「冬栄(とうえい)小野不由美著」
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「冬栄(とうえい)小野不由美著」

2019-11-21 19:00





    ・18年ぶりの長編新刊につられて旧作読み直し中。とりあえず新刊にからむ戴の話ということで「冬栄」。華胥の幽夢という短編集に冒頭に収録されている。「冬栄」という単語は手元の辞書にはない。ネットで調べるとこの短編しかヒットしない。
     素直に解釈するなら冬に栄える、冬であっても春に備えて力をためている、みたいな意味だろうか。著者がどこかで書いているかは知らないけど。

     舞台は戴(たい)の国。「風の海 迷宮の岸」という長編で、この国の麒麟である泰麒が蓬莱(日本)に間違って生まれ、10歳で発見されて国に戻り 自分が麒麟として不完全ではないのかという不安を持ちながら王を選ぶまでが描かれていたんだけど、この短編はその後日談のような。

     選ばれた王、戴国の王は俗に泰王と呼ばれて名を作 字を驍宗。(さく ぎょうそう)。もともと前の王の下で禁軍将軍をつとめた名高い武人で剣の達人。次の王の最有力者みたいに噂だった人物で その期待通り登極以来着々と国の基盤造りに余念がない。禁軍というのは王進や林冲が横山水滸伝では禁軍棒術師範みたいな肩書きで登場するけど日本で言えば近衛兵みたいな、王直属の軍隊みたいなものみたい。なので将軍といっても単なる軍人ではなく、王に目通りして朝議にも参加するなど政治家みたいな役割もこなしてきた。朝廷内のこともよくわかっていて知人も多く、忠実な部下を何人も持っている。

     戴の先王は諡号驕王(きょうおう)だけどこの作品では名前は出てこない。別の作品で、先代の王は決して暗愚ではなくどちらかというと優秀な王様で124年(この作品では王とか王の部下とかはたいてい仙人みたいな不死みたいな存在になる)国を治めたのだけど、後半は贅沢に凝って散在を重ねたせいもあって麒麟が失道して(この作品では王が馬鹿だと麒麟が病気になって死に、麒麟が死ぬと王も引きずられて死ぬ。こうやって馬鹿な王が不死をいいことに長く悪政をしく事を防いでいる)崩じたことになっている。すぐに次の麒麟が生まれたけどある程度成長しないと王を選べないので10年ほど空位の時代があった。驕王は女遊びなども晩年派手だったようだが愛人に政治に口を出させるようなことはせずに一線を引き、驍宗のような優秀な多く人物を登用して朝廷を運営していたために王がいなくても国はそれなりにうまく回っている。だがこの作品では王が長く不在のままだと作物なども不作となり天候も厳しくなり、妖魔が出現したりして国は荒廃するので国民は早く次の王を麒麟が選んでくれますように、と待っていることになっている。

     麒麟は宰輔というこの作品では王に次ぐ身分を示す肩書きで王の補佐をするのだが、泰麒は幼くして王を選んだので政治家としての経験は全く無い。そこで世話係兼教育係みたいな人物がついている。傅相(ふしょう)というのがそうした役職名で、正頼(せいらい)という人物がそうである。彼は元々は将軍時代の驍宗の部下だった。なんか爺やみたいな印象があるけど部下だったというなら若いのかな。
     驍宗と泰麒の周囲にいる、戴という国を動かす人々を紹介しているような短編で、現在の禁軍右軍将軍の阿選(あせん)、左軍将軍の巌趙(がんちょう)、瑞州という戴の国の首都がある州の軍をあずかる(別の話で瑞州の中軍将軍とある)女将軍の李斎(りさい)、大司徒の宣角(せんかく)、泰麒付きの護衛である大僕(たいぼく)という役職の潭翠(たんすい)、瑞州の左軍将軍の霜元(そうげん)、瑞州の右軍将軍の臥信(がしん)などが簡単な人なりと共に紹介される。

     泰麒は驍宗を王に選んだが、驍宗は時に泰麒をひるませるくらい怖さを見せることがある。彼の政治は時に苛烈で性急になりがちで、本人も自覚しているらしいが部下には飢えた虎のようだ、と言われてしまったりする。
     阿選は前王の時代には禁軍将軍で、驍宗と並ぶ双璧みたいに言われていた。武勇は同格で性格はやわらかく人望も篤い。泰麒も驍宗より阿選の方が話しやすく、阿選が王でもよかったように思うことがある。
     李斎は泰麒が最も親しみを感じる女将軍で、麒麟が王を選ぶ昇山という儀式にも王の候補として参加して、驍宗よりも先に知り合っている。当時は丞州という戴では比較的大きな州の将軍だったが、今は首都のある瑞州の将軍に抜擢されている。瑞州の軍は王直属の軍ではないが、事実上はほぼ同等の扱いを受ける。地方軍扱いの丞州の軍とはちょっと格が違う。

     泰麒は驍宗から南の国の漣(れん)まで使者として行ってきてくれないかと持ちかけられる。これは泰麒に見聞を広めてほしいという心遣いでもあり、漣の国の麒麟、廉麟には蓬莱に流された泰麟を連れ戻すのに力を借りた礼をまだ言っていなかったということもある。漣には内乱があったらしいけど最近はそれも落ち着いたようでタイミングもいい。
     別の作品で語られるけど、驍宗はいよいよ国の実権を把握するために前の王の時代から特権階級に居座っている連中を一気に整理しようとも決めている。この場合全く血をみないというわけにもいかず、血に弱い麒麟にはそのさまを見せたくないので国の外に出そうという驍宗の優しさでもあるのだが、泰麒から見れば自分を一人前扱いしていない、信頼していないみたいに受け止められる危険もある。
     
     泰麒、正頼、阿選、霜元、潭翠に下官という従者4名の計9名の小規模な訪問となる。

     北の果ての戴から南の果ての漣までは空を飛ぶ騎獣というものを使っても半月ほどかかる。この遠さのため、なかなか頻繁に行き来するというわけにはいかない。この世界には動力のついた車や列車、飛行機などはない。帆船や手こぎの舟か馬車くらい。一番速い移動手段は騎獣である。

     廉麟は美しくたおやかな女性の姿をした麒麟で、廉王は元百姓とのことで王宮でも自ら畑の世話をしている。朴訥とした好人物だがちょっと鷹揚すぎるようで、廉麟に身だしなみとか作法とかのことでよく叱られている様子。宮廷の出入りも見張りも護衛もおらず全然フリーで泰麒のお供の軍人たちはかえって落ち着かない。
     廉王の名は鴨(おう)、字は正卓(せいたく)。彼は役目や仕事が果たせない、役目と仕事の違いもよくわからないみたいな悩みを抱えている泰麒にあなたの役目は民に哀れみを施すことで、仕事は大きくなることです。まだ子供なんですから、と気持ちが楽になるようなことを言ってくれる。
     ひと月ほどの旅を終えて王宮に帰ると、驍宗は泰麒のために新しく家を作ってくれている。王のいる建物とも近い。さらに子馬を与えてくれる。泰麒は驍宗のそばにいて、見守っていこうと思う。
     
     と温かな感じで終わるんだけど、時系列的にこの次の作品では戴に政変が起きて驍宗は行方不明、泰麒はまたしても蓬莱に飛ばされてしまう。
     王と麒麟を失った戴の国は偽の王に支配され、国民は困窮する。そんな感じで6年が過ぎて偽王と戦い続けて追い詰められた李斎が国交が無きにひとしい慶国に助けを求め、泰麒を蓬莱から連れ戻すのが「黄昏の岸 暁の天」、連れ戻した泰麒が驍宗を探すのが最近出た18年ぶりの新刊、「白銀の墟 玄の月」となる。
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