「凶運の手紙(仁木悦子著)」前半
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「凶運の手紙(仁木悦子著)」前半

2020-10-31 19:00


    ・仁木悦子さんは江戸川乱歩賞最初の受賞者で日本のアガサ・クリスティなどと呼ばれた有名な推理作家だけど 今は知名度がかなり低くなっていると思う。松本清張さんや江戸川乱歩さんの本は今でも新刊書店に並んでいるけど、仁木さんのはめったに見ない。ポツポツ再刊されてはいるようだけど今は入手が難しい作品もあるみたい。
     映像化された作品がほとんど無いのも知名度に影響しているかもしれない。

     日本の推理小説の歴史の中では、江戸川乱歩と同じくらい重要な位置にいて、この人が出なければ推理小説は大衆のものにならなかったかも、みたいに評価する人もいるらしい。
     どちらかというとマニアックで暗いイメージがあった推理小説に明るいキャラクターが本格的な謎に挑む、みたいな作風を導入して一気にミステリのイメージを変えたという。女流作家の草分けの一人でもあり、その人柄を慕う人も多かったらしい。
     ご本人は幼少時から胸椎カリエスで寝たきりの生活を送っていて両親も早くに失う。そのため学校に通うこともできず、兄が家庭教師のように勉強を教えて好奇心旺盛なご本人の性格もあって読書を楽しみ、自ら童話やミステリなど様々な作品を書いて投稿するようになった。
     江戸川乱歩賞受賞でその境遇もあって一躍人気作家となり、そのために手術を受けることができるようになって、ようやく車椅子で動けるようになる。
     長兄を戦争で失い、次兄も召集されて苦労したことから平和運動にも関わり、猫好きであったからか自然と動物についての保護運動では長く代表を勤めたり、ミステリ以外でも多く社会で活躍したが腎臓疾患で58歳で死去。その入院直前に仕上げた原稿が絶筆となった。

     仁木さんの本は同じタイトルのものが何度も様々な出版社から出ていて、電子書籍も多いので代表的な作品を読むのは今でもさほど困難ではないけど、今は知る人ぞ知る作家になってしまって若い人が出会う機会は少ないかもしれない。

     この「凶運の手紙」は比較的知名度の低い方かも。仁木さんの長編作品は書き下ろしで出版されることが多かったみたいだけど、短編の方は何年にもわたった様々な媒体に発表されたものが出版社のオファーで文庫本としてまとめられることが多かった印象。


    ・凶運の手紙
     東京で知り合って結婚し、東京で暮らす新婚夫婦が北陸の妻の郷里に墓参りに出かける。もう郷里に直接の肉親は誰もいないが生家は人手に渡って残っている。主人公である妻は子供の頃に住んでいたあたりを懐かしく歩く。東京育ちで田舎を持たない夫はこれに付き添う。
     妻は隣家にいた同い年の少女のことを思い出して夫に思い出を語る。小学校までは同じ学校に一緒に通ったその子は、はしかにかかって高熱を出した影響で知能が発達せず、高校生になっても4、5歳の幼児なみだった。彼女が自分には誰からもお手紙が来ないの、と悲しんでいるのを知った高校生当時の妻は、彼女を喜ばせようと匿名で手紙を出すようになったという。
     彼女があまりにも喜んで、彼女の母も感謝してくれたためしばらくこの習慣は続く。だが妻が高3の秋に父が急死し、それからは生家を手放して母子で東京に出ることになってそれどころではなく、いつしか手紙を出す習慣は無くなって縁も切れてしまった。

     あの子はどうしているだろうと思うが隣家も表札が変わっていて引っ越した様子。小学校に行ってみたところ、近くの文房具屋の主婦がかつてのクラスメートで、彼女が主人公が東京に出たしばらくあとに殺されていたことを話す。両親は悲しい思い出の残る家で暮らすのがつらくて、同じ町内に転居していたのだ。
     夫妻は彼女のご両親を訪ねて焼香し、彼女が大切に保管していたという手紙を見せてもらう。すると妻は、その中に自分が出したのではない手紙が数通混じっていることに気付く。
     人見知りでめったに一人で外出しない彼女が、人気の無い森で死んでいたのはこの手紙で誘い出されたのだとわかる。身体の発達も良く美人だった彼女を、何者かが狙ったのだと思われたが。


    ・花は夜散る
     語り手の「僕」は小学6年生の男の子。ママとおばあちゃんと一緒に住んでいる。パパは一年半前にママと離婚して出て行った。
     ママは自宅にいるより仕事場にいることが多い。ママは作家なのだ。美人の秘書さんもこの家に出入りしている。この秘書さんも作家志望で、同じく作家志望のあまり美人でない女の人と一緒に近所のアパートで共同生活している。
     その美人でない女の人がアパートで殺されている、一緒に住んでいた美人秘書さんと連絡を取りたい、と刑事さんから連絡が入って「僕」はちょっとびっくりする。殺されたお姉さんはしばらく前にお母さんとちょっと激しい口論をしていたっけ。美人秘書さんは今週はおばさんが病気だとかで看病に行っている。
     ママも警察に事情を聞かれるが、殺されたお姉さんはママが彼女の作品を盗んだ、と抗議していたらしい。ママは偶然の一致だと言うのだけど、疑いは晴れずに逮捕されてしまう。
     美人秘書さんがコンテストに応募していたという「花は夜散る」という作品が入賞したという連絡が入るが、このタイミングでは、と秘書さんは喜べない。
     「僕」が相談に向かったのは、離婚したパパのところだった。

    ・初秋の死
     もうすぐ満4歳の息子と0歳の娘がいる若い母親がこの作品の語り手で主人公。人一倍デブと自称している。彼女が中古のマイカーで鷺の宮にある夫の友人の自宅に向かっている。知人にいただいたブドウのおすそ分けに行くのだ。
     新聞社のヘリコプターのパイロットをしている夫の友人の奥さんは彼女の高校の先輩でもあって当時から面識があったので時々出入りしていたが、子供が二人になるとそうもいかなくなって久々の訪問になる。この夫の友人はそこそこの会社の部長で親から引き継いだ不動産などもあってこちらと違ってかなり裕福だ。

     実はひと月ほど前に偶然奥さんと会ってちょっと話をしたのだが夫の女性問題で悩んでいるとかでかなりやつれていた。奥さんを元気付けたいというつもりもある。だがベルを押しても返事がない。今日訪問することは伝えてあるのだが。門の鍵もかかっていなかったので中に入り、庭にまわるとガラス窓越しにリビングに倒れている人影が見える。
     彼女は思わず鍵のかかっていなかったガラス戸を開け、夫妻の様子を見るが二人とも絶命している。青酸カリを飲んだらしい。彼女は夫の勤務する新聞社と110番に電話すると、野方の兄夫婦の家に行く。兄は植物学者で大学の理学部に勤務しているが今は不在。兄嫁に子供二人を預かってもらう。仲のいい兄妹で、子供を預け預けられはお互い様である。兄には娘が一人いる。何故子供を預けたかというと、好奇心旺盛な彼女は現場に行っていろいろ調べたいからである。第一発見者だから警察にもいろいろ話さないといけない。やがて夫の会社の顔見知りの記者もやってくる。
     彼女が警察に話した、奥さんの兄の名前から身内に連絡がつき、その奥さんの兄が夫の母親を連れてやって来る。兄は最近妹からもらったという手紙を持参していて、それには夫が若い女性とたびたび会っているようで、夫を殺して自分も死にたいみたいなことが書かれている。
     警察は奥さんが夫にビールとおつまみをすすめて毒を飲ませ、自分も後を追った無理心中の線で捜査をすすめていく。

     だが主人公には疑惑があった。マッチしか使わないはずのご主人と夫に聞いていたのに、現場にライターがあったこと。このライターはいつの間にか消えてしまう。さらにテーブルに出されていたおつまみがこのご主人が嫌いなものだったこと。きれい好きな奥さんが後片付けをせずに死を選んだこと。これは心中を偽装した殺人ではないか、と彼女は確信していく。

     この主人公の若い母親は、著者のデビュー作「猫は知っていた」に登場した著者と同姓同名の素人探偵・仁木悦子の結婚後の姿。兄とコンビで様々な事件を解決した著者の人気シリーズの主人公である。好奇心でどんどん事件に近付いていく様子がああ、変わってないなと思う。

     この本には短編が6本収録されている。とりあえずここまででだいたい半分。

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