継ぎ、今は大目付の書役。二兄休之助は三年前に紀州家の甲野という家へ婿養子に行き、末弟の万次郎も旗本の吉岡家に養子に行く。吉岡家の親戚の娘と夫婦になるはずだったのだがその娘が病死し、すぐに長崎勤番、つまり江戸幕府の人間として長崎に出向になった。

     だがほどなくして休之助から急ぎ江戸に戻れ、と手紙が来る。だが紀州家の芝にある浜屋敷というのを訪ねると、ここにいるはずの兄がいない。妻とその父親もろとも昨晩火事で死んだという。門番はそれ以上知らない様子で、奥から事情に詳しい人がくるのを待っていると街の悪たれ小僧、といった様子の子供が寄ってきて、小父さん逃げなよ、殺されちゃうよ、など真剣な様子で囁くので思わず一緒に屋敷を離れると、紀州藩士が追って来る。これは怪しいと本気になって逃げると子供は築地にある船宿の名を告げる。そこに行けばお嬢さんが、みたいな話をするのでその船宿へ行き、お嬢さんなる者を待つ。現われたのは つな と名乗る頭巾をかぶった娘。彼女は休之助から預かったという風呂敷包みを万次郎に渡し、これを徹之助に届けるようにみたいなことを言い残して慌しく去ってしまう。このつなは実は休之助の妻の妹で同居しており、万次郎と縁談がすすんでいた相手だった。だがお互い会うのははじめてである。長崎にいた万次郎は兄に任せっぱなしだった。顔も性格もよく知らず、知るのは彼女が小太刀の名手ということくらいである。

     この包みには休之助がつかんだ紀州藩による幕府転覆計画の資料が入っている。それを知った紀州側が手を回し、休之助の家を焼いたらしい。うすうす危なさを悟っていた彼は資料をおつなに託して彼女を逃がしたのだが、妻や養家の両親、使用人などは皆焼き殺された様子。
     休之助の行方はわからず生死不明である。
     
     万次郎はこの資料をどうしたものか、麹町にいるはずの徹之助を訪ねてみようか、などと思いながら船宿にしばらく留まって迷っていると、またしても女がやって来る。今度は頭巾をつけておらず、つな と名乗る。だが先日会ったつなとは雰囲気も異なり、万次郎が兄から何を聞いているのか探りをいれるようでもあり怪しく感じる。帰るというので後をつけようとすると、突然後ろから酔った侍に突き飛ばされて見失う。これと前後して徹之助から居場所を告げる手紙が届く。

     ということでつなと名乗る女が二人。後から来たほうのつなには凄腕の剣豪・石黒半兵衛が護衛についている。万次郎は兄と力を合わせて陰謀と戦う事になるのだが、同時に二人のつなにいろいろ戸惑い翻弄されていくことにもなる。

     万次郎があんまりヒーローっぽくなくて、すぐに兄にやりこめられて喧嘩になるし二人のつなを巡ってすごく揺れ動く。山手樹一郎作品なんかだとこっちが正ヒロインだろうとすぐに見当がつくんだけど、どっちがそうなるかなかなかわからない。

     最終的に陰謀は潰れ、このために敵味方多くの人間が死ぬのだが徳川家同士の争いなので真実は闇に葬られて世間には知らされないし、最後まで倒されない悪人も残る。何があったかを知るのはこの戦いに参加して生き残ったものだけ。万次郎はこうした世間に知られぬままに人が争い生き死にが分かれて、それでも世の中が流れていくことを風流と評すると、またしても兄にけしからんと怒られるのだが、なんとなくわからないでもない。

     二組の男女が祝言をあげ、いずれそうなるであろうさらに一組の男女の前途を祝して終わる。読後感は悪くないが万次郎はおそらく妻の尻にはげしく敷かれるものと思われる。

    登場人物一覧表。
    http://yamashukan.la.coocan.jp/sub16s43.html
    松平健さん主演でテレビドラマになっているらしい。
    http://www.tvdrama-db.com/drama_info/p/id-26717
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