「火星の遺跡 (ジェイムズ・P・ホーガン著)
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「火星の遺跡 (ジェイムズ・P・ホーガン著)

2019-12-10 19:00




    ・「星を継ぐ者」で日本のSF界に大きなショックを与えたように記憶しているジェイムズ・P・ホーガン氏も、今は鬼籍に入ってしまった。なので今ごろ新刊が出るとは思わなかったのだが、2001年に書かれて未訳だった作品がようやく訳されることになったみたい(といっても出たのは昨年の暮れだからもう一年放置してしまった)。そのへんの事情は特に解説などには書かれていない様子ではっきっりわからないけど。

     舞台はドーム都市がいくつも建設されて人間の住む場所がどんどん拡張されつつある火星。農場や工場などもある様子。ここではまだ国家というものは十分に発達しておらず、地球の保守的な科学界にうんざりしたようなベンチャー企業が多く進出して斬新な研究を行っている。いくつかの都市が覇を競っているような感じで観光客や移民たち、企業などを惹きつけるべく様々な試みを行っているが、人がいるところいかがわしい商売や犯罪組織も進出してくる。
     国家権力や警察組織のようなものは十分に発達していないので、民間の警備会社のようなものが成功をおさめつつある人たちには必要になってくる。

     主人公はフリーの紛争調停人といったところで、未整備な法律を利用して人々の財産を奪ったり、力ずくで商売に成功したものから金を巻き上げようとする連中を知恵と力で撃退するみたいな仕事。非常に人の心をつかむのがうまく、仕事をするたびに様々な専門や知識を持った人間のネットワークを増やしていく、というタイプ。顧客だった者が彼の友人になり、協力者になり、情報提供者になり、時には共に戦う同志になり、みたいな。

     彼には恋人がいて、彼女はフリーの科学情報ブローカー兼アドバイザー。どんなベンチャー企業がどんな研究をしているかをいち早くとらえ、マスコミが大騒ぎしてもみくちゃにされないように情報を管理してそれをそうした技術を欲しがっている顧客や学術雑誌に適切なタイミングで紹介したり、契約したりのサポートをしている。火星だけでなく太陽系全体に人類が進出して百億個を超える有人小惑星に起きる出来事を全て知っている者はなく、自分で調べてもなかなか必要な相手とは出会えない。
    そこで彼女のコネや顔の広さや知識が役に立つみたいな。

     主人公は何度も火星に仕事に来ているのだが、今回は休暇で彼女のアパートに滞在中。そこで彼女が協力している、とある実験の成功を知る。それは人間を瞬間的にある地点から別の地点に転送する技術。これが実用化されればいまだにロケットでしか人も物資も送れない、という制約が無くなることになり、これを開発した会社は一躍一流企業の仲間入りで膨大な利益を独占できる。
     彼は好奇心で彼女のコネでそのベンチャー企業に行き、実験スタッフや経営者と顔をつなぐ。しばらくして、ある男から彼に相談が来る。その男こそ開発の中心となった科学者でありながら、自ら志願して転送される人間第一号としてこの偉業を成功させた人物だった。
     この実験に不都合が起きたと知られれば一気に株価が暴落し、会社も潰れかねない。だから男はこのことを公的機関に相談したりできないのだ。発生した不都合とは、転送される前の男と転送された後の男の記憶に差異が生じてしまったこと。彼は親しかったはずの人間を数名、覚えていないというのだ。その中には恋人もいたはずなのだが。

     さらに新たな事実が発覚する。瞬間移動といいながら、万一を考えてもとの身体も一定期間保管されていたのだ。つまりパソコンの操作で言えば切り取って貼り付けするのではなくて、
    コピーして貼り付けて、貼り付けられたものがオリジナルと同じかどうか確認してからオリジナルを消去する、という手順を踏んでおり、人間の瞬間移動というよりも人間の複製技術という方が実態に近かった。身体検査などは十分に行ってオリジナルを消去したはずだったが脳の中の記憶まではチェックできなかったのだ。

     男は他にも困惑を抱えている。男はこの実験に参加することで多額の報酬を得たのだが、その報酬がそっくり銀行口座から消えてしまったという。そしてこれを引き出したのは男本人らしい。つまり男は二人いるらしいのだ。オリジナルが消去されていなかったとしか考えられない。こうなると事故ではなく、何者かが仕組んだ計画的な犯罪が疑われて来る・・・

     ということで主人公は男が記憶と恋人と財産をもう一人の自分から取り戻すために活躍することになる。というのが第一部。

     第二部は一部登場人物に重複はあるものの別の事件になっていて、第一部で知り合った地質学者から考古学兼地質学の遠征調査チームの欠員を埋めてほしいと依頼された主人公が自らこの遠征に参加。遠征隊は火星の古代遺跡を掘り当てて、これは人間ではない古代文明が作ったものらしく、地球上のピラミッドなどの巨石文化の作り手と同じ存在がかかわっていると思われる。

     だがここで邪魔が入り、この土地の採掘権を持つという不動産会社が傭兵を差し向けて調査隊を排除にかかる。もともとこの土地は開発する価値なしと彼らが放棄したので調査に入ったはずだったのだが何かおかしい。調査隊は科学者・技術者ばかりでこうした事態に対処できる人間がいない。主人公以外は。ということで彼は事態収拾に乗り出し、その陰にはある陰謀と、以前彼に邪魔をされて復讐を試みる集団がいることを突き止める。

     ということで、この主人公が様々なトラブルを解決する、連続テレビドラマの原作みたいな印象。主人公はほとんど相手の先回りをして完璧な計画を立てるのでほとんど危なげがない。ラスト近くだけちょっと思惑が外れてピンチになるけど、基本的にはほとんどハラハラしたりしないで安心して読んでいられる。

     ホーガンの他の作品に比べると軽い印象を受ける。タイトルの火星の遺跡も、その遺跡そのものを探索して謎を解いたりするのではなくて、その遺跡を価値もわからないくせに下心のある人間たちに渡さないように奮闘する話なのでちょっと謎はおいてきぼりになる。

     あまり考えないで読むにはちょうどいいかな、という感想。

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