「息吹(テッド・チャン著)」①商人と錬金術師の門
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「息吹(テッド・チャン著)」①商人と錬金術師の門

2020-02-19 19:00




    ・帯には知性の極限を追求した世界最高水準のSF作品集、みたいなことが書いてある。
     この著者は作家デビューして29年間に短編集をこれを含めて2冊しか出していないという超寡作な兼業作家。だけど二年に一作くらいの間隔で発表する短編はどれもこれも新しい視点や深い考察があるみたいなでセンセーションを巻き起こし、幾多の賞を受賞しているという。
     知る人ぞ知る作家だったのがその短編のひとつが「メッセージ」という映画の原作として採用されてからは認知度もあがり、注目度も増したところでこの二冊目の短編集が発表されてやっぱりスゲーやこの人、みたいになっているらしい。

     そこまで話題になると何か読んでおかないといけないのかな、という義務も感じて読んでみました。難解なのかな、と怖々読んだのだけど心配したほど難解ではなくどちらかというと読みやすい。でも表面的に書かれたこと以外にたくさん哲学とか宗教とかの問いみたいのが沈んでる気がして、私にはそのあたりはうまく汲み取りきれないかなという印象でした。

    ・商人と錬金術師の門 The Merchant and the alchemist's Gate
     アラビアンナイト風のタイムトラベルもの。どこでもドア時間移動版、とでもいうべき「門」というものをある錬金術師が作り上げる。こっちから入ってあっちへ出ると、そこは20年後の世界。あっちからこっちに門をくぐれば戻ってこれる。
     でも当然ながら門が作られる前の過去には行けないし、将来門が失われていたら未来へは行けない。未来に行って知った自分の運命は変えられない。
     ある若い商人がこの門を教えられ、門をくぐって過去に行く。そこで悟ったことは、みたいな話。
     前座として三つの話が錬金術師によって語られる。
    ①繩ないのハサンという若者が未来へ行き、裕福な商人になっている未来の自分にアドバイスを受けながら災厄を避け、仕事のチャンスをつかむ。だが年長のハサンはそうしたことを小出しにしか教えてくれない。やがて年長のハサンは若いハサンに最後のアドバイスをする。

    ②アジブという若い織工が未来へ行き、貧しい未来の自分を見る。だが家に忍び込むと金貨が山ほどある。アジブは思わず未来の自分から財産を盗んでしまう。

    ③最初の話の年長のハサンの妻、ラニヤは夫が若者と話しているのを目にする。若者は若き日のハサン。ラニヤは知り合った日よりも若い夫に一目ぼれして門をくぐり過去へ。そこでハサンに迫る危険を知り、自分より20年あとの老ラニヤの助けも借りて若いハサンの命を救い、ハサンのはじめての女となる。

     この三つの話を聞いた語り手である若い商人は、事故で死んだ妻が死ぬ前の時間に旅立つ。
    そして彼が過去で経験したことは、という話。
     過去も未来も変えられないが、隠れた事実を明らかにするなどもっと深く知ることはできるみたいな。

     著者によれば執筆のきっかけはノーベル賞物理学者キップ・ソーン(コンタクトやインターステラーにも関係)の講演で、タイムパラドックスを起こさないタイムマシンのアイデアを聞いたことかららしい。つまり過去も未来も変えられないタイムマシン。そのアイデアで、悲しくない話を書いてみようと思ったみたいな。

     妻の死は変えられないけど、妻の思いをより深く知ることで彼女を失った余生はより幸福なものに変わるみたいな。
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