「蘭学事始(杉田玄白著)」
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「蘭学事始(杉田玄白著)」

2019-12-11 19:00




    ・有名だけど中身を実際に読んだことない本。何を思ったか買ったことがあるらしく、本棚の隅から出てきたので読んで処分することに。

     紹介されているのは玄白本人が蘭学(当時はこの言葉は無かったらしく玄白たちの造語らしい)を志したきっかけや、一緒に志した仲間のことなど。この本を書いたのは玄白82歳の時。彼は八代将軍吉宗の頃に医家の子供として生まれる。彼の誕生と引き換えに母親は死亡。医学や漢学を学びながらしだいに交友を広め、その中には和蘭(オランダ)の文物に興味を持つ者が少なからずいて、日本の医学書よりもあちらの医学書の図の方が正しいのではないか、と思うようになる。その思いから罪人の腑分け、今でいう解剖に立ち会ってこれを確かめ、いわゆるターヘル・アナトミア(というのは原書の書名ではないらしいが)として知られる解体新書の翻訳を思い立つ。これが十代将軍家治の時代。

     腑分けに立ち会ったのは大勢だったらしいが全員の名は書かれておらず、帰り道が一緒だった前野良沢、中川淳庵と語り合ううちに良沢と玄白が共に同じものを入手していたターヘルアナトミアの翻訳を思い立つ。これが39歳の時。41歳の頃にはほぼ訳が終わり、42歳の時にこれを出版する。
     彼がこの蘭学事始を書く頃には、学ぶ人が少なかった蘭学をやる人がものすごく大勢となっているが中には事実でないことを話す人もいるようなので後でわからなくならないよう当事者として知る限りの事を書き残しておく、みたいな事が執筆動機として語られている。

     解体新書翻訳の具体的な作業内容などはわずかに書かれているだけで、全般的に当時どのような蘭学を志す人がいて、彼はこんな背景を持つ人でこんなことをやった、でも今は亡くなった、みたいなことが列記されているような印象。本職のオランダ語の通訳である通詞についてはあいつら全然オランダ語ができない、とけっこう厳しいことを書いているけど本人も学ぼうとして挫折している様子。貴重な記録だがけっこう勘違いや間違いもあるらしいことが注に書いてある。
     自分自身のことは粗漫にして不学で力もないと書きつつも、これを翻訳して世に出せば日本の医学は進歩して多くの人の役に立つという情熱は誰よりも強かった様子が感じられる。良沢のオランダ語の才能が無ければできないことだったとも書いて称えている。
     一方で当時は西洋のことを書いた本が幕府によって出版差し止めになるなどの事例も多かったらしく、これを避けるために様々な伝手を頼って幕府要人や公家にお伺いを立てたり見本をもっていって見てもらったりと根回しをした様子。こうしたことは良沢より玄白の方が適任だったらしい。
     多くの関わった人を紹介しつつも 各々志すとことありて一様ならず などと人間集団のとりまとめに苦労したらしいことも書いてあるが基本的には誰かを責めたり罵倒したりするような言葉はなく、彼はこんなことをやってくれた、彼のおかげでこんなふうにできた、みたいなプラス評価が多く書かれている。それだけに通詞への厳しい記述は目立つ。注には玄白が書いたほど能力の無い通詞ばかりではなかったらしいことが書いてある。このへん個人的に何かあったのかもしれない。
     全般的に謙虚で真面目な人柄が感じられる。この人の性質があってこその蘭学の発展だったのかもしれない。
     文庫本では玄白の書いた本編は全体の半分くらいで、注や年表、解説などが残り半分を占めている。
     最近読んだ磯田道史さんの本でも、一つでも多くの古文書を牛が草を食べるように読み解いて世に残していきたい、みたいなことが書かれていたけど、なんか似たものを感じる。

     でもこの本を苦労して読むよりみなもと太郎さんの「風雲児たち」や、これを元にして三谷幸喜さんがテレビドラマにした「風雲児たち~蘭学革命篇」を見た方が若い人には有意義だと思う。こういうのを学校の授業で教材として使えるようにしてほしいものだけど。


     菊池寛さんにも蘭学事始という小説がある。この内容には玄白の蘭学事始に書かれていないこともけっこうあるけど、菊地さんの創作なのか元ネタがあるのかよくわからない。
    https://www.aozora.gr.jp/cards/000083/files/497_19867.html

     原本は安政の大地震で焼失したそうで、写本が何冊か伝えられているものの互いに相違があったりするらしい。明治になって福沢諭吉が斡旋して出版したものは、神田孝平という人が幕末に露店で買い求めたものを元にしているという。

     それかどうかわからないけど国会図書館で原本は読める。読めるものなら読んでみろ、という感じだけど。
    http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/826051
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