茶匠と探偵(アリエット・ド・ボダール著)⑥哀しみの杯三つ、星明りのもとで
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茶匠と探偵(アリエット・ド・ボダール著)⑥哀しみの杯三つ、星明りのもとで

2020-01-22 19:00





    ・研究者として偉大な業績を残した女性が闘病の末に死亡する。帝国の食糧生産に関する貢献が多く、女帝からも目をかけられていた。
     この作品世界ではそのインプラント・メモリという人格データみたいなものが残されて、後継者に渡される。引き継いだものは彼女の生前と同様に、その人格データに相談したりアドバイスを受けたりできるみたい。通常は子供に引き継がれる。
     だが彼女はあまりにも偉大すぎ、その研究は帝国にとって重要でありすぎたのでメモリは息子のクァン・トゥではなくて母の直弟子のテュエイト・ホア教授に与えられることになる。
     二重に母を失うことになるクァン・トゥは落胆する。彼の気持ちをわかるのは妹のタイガー・イン・ザ・パンヤン(正榕虎)だけだ。彼女は母が産んだマインドシップ(有魂船)だ。本体は宇宙空間にあるが、クァン・トゥに部屋にホログラムのようなアバターとしてやってきて兄を慰める。その姿は宇宙船をそのまま縮小したものだ。彼女はお茶を入れて兄の心を落ち着かせる。

     一方で師のメモリを引き継ぐことになったテュエイト・ホア教授の方は、頭の中に挿入されたメモリから絶え間なく指示を出してくるデュイ・ユェン教授にせっつかれる毎日。局長として引き継いだ地位には責任も重圧も伴う。
     その朝も脳内のデュイ・ユェン教授に叩き起こされて、部下の報告書をすぐに詠めとの指示。読めば稲を育成するプラントで疫病発生の知らせ。すぐに何らかの手を打たねばならない。彼女は報告してきた部下、ルオン・ヤン・カンの待つ宇宙ステーション内のラボに向かう。二人は原因について何が考えられるか意見を交換する。原因は湿度だという見解に傾くが脳内の教授が割り込んできて、温度だ、と指摘する。メモリになった教授からは人間らしさが排除されていて、理詰めで鋭く切り込むような反対意見を述べてくる。
     だが、今は責任者は師ではなく自分である。彼女は脳内の教授とは異なる見解を持ち、脳内の教授がののしるのに耐えながら異なる対策をうつ。

     船である正榕虎は兄のクァン・トゥのようには母の死を悲しまない。自分が船であり、兄や母が人間であると知った時から、百年後の自分は母も兄も失って一人になって生きているのだと悟った時から、叔母や叔父やいとこたちもいなんくなるのだ、と知った時から哀しみを受容し続けて生きているから。だから兄が喪に服している間に彼女は通常業務に戻る。惑星や軌道にある様々なものの間で人々を運ぶ。時には最果ての星にも。
     だが母が建設していた農業プラントステーションに近づくことは無意識に避けている。

     老朽船と言えるほどベテランのマインドシップ・ドリーム・オブ・ミレット(黄粱一炊)から彼女は様子がおかしいぞと指摘される。彼女はうとましく思いつつも相手の年齢に敬意を払う。母が死の直前に最後の乗船をした時のことを思い浮かべる。彼女は母のリクエストに応えて深宇宙に行った。その時母と娘は声を合わせて歌った。

     やがて断れない命令がやってくる。錦衣衛(きんいえい 役人みたいなもの?)を乗せて母のステーションに行けと。どうもこの任務が正榕虎にまわってくるように黄粱一炊が工作したらしい。アノヤロウと思いつつ客を乗せて目的地に向かう。

     その客は、母のメモリが兄ではなく弟子にわたることを告げに来たのと同じ人物だった。彼はそのことを謝罪する意思のあることを示す。だが正榕虎は母の残したステーションを間近に見て、そうした価値はあったのだと思う。
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