「さんさん録(こうの史代著)」
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「さんさん録(こうの史代著)」

2019-12-09 19:00




    ・さんさんというのは主人公のあだ名みたいな。彼の奥さんだけが彼をそう呼んでいた。
    主人公の本名が参平なので参さん。
     三年前に定年を迎え、子供は独立。さあこれから夫婦でゆっくり、みたいな時に奥さんが事故で急逝。参さん、あるいは参平さんと彼を呼ぶ人はこれでこの世にいなくなってしまう。

     気の抜けたようになってしまった彼を見かねて息子夫婦が声をかけ、小学校二年生らしい孫娘も含めた四人で同居生活になる。彼が奥さんと暮らした家からは電車に乗って通える距離。
     息子は母を苦労させ通しだった彼にちょっと冷たく、孫娘はなんだか何を考えているかわからなくてかわいくない。嫁はやんわりした性格だがちょっと大ざっぱで抜けている様子。

     孫が混乱するから、という理由で息子は彼を父さんではなくてじいさんと呼ぶようになる。お嫁さんのお父さんがおじいさんなのでという区別のためもあってじいさん。
     孫にもじいさんと呼ばれることに。お嫁さんはおとうさんと呼ぶ。

     お嫁さんは元花屋さんで、ご主人との出会いも職場でだったのだが、今は専業主婦。だが実家の父親が体調を崩し時々里帰りをしたりしているうちにもう一度働きたいと言い出す。
     じゃあその分自分が主夫として家事をしよう、みたいな話になって彼にも息子の家の居候ではなく、居場所ができていくみたいな。

     奥さんが書き残した暮らしの知恵みたいなノートがあって 困るとこれを読む。料理や掃除、裁縫などのコツやお嫁さんや孫のことなどが書かれていて彼を助けてくれる。
     この知恵が漫画の中にも時々豆知識のように挿入される。
     この奥さんのノートには付箋で掃除録とか料理録みたいにまとまりごとに印がついていて、特に夫が自分の死後読むことを考えたようなさんさん録というページもある。

     お嫁さんの代わりに息子の勤め先に忘れ物を届けに行った時、妙齢の美人が息子に迫っている様子なのを電柱の陰から見てしまう。てっきり浮気相手だと思い込んだ彼はこの女性に接近して遠くに行く特急に騙して乗せてしまう。

     ところがこの女性はヘッドハンターで、息子にいい転職の話を持ってきていたのだった。その後家にもやって来るようになり、よくも騙したなみたいに仕返しもされるのだが、この女性と主人公は親子でも恋人でもない、互いの孤独を癒しあうような、さびしさを分かち合うような一種独特の関係になっていく。

     そんななにげない日々がなんとなく続く中、息子夫婦が冷戦状態に。理由はわからない。やがて突然お嫁さんが実家に帰ります、と言い出す。あなたのお望みどおり仕事も辞めますから、なんて言い残して。
     主人公がどうしたものか、と相談に行くのはヘッドハンターの女性。いつの間にか彼女は主人公のことを参平さん、と呼ぶようになっている。
     彼女と話しているうちに主人公は、自分がこの家庭を守らなくては、と思い立ちお嫁さんの実家に孫娘を連れて出かけていく。

     お嫁さんが実家に帰った理由をようやく聞き出すことに成功する。彼女は二人目を妊娠していたのだが、孫娘を産む際にはつわりがひどくて二ヶ月入院するなどおおごとで、死さえ覚悟したのだという。なのでまたあのたいへんな思いをするのか、と心の整理の時間が必要だった様子。二人目ができて育児をはじめれば仕事ももうできないだろうとの覚悟も。

     主人公は息子夫婦が、仕事ばかりで子供の世話を妻に任せっぱなしで子供とろくにかかわれなかった自分の二の舞にならないよう出来る限り助けるつもりでいる。

     そしてそろそろ自分は妻と暮らした家に戻ろうかとも。その時はヘッドハンターの女性が一緒かもしれない。
     
     あとがきによれば著者が有名になる前に連載をはじめた作品だそうで、これでだめなら漫画家もやめよう、みたいな時期に描いていた作品らしい。なのであえて自分が苦手なものを描こうとしたみたいな。
     幸い「夕凪の街 桜の国」がヒットして著者の境遇は変わり、漫画家も続けられることに。
    この作品は著者が最も自信を持てない作品に仕上がり、ここで終わってなるものかと発奮させることにもなったらしい。

     お嫁さんは、この世界の片隅に のヒロインのすずさんを思わせる。
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