「クロストーク(コニー・ウィリス)」
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「クロストーク(コニー・ウィリス)」

2019-12-15 19:00




    ・この著者の作品を読むのははじめて。解説によると現在のアメリカではトップクラスの実力がある人気作家で、受賞暦もそうそうたるものらしい。

     新書で700ページ、厚み3センチのボリュームでちょっと読む前にためらう。けど読みはじめたら引き込まれて一気でした。

     かなり現在に近い近未来。アップルやフェイスブック、ツイッターやディズニーなども実名で登場し、アンジェリーナ・ジョリーやブラッド・ピットも存在しているらしい。

     赤毛のヒロインが働いているのはベンチャーっぽい携帯電話会社。だけどアップルみたいに大資本じゃないので、アイデアで勝負して一発当てようみたいな。彼女は社内でもやり手と評判のイケメンエリートと交際中で、彼も自分も秘書を使える身分。
     この時代、EED(何の略かも、どんな原理かも出てこない)という医療系の新技術が実用の段階に入っていて、愛し合う二人でこの手術を受けると心だか感情だかが繋がって、お互いの誤解や隠し事のない密な関係になれるのだという。そしてイケメンの彼は彼女に二人で一緒にEEDを受けよう、と申し出る。これは事実上のプロポーズのようなもの。彼女もOKするつもりなのだが障害がある。それは彼女の家族。

     彼女の家系はアイルランドに起源があり、未だに純潔なアイルランド人同士でしか婚姻していない。そして彼はイングランド系。事実上の家長である大叔母は、アイルランド人以外との結婚は絶対許しません!というタイプ。彼女の両親は既にいないのだが、大伯母は実の親以上に彼女に干渉してくる。姉と妹がいるがどちらも頼りにならないどころか悩みの種。
     姉は9歳の娘に過干渉気味で、娘に自由を全く与えない。そのため娘はますます反抗的になって手に負えないことに。それで疑心暗鬼になって娘がディズニーの映画を見るたびに映画の価値観に洗脳される、と相談の電話をしてくる。
     妹は男にだらしなく、男を見る目がない。常に誰が見ても問題ありの男にお熱を上げてはのろけの電話をし、やがて破局後の悲嘆の電話に変わる。

     姉も妹も彼女の都合は考えず、早朝から真夜中まで、仕事中も休息中も電話をかけてきて一方的にしゃべりこちらの意見は都合のいいように曲解する。電話に出なければメールの嵐。
     (大)伯母は何かと彼女にアイルランドの男性を紹介しようとする。だが伯母の紹介する青年は若くても40代で頭髪が後退している人が多い。
     この親族女性トリオは彼女のアパートの部屋の鍵も持っていて留守中にあがりこんだり、突然アポなしでノックもせずに入ってきたりする。何度言ってもあらたまらない様子で、彼女の方があきらめている感じ。恐ろしいことにトリオは彼女の職場の彼女の部屋にも同じように突然やってくる。
     彼女の仕事は社運をかけたスマホの新機能・新機種の開発で、彼氏はその取りまとめ役みたいな。彼女の具体的な仕事内容はよくわからないけど、この彼氏とある天才技術者の間の連絡役みたいなこともやっている。
     アップルが現在開発している新世代iphoneはかなり高性能らしく、これが発売されるまでに画期的な新製品を開発できなければ会社は一気に傾きかねない。それを避けるにはこの天才技術者が何を開発してくれるかにかかっている。

     天才技術者は天才な分変わり者で人嫌い。地下の研究室にこもりきりでほとんど泊り込んでいるらしく、服装はかまわないし髭も伸ばしっぱなしの知らなければホームレスと間違えられる姿。会議も全部すっぽかすし電話にもメールにも応答しないので誰かが用事がある度に地下まで出向かなければならない。そして彼女以外の女性社員はこの技術者をキモイとかオタクだとかと敬遠し、彼氏も含めた男性社員は技術者の才能をしぶしぶ認めつつも小馬鹿にしているので連絡役はたいてい彼女になる。彼女は技術者の天才ぶりには一目置いており、馬鹿にすることもないせいか技術者も彼女だけにはちょっと友好的な様子もある。

     会社には知ったことを誰彼かまわず話さずにはいられないゴシップガールが数名いて、彼女たちにつかまれば根掘り葉掘り質問攻めで拘束される。というわけで彼氏にEEDを一緒に受けないか、と言われた翌日出社すると、会社では質問の雨、家族からはメールの雨で駐車場から自分の席になかなかたどり着けないしゆっくり考える暇もない。彼氏との交際に反対な家族にどうやって伝えるか考えたいのに。この調子だと自分で伝える前に会社の誰かが家族に伝えてしまう。彼女の家族は私用でバンバン電話もするし突然訪ねても来るので会社の人間ともたいてい顔見知りなのだ。ゴシップガールが知れば間違いなく家族にも筒抜けだ。そうなれば確実にもつれる。彼女は自覚が無いが自分に不都合なことがあるとその場しのぎの言い訳をしてどんどん事態をややこしくするタイプでもある。
     
     姉の娘で彼女の9歳の姪は落ち着いた子だが、母親は姪がスマホを持てばテロリストに連絡をとっている、みたいに思い込むタイプで干渉が激しく、結果として姪はますます母親に隠し事をするようになる。母親にとっては「秘密の花園」も「ラプンツェル」も「アナと雪の女王」も姪を不良にする悪いモノ。そして姪はゾンビ映画が大好きなのだが一切母親には隠している。この姪だけは他の三人の親族に欠けている常識があるのだが、姪はイケメン彼氏のことは大嫌いな様子で味方にはならない。

     そして社内の情報にはうとい筈の天才技術者まで彼女のEED手術のことを何故か知っていて、絶対にやめるべきだ、と干渉して来る。実は彼にはこれが危険だというある証拠に基いた確信があるのだが、彼女は技術者が嫌がらせをしているのだと思ってさんざん罵倒する。

     本来手術を担当するのは人気医師で予約がいっぱいで半年以上先のはずだったのだが、突然キャンセルが出たとかで手術は早まり、家族や技術者が本格的に妨害にはいる前に手術は終了。

     だが、彼女はこのためにとんでもないトラブルに巻き込まれる。技術者はそうなることを知っていて、だからあんなに反対していたのだ。だがもう元には戻せない。

     トラブルは一つではなくて連鎖的に拡大していく。技術者は助けてくれようとするが、変人で通っている彼と会社以外で一緒にいることを見られるのはいろいろとまずい。
     そしてイケメン彼氏がEEDを提案したのは必ずしも彼女が思っていたような愛情のためではないこともわかってくる。

     ということでトラブルが発生してからは怒涛の展開。終盤になるとそれまであちこちに時間をかけて配置されていた伏線が一気に回収されていく。

     基本的には美女と野獣とかノートルダムとかの系統の話かな。さすがに一晩では読み切れなかった。

     冒頭でヒロインが直面するコミュニケーションの洪水の様子は、共感するサラリーマンも多そうに思う。
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