「しあわせ(戸田誠二著)」
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「しあわせ(戸田誠二著)」

2020-02-27 19:00




    ・2056
     2056年、トキが絶滅。若い男性が見合いをする。相手は悪くない感じだが、彼女は純粋な日本人の方ですよね?と問いかける。純粋な日本人の血を残すって、大事なことだと思うんですと。この時代、純粋な日本人はほとんど残っていない。

    ・くらげ
     くらげの水槽を眺める女性。このくらげは死ぬと水に溶けて死体を残さない。彼女は自分はそうじゃない、死体は消えない、だから死ねない、と自分に言い聞かせる。

    ・Red Ribbon
     奔放な妹と慎重で優等生な姉。内気でおとなしめな姉は見合いも断り続けて27歳。
    妹は彼氏持ち。妹は親に信用が無く、堅い父親は彼女の一人暮らしを許さない。
     だがそんな姉が深夜ドライブで男と事故死。父親はショックを受ける。
     三か月後、妹は一人暮らしを許される。

    ・アポトーシス
     親や社会の期待に応えようとだけ考えて生きてきて、両親が事故死したのをきっかけに
    人生を下りた女性。
    生きるのに疲れたまま惰性で生きていてテレクラなんかで時々男と過ごす。
     相手の男も疲れた感じで、貴方なら本当の自分が出せるのでは、と相談を持ちかけられる。彼には明るい彼女がいるのだが彼女と合わせるため無理に明るくふるまうのが疲れるという。女性には素直に疲れた、と言えるのにと。
     女性は弱い者同士集まったって駄目だよ、と彼を拒絶するが、彼女と彼が別れないように尽力はして二人は結婚にこぎつける。そうしながら彼と自分は本当に似ているのだと思う。
     職場でアポトーシスという細胞は、自分が役に立たないと察すると自殺するのだという
    話を聞いて自分だと思う。
     ある日彼の新居を気になって訪ねる。ベランダから女性を見つけた彼は、家を抜け出して女性に会いに出てきてくれる。彼は彼女とうまくいっている様子。
     彼は黙って女性を抱きしめ、貴方も大丈夫ですよ、とささやく。
    女性は私はまだ死ぬべき細胞じゃないのかもしれない、と思う。

    ・とかげ
     母親から結婚しないの?普通は結婚するんだよ、と電話があるたびに不機嫌な女性。
    自分は何を切り捨てて生きているのかと思う。

    ・Happy Birthday
     多忙な会社で多忙な仕事を抱える女性。今日は誕生日だが仕事は押していて休む暇もない。上司も同僚も同じようなもの。新人だけは彼女がフォローして早く帰してやる。
     今日も終電。泣きたいけどふんばっている人を見てこらえる毎日。
     だが今日が終わる直前に立ち寄ったコンビニで子供が生まれたばかりの男性が奥さんが食べたがっているとあんまんを買いに来ていて店員がこれを出産祝いとしてタダにするのを見る。彼女もこの男性にお祝いを言う。特別な誕生日になった。

    ・NO SEX
     高校時代、美術部で一緒だった男女。在学中は一度しか会話したことがない。
    卒業後、差出人不明の絵が届いて彼だと直感。彼女も自分の絵を送る。
     何年もそれだけの関係が続き、付き合っている男の友人として26歳で再会する。
    彼にも交際している女性がいる。
     彼はポツリと言う。あんたとは別れたくない。だから付き合わない。
     やがて二人はそれぞれのパートナーと揉めて一人になり、身体を合わせる。儀式のように。

    ・幸せ
     職場で組んでいる男性と息がぴったりの女性。彼はほどよい距離感で接し、仕事がやりやすい。周囲からは付き合ってるんでしょ、と言われるがそんなつもりはない。
     彼女は若い時の恋愛で相手に依存しすぎて悲惨な結果になり、人に心を開けない。両親を見ても愛情が無くなったのにただ一緒にいるだけ、みたいな嫌悪を感じてああはなるまいと思う。そんな彼が交際を申し込んでくる。
     彼女は今のままでいいじゃない、と拒否するのだが彼はあきらめない。結局これに応じるが、仕事では息がぴったりなのに、デートではぎこちない間柄に。彼女の心のリハビリがはじまっている。

    ・殺人計画
     人を殺したい男。だが美学があって相手の人生を理解してから殺すんだ、と思っている。
    今交際している女を殺したいのだが、彼女は会うたびに変化していく。
    きれいになり考え方も変わる。理解が追い付かない。一生理解しきれずにいい夫婦になってしまいそう。

    ・視線ごっこ
     幼い頃から霊感があり、友達と何もないところをいっせいのせ、で見つめてみんなの視線が合った時にはそこに何かがいる、みたいな遊びをすると彼女にだけはそこに何かが見える。
     髪を切ると見えなくなるが、気配だけ感じてかえって怖いので髪を伸ばすようになる。
     成人する頃には慣れて、見える怪しいものにも彼らなりのルールがあり、心の弱さや体力の低下に群がるとわかる。付き合っている彼がいて、彼のそばから彼らを追い払う程度はできるようになる。
     やがて結婚、出産。息子が産まれる頃には霊感も弱まり、髪も切る。もうそんなことにかまっていられない。

    ・四月の薬草
     製薬会社に勤める男性。研究部門の同僚から、ホレ薬なるものをもらう。同窓会で会ったクラスメート女子に、実は胃薬だってさ、とネタばらししつつ渡す。彼には高校時代から付き合っている女性がいて彼女も同じ会社にいるが、彼女からあの子貴方のこと好きだったのよ、みたいに後から聞く。
     あの子から電話が入り、会社の同僚で新婚の人に飲ませたら相手がちょっとおかしくなった、あれ本物じゃないの?と言ってくる。
     いろいろあって元のさやに納まるが、二人はホレ薬が実際に作られても絶対に使うまい、と話し合う。

    ・失恋
     失恋をブラックホールに例える女性

    ・けものみち
     高校で三か月だけ同級生だった女生徒を思い出す女性。彼女の実家はサーカスで、これまであまり友だちがいなかったという。ちょっとしたきっかけで二人は仲良くなるが、運動神経がいいなどスペックの高い彼女は他にも大勢友だちを作っていく。自分が特別でなくなるのがちょっと嫌な彼女。
     彼女は別れの挨拶に来て、キスをして去っていく。それから数年過ぎて、彼女の姿を時々テレビで見る。けものみちを上がってはるかに高みに上がった彼女とは、もう交流が無い。

    ・反抗ヘンカンキ
     思春期の子供の反抗するエネルギーを何かに利用できないか、それによって子供の反抗の原因となる抑圧を取り除けないか、と真面目に研究する男性。
     彼は優等生から突然ぐれて家庭内暴力に走り、母親は逃げ出して父親は倒れたという過去がある。
     ぐれた時に知り合った仲間が今の研究を支えてくれていたりする。当時の自分と同じような青少年を受け入れる施設を作って、その入居者たちに自分の経験も話して被験者を募る。
     慎重な選考の結果一人の女子高生が選ばれて実験がはじまる。彼女は最初の実験の日にスッキリした、と感想を述べる。順調と思われたが動物実験に使った動物が死にはじめ、彼と同じようなことをやっていた天才が被験者の子供3人に脳障害を発生させたことを知る。
     天才の論文で、若者の反抗を機械で抑えることはできないという私見を読んで彼の夢は潰える。実験は中止。施設を去ることになった彼はしばらく何も考えられないが、施設の子供たちは元気に見送ってくれる。被験者となった少女は実験期間が短く大丈夫な様子。彼女も笑顔で見送ってくれる。友人はまた戻ってこい、みたいに声をかけ、彼にはずっとアシスタントを務めてくれた女性が寄り添っている。

     著者が個人のHPに発表していた作品が単行本にまとめられたものらしい。これは2冊目とのこと。
     著者は暗い話が好きで、こんな暗い話ばかりでいいんだろうかと当時思ったとのこと。

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