「カレーライスは知っていた(愛川晶著)」
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「カレーライスは知っていた(愛川晶著)」

2020-06-01 19:00


    ・カレーライスは知っていた
     この作品では根津愛は6歳。さすがに主役というわけにはいかず推理をするのはまだ現役の刑事だった父親の信三の方。
     宮城県黒川郡松倉町でのマンションで宝石店勤務の若い女性が殺されて、現場に食べ終わったカレーライスの皿が残されている。女性は料理自慢で、カレーも玉ねぎを炒めるところからはじめる本格派。だが生前の女性と電話で話した友人は今カレーを作り始めたばかり、と聞いていたのに、カレーが完成していたのは死亡推定時刻からみておかしい、ということになる。
     女性は死亡推定時刻の10分ほど前に友人からの電話を受けていて、殺される直前に助けを求める電話を警察にかけている。これは110番宛ではなく地元の警察署にかけていて何故そうしたのか疑問も残るのだが、犯人に悟られずに友人と話すふりをして助けを求めたとも考えられる。そしてその電話が途中で切れたことから警察は捜査に入ったのだが電話内容からは女性が何処の誰か特定できず、彼女の遺体が発見されたのは翌日の午後だった。
     また、カレーは女性の胃の内容物からは発見されなかった。つまりカレーを食べたのは犯人らしい。すると犯人は女性を殺害し、わざわざ作り始めたばかりのカレーを完成させたうえで、そのカレーを食べて帰ったことになる。
     彼女の同僚や交際相手など周囲の人物にはみなアリバイが。捜査員一同は頭を抱えるが、休暇中だった根津信三が臨場して問題のカレーを見てちょっと試食したとたんに犯人を言い当てる。
     作品内で紹介されるカレー作りのレシピの中にヒントが隠されている。

    ・だって、冷え性なんだモン!
     大晦日の朝、宮城県柴田郡黒岩町のマンションで女性の変死体が発見される。遺体は何故か室内で手袋をしており、しかもそれが左右不揃い。一方が五本指タイプで一方はミトン。色も違う。足も似たような感じで片足はフカフカした部屋履きだが反対はトイレのスリッパ。イヤリングも左右で違う。死亡推定時刻に重なるように、この地域には雪で送電線が切れたとかで1時間ほどの停電が発生していた。
     捜査の結果女性はバーの経営者で、常連客3名が容疑者として浮かび上がる。3人とも女性と結婚の約束をしており、その約束をいついつまでに不履行の場合は慰謝料一千万を払うという念書まで書いている。客には妻や婚約者がいてこれがバレるとまずい立場にある。
     客の誰かが金を払えず口止めに殺したと思われるのだが、女性の服装のアンバランスさの謎は解けず、誰も自分が犯人とは自白しない。警察の捜査は行き詰まる。
     この作品では根津愛は高校1年生。青女と呼ばれる女子高の生徒である。父親の信三はもう刑事を辞めて料理学校に転身している。担当刑事のキリンこと桐野義太は何かヒントを聞けないかと信三宅を訪ねるが本人は不在。留守番の愛が話を聞いたとたんに犯人とアンバランスな服装のわけを言い当てる。
     
    ・スケートおじさん
     根津愛本人が書いた文章という体裁。愛の通学路にある明神橋という古くて狭くて危険だから使わないように、と言われている橋があるが近道なので生徒は従わない。だが自転車の女生徒がハンドルをとられた拍子によろけて車にはねられてしまう。幸い軽傷で済むが、学校側の管理は厳しくなる。それから四ヶ月ほど過ぎた2月のある日、橋の上が凍り付いている。
     だがもう事故からだいぶ経っているので明神橋を自転車で渡る生徒多数。愛もその一人。この時は2年生らしい。
     橋を半ば渡り終えたころと思われるが、反対側からこの寒いのにコートも着ず、スリーピースで身を固めて白髪交じりの髪をオールバックにまとめた60歳前後と思われる男性がすべりやすそうな黒い革靴を履いてタタタタタっと走ってきたかと思うと突然両足を揃えて停止し、走ってきた勢いで氷の上をスケートのように足の裏で滑っていく、という光景を見る。遊んでいるみたいだが表情は睨むように前方を見据え、歯を食いしばった険しい表情。思わず愛は立ち止まって、たまたま持っていた写ルンですみたいなカメラで写真にとる。
     おじさんの勢いに驚いた生徒が避けようとして何人も道を譲る格好になり、徒歩のものはともかく自転車の生徒は数人が転んでしまう。男性はそのまま橋を渡り終えると道を折れて土手の方に小道を滑り降りて行く。
     愛はこの男性が何者で、何故こんな行動をしたのかを推理して、授業中同級生に回覧する。
    それが本当かはわからないのだが、いかにもそうかもしれない、という内容になっている。
     著者もしくは愛のモデルになった人物が実際にこういう人を目撃したのかもしれない。

    ・コロッケの密室
     いわゆる倒叙もので犯人の視点で書かれている。彼女は信用金庫に勤めるつつましい女性だが、学生時代から腐れ縁のように苦手なタイプの女友達と縁が切れないでいる。相手は金持ちの娘でわがまま。高校時代はまるで彼女の下僕のような扱いをされて神経をすり減らした。
     金持ち娘は意地悪なわけではないのだが、相手が自分に奉仕して当たり前という感覚を持っていて自分の思った通りに彼女が動かないととたんに機嫌が悪くなる。クラスの力関係でそこから逃れられなかった。
     高卒で就職してひとまず縁が切れたのだが、やがて彼女は金持ち娘の住んでいる地区を担当する支店に転勤となり、金持ち娘はその支店にとって重要顧客であり、同級生で友人ならちょうどいい、きみ彼女の担当になりたまえ、みたいになってプライベートな時間まで呼びつけられて使用人のように奉仕しなければならない毎日。親は貧しく仕事も辞められず逃げ場が無い。
     相手は料理自慢だが、その下ごしらえや後片付けみたいな面倒なことは全部彼女に押し付けてくる。今日も婚約者と友人を呼んでパーティーを開くから、と前日から準備に駆り出されている。そして全部自分一人でやった、みたいに招待客に自慢するのだ。
     そして彼女は結婚詐欺師もどきに引っかかってわずかな貯金を巻き上げられ、さらに何百万もの借金を抱えてしまう。新たな借金で借金を返すみたいな自転車操業になりその急場をしのぐために金持ち娘にも借金をする。そしてそろそろ返してね、とやんわり催促されている。

     パーティ前日。金持ち娘はちょっと出てくるからその間に掃除しといて、と命じて外出。この時に彼女に悪魔のささやき。金持ち娘の持っている宝石を盗んで金に換えよう、と思ってしまう。実は既にすり替えるための偽物を準備してある。金持ち娘には鑑定眼など全く無いのでバレないはず。すり替えは上手くいくが、思ったよりも早く戻ってきた金持ち娘に見つかりそうになって思わず手近なマッシュポテトの箱に隠し、そのまま取り戻す機会が無い。
     明日料理を手伝う時に回収しようと眠れぬ一晩を過ごす。
     だが翌日行ってみると既にマッシュポテトは全部コロッケみたいな料理になってしまっている。もう少しコロッケを作ってくれと頼まれた彼女は絶望し、コロッケを揚げながらもう金持ち娘を殺すしかない、と思い詰めて実行してしまう。
     幸か不幸かその時間帯に婚約者から電話が入るが、金持ち娘は見栄をはって一人で準備していると言う。つまり彼女がここに来ていたことはバレない。普段から出入りしているので指紋を気にする必要もない。彼女を殺して一度現場を離れ、自分もパーティに参加することになっているので後で来ればいい。だがコロッケみたいな料理を割って宝石を探していると間に合わないのでこれを袋に詰めて出て、ほとんど余裕が無かったが時間を見て引き返す。なんとかうまくいって警察も彼女の証言を信じている様子。

     だがパーティの招待客には友人の友人みたいな感じで、愛がいたのだった。

    ・死への密室
     この作品では愛は高校3年生。以前レビューした「巫女の館の密室」の直後にあたる。
    キリンの大学の同級生で、職業も同じ警察官という友人が婚約し、一緒に住む家も新築したということでその新築祝いパーティ兼婚約者の紹介みたいなのに愛とキリンは出かけていく。
     この友人はミステリマニアで、そこで壁を通り抜けるという密室トリックを実演してみせると言っているらしい。そしてそれが失敗した場合、婚約を取り消すみたいになってしまっているらしい。それはもう一人招待されている共通の友人で建設会社勤務の男がいて、彼といろいろあってそんな賭けをするはめになってしまったらしいのだが。
     愛はその新築の家を見ただけでトリックを見破ってしまう。だが賭けの方はというと。

    ・納豆殺人事件
     これも愛の父親が現役時代の事件。愛は7歳で小学2年生。秘伝とかで味が評判の人気チェーン店を展開していたたこ焼き屋の主人が殺されるが、解剖の結果彼の胃の中からは大量の納豆が発見される。関西出身の彼は日頃から納豆嫌いを公言し、納豆を彼に出したということで奥さんとも離婚したという筋金入りの納豆嫌い。その彼が何故納豆をこんなに食べたのか。
     死体は山の中で発見されたが、殺害されたのは違う場所らしい。
     元妻や元義弟夫妻、被害者の店の副店長などが容疑者となるがアリバイがあったりする。
    だが名刑事は納豆の謎から事件をあっさり解明して見せる。
     

     といった作品に挟まるように主役の根津愛本人による「根津愛の独白」という文章が4つはさまる。実はこの美少女代理探偵には実在のモデルがいて、著者の知人の娘さんだったらしいのだけどそのモデルさん本人がこの部分は書いたらしい。そのへんのいきさつをモデル本人として、こぼれ話のようなものを作中人物として書いている。
     一時期は「根津愛探偵事務所」というHPがあってそこで表紙の猫が出てくる漫画、通称ネコマンガを発表したりもしていた。その漫画も少し収録されている。掲示板もあって私も当時時々書き込みしたりしていた。
     作中では女子高生だけど人間は成長するので、文庫本が出た頃はもう社会人だったらしいけど結婚することになったタイミングでHPを閉じたのではなかったかと記憶している。
     記憶はすでに曖昧なのではっきり覚えていないのだけど。
     もう当時の自分くらいの年頃のお子さんをお持ちかもしれない。
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