「息吹(テッド・チャン著)」②息吹
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「息吹(テッド・チャン著)」②息吹

2020-02-20 19:00



    ・息吹 Exhalation
     語り手は人間ではなく、空気圧で動く機械知性のような存在らしい。彼らは空気が満ちた肺を胸部にセットして、これが空になる前に交換する。自宅で交換するより大勢で話をしながら交換する方が楽しいらしく、給気所というところで一種の社交的行為として肺の交換をしたりする。胸から取り外した空っぽの肺は、給気所で空気を充填しておくと他の誰かが使う。

     給気所の空気はどこからくるのかというと、地下深くにある貯蔵槽というものにつながっているらしい。彼らは基本的には永遠の寿命を持つが事故などで身体が破壊されれば死んでしまうし、空気が無くなれば死んでしまう。

     語り手は解剖学者で、彼らの記憶はどのように保存されているかを研究している。不死に近い彼らの医学はあまり進んでいない。壊れた手足の修繕などはできるが、脳の研究は手付かずだ。事故の場合は内圧で脳ははじけてしまい、金箔の雲のようなものになってしまう。そのため正常な状態がわからない。この金箔に刻まれた刻印が記憶だという仮説もあるがはっきりしない。彼らの文化では健康な脳の様子を解剖して見よう、みたいなことは心理的な禁忌であり誰もチャレンジしない。

     語り手はついに、自動機械のマニピュレータを使って自らの脳を観察しようと決意する。そして慎重な手術と観察の結果、彼らの思考や記憶は空気の流れそのもので作られていることがわかってくる。

     そして彼は空気の速度が落ちてきていて、その結果彼らの思考速度が落ちてきていることを発見する。肺の空気の圧力は十分高く、落ちているのは大気圧の上昇によって相対的に体内の空気速度が落ちているのだとわかる。地下貯蔵槽の圧力と大気圧が等しくなれば空気は流れなくなり思考は止まり、身体も動かなくなるだろう。彼らにとっては世界が滅びるということになる。

     科学者でもある語り手は、世界の滅びに関して冷静な観察と記録を残し、いつかこれを読むであろう自分たちとは異なる知性に語りかける。存在するということは奇跡だね、と。

     著者によれば執筆のヒントはフィリップ・K・ディックの「電気蟻」という作品の、ロボットが自分の心であるパンチテープを覗くイメージと、
     ロジャー・ペンローズという人の「皇帝の新しい心」という本で人間は宇宙の秩序を無秩序に変えながら生きている、つまりエントロピーを増大させながら。それができるのは、宇宙のはじまりが非常に秩序の高い状態からはじまっているからだ、という文章を読んだことからだとのこと。
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