「永遠の0(百田尚樹)」
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「永遠の0(百田尚樹)」

2019-11-23 19:00




    ・2009年に文庫になった本。当時はベストセラーだったらしい。
     現在は著者の方がいろいろ有名になってというか、なりすぎて、素直に感想とか言いにくい本になってしまった感がある。誉めてもけなしてもお前ナントカだろ、と決め付けられちゃいそうな。

     書名も映画も知っていたけど読んだり観たりする機会は無かったんだけど今ごろ読んだ。

     内容としては執筆時点の現代の若者である姉弟が、祖母が亡くなってはじめて、祖母の娘である母親は祖父の娘ではなかったこと、つまり祖母は祖父(と姉弟が思っていた人)の前に結婚していた相手がいて、その人は戦争で特攻隊として死んだらしいことを知る。

     姉はジャーナリストの卵でもあるのでこれをもっと取材して祖父の人となりをもっと知りたく思うし、これをきっかけにジャーナリストとしても飛躍したいと思う。これを手伝う司法浪人で事実上ニートの弟が主人公みたいになる。

     以下の人々に話を聞きながら、祖父の経歴と戦争の経過を知っていくことになる。証言者の経歴から、当時の軍の任官制度や組織のあり方なども垣間見える。

    ・元海軍少尉 零戦パイロット。 巡洋艦機関兵から航空兵。第三航空隊として外地転戦。
     祖父とはラバウル基地のガダルカナル攻防戦で面識。臆病な卑怯者として記憶。

    ・元海軍中尉 零戦パイロット。予科練から横須賀航空隊を経て空母「赤城」搭乗員。
     祖父とは赤城の同僚パイロット。中国から来た祖父を見事な着艦をする優秀な男と記憶。

    ・元海軍飛行兵曹長 戦艦砲手から操練を経て台南航空隊。ラバウルからラエ基地。
     祖父とはラエで面識。いばらない上官で凄腕のパイロットとして記憶。臆病とも感じる。

    ・元海軍整備曹長 ラバウルで整備兵。
     整備に口を出す神経質なパイロットとして記憶。整備兵に感謝の念を示す人物としても。
     飛行機の不調を感じ取る名人で、ちょっと乗るだけでどこそこがおかしいと指摘したとも。

    ・元零戦パイロット。中国上海の第十二航空隊で同僚。その後各地転戦して瑞鶴で再会。
     マリアナ沖海戦で共に戦い、相手の近接信管の威力について会話。
     その後別れるが、レイテ沖海戦時ニコルス基地で三度目の邂逅。祖父の特攻拒否を目撃。

    ・元海軍少尉 予備学生から特攻隊員。のちに桜花乗組員。出撃命令前に終戦。
     祖父を合格させない厳しい教官として記憶。それが学徒兵を殺させないためだったと知る。

    ・元海軍中尉 元零戦パイロット。特攻要員として終戦。
     祖父を飛行訓練で死んだ仲間を罵倒する上官に彼は立派です、と逆らった教官として記憶。
     訓練中に祖父機が敵機の奇襲を受けた時、予備学生が教官機をかばって被弾したとも証言。

    ・元海軍上等飛行兵曹 祖父の特攻時に直掩機として出撃。祖父の最後は見ていない。
     祖父を大嫌いだったとも、抜群の腕だったとも語る。空戦を強引に挑んで負けている。
     戦後ヤクザとなり、ある女性のためにある男を殺し服役。

    ・元海軍一等兵曹 鹿屋通信員。
     祖父が特攻や桜花を批判して泣く姿を記憶。直掩機で出撃する度に守れなかった、と。
     特攻隊員に選ばれた時、自分の52型をあるパイロットの21型と交換したと記憶。
     ※52型は零戦の最終型。21型は初期のもので性能的に大幅に見劣りした。

    ・元飛行学生 特攻隊員。
     祖父を惻隠の情のある教官と記憶。事故死した同僚を罵倒する士官を体をはって諫めたと。
     訓練中に奇襲を受けた祖父を思わず飛行機でかばい負傷。のちに祖父とともに特攻出撃。
     エンジン不調で不時着し、生き残り終戦を迎える。その機は祖父と交換したものだった。
     彼は戦後祖父の妻子を訪ね当て、命を救われた礼を言う。困窮していた彼女に金銭的な
     援助を行う。彼女は彼を祖父の生まれ変わりだと思ったという。
     やがて彼女があるヤクザに騙されて食い物にされていたとき、突然現われてその男を殺し
     彼女を救い出してくれた男がいたことを打ち明ける。彼女はその男も祖父の生まれ変わりと
     感じていたという。

     戦争を賛美している、なんて批判していたのを見かけたような気もするけどどちらかというと旧日本軍、特に指導層や幕僚、指揮官たちをかなり批判している。

     祖父は実家が困窮していたために食うために軍人になったような背景を持ち、妻子を残して戦場に行く。彼は腕前は抜群なのだが積極性に欠けるというか、出撃するたびに相手を倒すよりも自分が生還することを優先するような印象を周囲に与え、戦えば絶対に負けないのだが極力戦いを避けようとするため臆病者とか卑怯者のようにも評価される。彼が同僚や部下、教官時代の生徒に伝え続けたのはなんとしても家族の下へ生きて帰れということで、自分の列機(同じグループの仲間で、祖父の部下みたいな)からは死者を出さなかった。そのために生き残った人たちが証言者になっている。

     その背景にどんなに腕のいいパイロットがいても、軍に入るときのルートというか、兵学校を出たか出ないかみたいのが災いして彼らの上官となるのはろくに現場を知らない人物ばかりで、パイロットは今でいえば非正規雇用の労働者みたいな扱いしか受けず、そのために抜群の腕を持ったパイロットたちがブラック残業みたいな無謀な作戦で次々に倒れていったこと、彼らベテランがいなくなると学生を含めた若者を集めて促成栽培みたいに爆弾もって体当たりだけできればいい、みたいに特攻隊員として事実上志願しないわけにはいかないような環境で戦場に送りこみ、しかもほとんどが戦果をあげるどころでなく相手の船までたどり着くこともできずに次々に死んでいったことが怒りを持って語られている。

     祖父は生き残ってはいけない特攻作戦というものは批判し、自らも率先して志願を拒否したのだが特攻に出る若者を促成栽培する教官となり、また特攻機を護衛する直掩機に乗って若者を死なせるために敵艦に体当たりするまでエスコートする任務を持たされる。そのために何人もの教え子の死を経験することになる。

     多くの名パイロットの実名を出してその活躍と最後について記述している。名パイロットをわざわざ丸腰の輸送機に乗せて失うなど愚行としか言えないような話や、祖父のように特攻志願を拒否したり指揮官として上層部の方針に逆らって命をかけて特攻に反対して部下を守った人々がいたことも書かれている。だがそうしたことが戦後マスコミが報じずにほとんど知られていない事も。
     そしてそういう中で命じられた以上は最善を尽くして特攻任務について死んでいった若人がたくさんいたことも。彼らは決して狂信的なテロリストなどではない、と思わせる。
     零戦の性能が良すぎたからこそ、長躯遠征しての長時間戦闘を連日強いられる形となって優秀なパイロットが疲弊して斃れていったこともある人物のセリフとして提起されている。

     特攻隊員は全員狂気のテロリストだ、と主張する某社の新聞記者が登場するけどこれはまあお約束だろう。

     若い姉弟が戦争を体験した老人たちに話を聞くという筋立てなので、話し手の老人たちはなになにというのはこれこれのことだ、と用語解説を入れながら語ってくれる。ということで若い人にもとっつきやすくなっている。

     帯と解説は児玉清さんが書いていて絶賛している。まあそんな本でした。
     著者が好きとか嫌いとか誰かが誉めてるとか批判してるとかで決めないで、評価は自分で読んでということで。
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