「息吹(テッド・チャン著)」④ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
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「息吹(テッド・チャン著)」④ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル

2020-02-23 19:00



    ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
    The Lifecycle of Software Object

    ・動物園の飼育係からソフトウェア技術者に転職したという経歴を持つアナ・アルヴァラードはブルー・ガンマというベンチャー企業にスカウトされる。

     彼女が雇われたのは、その企業が作る仮想空間内に生息するデジタル生物、この作品ではディジエントと呼ばれるものの成長を助けるためだったが、このデジタル生物たちにはある共通する特徴があった。彼らは教えれば喋る。つまり学習機能を持つAIなのだ。だが生まれた状態での知識はゼロ。ニューロブラストと呼ばれるゲノム・エンジンが認識能力を向上させていく。
     開発チームが基本的なことを教え込んだ後、人間の良き友人となって売れるように彼らに言葉を教え、マナーや常識を教え込むのがアナに期待された任務だった。

     ディジエントのデザインはリアルな動物ではなく、かといってアニメキャラのようでもなく、という微妙なバランスが求められる。このデザインはアニメーターの世界から移ってきたデレク・ブルックスの担当。だが必ずしも動物ベースとは限らず、ロボットみたいなキャラも要求されて彼は戸惑う。

     顧客に仮想空間に遊びにきてもらい、デジタル生物を所有させ、彼らの餌を買ってもらうのが会社のビジネスモデル。デジタル生物にも出来不出来があり成長の度合いも違う。新製品として世に出ていくものもあれば、開発中のまま会社に留まるものもいる。

     この商品はヒットしてアンとデレクは自身もオーナーになって長くディジエントたちに関わることになる。電脳空間だけではなく、リアルな世界にもロボットの身体に入るという形で彼らは存在できるようになる。

     だがこういうものは浮き沈みがあって、先行者として利益を上げていたブルー・ガンマは次第に後発企業に追い抜かれ、ニューロブラストで育つ人工知能は従順とはいえずわがままな傾向もあって顧客は減り、収入も落ちていく。飼い主の個性も反映して成長するディジエントたちは、オーナーが飼育を止めると行きどころがない。個性が強すぎて新しい貰い手に、というわけにはなかなかいかない。会社はそうしたデータも預かるようになる。

     やがてブルー・ガンマは廃業。残った数少ないディジエントたちは、アンやデレクを含む熱心なオーナーたちがユーザーグループを作って会社から所有権を譲り受けるような感じで生き続けるが、仮想空間のバージョンアップに追随できなくなるなど時代遅れになっていく。

     ディジエントはオーナーが教えた覚えのない卑猥な言葉を覚えてきたりもするし、違法にデータが複製されて闇市場で売られ、虐待されたりもするようなる。アナは心を痛める。

     仲良しだったディジエント同士が大ゲンカして犬猿の仲になり、ケンカの記憶を消してくれと訴えてきたりもする。

     そんなことをしているうちに衰退は進み、ディジエントたちはデジタル生命の絶滅危惧種みたいになってしまう。彼らが生きて生活できる電脳空間はもはやクラシックな特殊仕様品となり、狭苦しい世界に取り残されてそれさえも個人のオーナー数十人では維持する財力も無い、というところまで追い込まれる。

     最新の仮想空間にディジエントたちを移植するのにも金がかかる。

     そんな時に、オーナーたちに好条件の依頼がある新興企業からもらされる。それはディジエントたちを性的なパートナーとして利用したいという申し出だった。抵抗はあるが、これを受ければ謝礼はディジエントたちを移植して最新の仮想空間の中でのびのびと遊ばせてやれる。

     これを受けるかは各オーナーの判断に任されるが、アナとデレクは受けるつもりはなく、他のオーナーも追随する。アナはこれとは別に最新のデジタル生命を育てる仕事のオファーも受け取るが、これを受けると他のことは一切できなくなるし、人工的にデジタル生命との愛情を育む薬剤を使うなどちょっとためらうものがある。

     ある決断がなされて、ディジエントたちの未来は開かれるが、これをきっかけにアナとデレクの道は分かれていく。

     アナは自分がこれまで育ててきたディエントの未来を夢想する。望む形では無かったが、とにかく未来へ道は続いたのだ。将来、ディジエントたちは自らの判断で会社を興し、法人格を得て、自分で金を稼いで自分を生かしていく。仮想空間も自分たちで最新のものにバージョンアップしていける。人間とも愛情で結ばれたパートナーとなっていける。そんな未来が来るだろうかと。

     著者はSFに登場する人工生物は最初から完全な姿で登場するけど、どんな意識にも成長過程は必要だろうと考えてAIの成長と、AIとの個人的な関係について書いたとのこと。
     AIを育てるのは子育てと同じで、よりよい親にならなければいいAIも育たないみたいな。
     解説ではラブプラスやアイボのような例をあげて、AIの成長とソフトウェアへの感情移入を小説化したものでまるでアイボ愛好者のために書かれた作品のようだと書いている。
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