「われから(樋口一葉著)」
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「われから(樋口一葉著)」

2020-08-13 19:00


    ・最初は名前のわからない「奥様」の記述が続く。奥様の夫は羽振りがいい様子で、毎晩のように遊びまわって帰りが遅い。泊まることも多く、芸者遊びや芳原遊びもしている様子。一度女のハンケチを見つけて問い詰めたこともあるが行状改まらずに、奥様はまだ帰らないかと毎晩眠れない夜が続く。

     奥様は時間つぶしに自宅内に住み込みの千葉という書生をからかいに行く。千葉は毎日自室で遅くまで勉強しているのでお菓子を持って行ったりする。
     やがて奥様の名字は金村らしいとわかる。読みはカナムラらしい。奥様はそんな毎日でいつしか朝風呂の習慣がついている。奥様は26歳だが子供の無いこともあってか今も娘のようなところがある。道を歩けばどこの芸者さんかと噂される美貌が自慢でもある。

     この美貌は母親譲りらしく、父親は赤鬼の与四郎と恐れられた人だったらしいが既に死亡している。与四郎は大蔵省に勤める官吏で、美尾という幼馴染を妻にしてかいがいしく妻に楽をさせるべく良き夫として過ごしていたのだが、ある日予定より早く帰宅すると妻がいない。
     翌日帰宅した美尾は実家の母親が急病で看病していたと説明する。

     美尾は外出するたびにその美貌で注目されるのだが、着ているものは粗末なのであからさまに笑われたりもして次第に境遇を嫌うようになり、心ここにあらずで過ごすことも多く、夫の収入の少なさを責めるようにもなる。もっと大物になって、と夫をののしる。夫婦はすれ違うようになるのだがお美尾は懐妊し、夫は喜ぶ。

     美尾の母は金持ちらしく、いつまでも貧乏な与四郎を責めて、子供ができるのはいいが将来が危ぶまれる。これでは私の老後も心配だ。娘は預かるからもっと実入りの多い商売に挑んでみろなどと言ってくる。やがて女の子が生まれる。お町と名付けられる。
     やがてお美尾の母は身分のある軍人のところで女中頭として働くことにした、と京都に移っていく。
     そして間もなくお美尾も買い物に行く、と子供を隣家に預けたまま姿を消す。鏡台の引き出しには与四郎が稼げないような大金と一緒に美尾の手紙があり、私は死んだと思ってください、探さないでくださいと置手紙があり、この金でお町のミルクをとか書いてある。

     与四郎は奮起して高利貸しになったらしく、多くの人を泣かせて財を成し娘お町に恭介という男を婿として迎える。そんなわけで金持ちの入り婿になった恭介を夫というよりは自分の遊びの世話人みたいに扱って数年が過ぎる。町子の体質なのか子はできず、養子をとる話も出るが町子が応じない。この町子が冒頭から登場している奥様である。
     恭介は政界の実力者としてどんどん出世していく。お町は時には恭介に対して貴方だけが頼りです、どんどん出世する貴方に置いて行かれるようで、いつか捨てられるような不安があって、我がままを許していただきありがたくももったいないことです、と殊勝な様子も見せる。

     町子は時々月のものが重くて寝込むのだが、その時に使用人同士がお波という女の話をしているのを聞いてしまう。恭介にはお波という十何年の交際になる女がいて、飯田町に家を与えて囲っている。十歳くらいの男の子もいる。知らないのは奥様だけで使用人は皆知っている様子。

     これで町子は何か糸が切れたかのように恭介へのあてつけに千葉をかわいがるようになり、男女の中になった様子。千葉は真面目で押しが弱いタイプなので奥さんの方から迫ったものと思われる。奥様と千葉の仲は噂になって、恭介の耳にも入る。

     恭介は町子が家付きの娘で自分が入り婿であることから実家に帰すこともできず、どうしたものかと迷ったり奥様に勧告したり哀れに思ったりしながらもついに決意して谷中に家を借り、町子に別居を言い渡す。千葉は当然追い出される。

     最後の日、恭介は取りすがる町子を突きのけ、もう逢わぬと言い捨てて谷中行きの車に乗せる。

     というわけで、母娘二代にわたり結婚に失敗する女性の話みたいな。母親の方がどこへ行ったのかはよくわからないが、祖母をあてにして上方にいったのかもしれない。私はよくわからなかったけど、町子の父親は祖母が女中頭をつとめる身分のある軍人かもしれないみたいなことが解説に書いてある。つまり美尾という女性は実直な人の妻であることに満足できず、上流階級のようなグループになんとかして接近しようとしていたみたいな。なまじ美貌に恵まれていたのでそれができてしまったのだろう。
     娘の町子の方も父親が一念発起して財産を作ってから物心がついたので、労働のたいへんさはわからない。使用人を大勢雇えるので家のことはそちらにまかせて妻であることよりも自分の好きな芝居に行ったり着飾ったりに夢中。
     夫は政治に関係して夜の付き合いも多く、女遊びも盛んな様子で町子はそれを責めるのだが、夫は表面上は従いつつも実は違う女に子供を産ませている。
     それで自分も夫へのあてつけみたいに書生を誘うと、結局夫から家を追い出され、一生幽閉さえるようなことに。父の残した財産も今後は夫が自由に使うことになるのだろう。

     夫は浮気してもいいのに妻は駄目なのは不公平じゃないかという意味なのかどうか。
    この町子には実在のモデルがいるそうで、一葉が出入りしていた萩の舎塾で同門だった代議士夫人で書生と密通して離縁沙汰になった人がいるらしい。

     解説では町子という女性に対する一葉の悪意や冷笑のようなものが垣間見えると書いてある。発表当時は美尾とお町どちらが主役かわかりにくい失敗作みたいに言われたらしいけど、後に抑圧されて既成道徳の枠をはみ出す女性を描いた、と見直されたりしているらしい。


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