「陽の翳る街(仁木悦子著)」1/3
閉じる
閉じる

新しい記事を投稿しました。シェアして読者に伝えましょう

×

「陽の翳る街(仁木悦子著)」1/3

2020-11-25 19:00


    ・具体的な地名は書かれていないが東京郊外私鉄沿線という印象の小さな商店街に暮らす若者4名が、仕事もこなしながらミステリ同好会みたいな活動を行っている。
     全員がミステリマニアで、新作の情報を交換し合ったり同人誌を出したり、同じ作品を読んで感想をぶつけ合ったり、実際の事件を推理してみたり。男性2名女性2名だが今のところ誰が誰と付き合っているみたいな感じではない。
     月に二回、第二第四火曜日の夜を例会としているがメンバー四名全員が揃わないと流会ということになっているので実際には月一回程度の開催となっている。会場は各自の部屋を回り持ち。時にはどこかを借りることもある。

     メンバーは以下の通り。全員独身で、祖母と一緒の悠子以外は一人暮らし。

    青瀬悠子(あおせゆうこ) 23歳
    ・・・祖母の営むパン屋兼菓子店・青瀬堂の事実上の店主。両親は既に病死。丸顔で小柄、ずんぐり体型。高校卒業後一度会社勤めをしたが、祖母の衰えが目立つようになったので20歳の時に退職し、店を手伝うようになった。

    数々谷浩平(すずやこうへい) 三十代と思われる。
    ・・・スズヤ書店の店主。店は父の代からのものでアルバイト二名を使っている。両親は既に死亡して、店を継いでいる。

    有明留美子(ありあけるみこ) 二十代の終わりくらい。
    ・・・ややエキゾチックな顔立ちにすらっとしたスタイル。髪は栗色に染めている。女性誌を中心にフリーライターとして記事を書いている。両親は既に亡く、天涯孤独のような境遇。
     商店街から600メートルほど離れ、線路を渡ったマンションに住んでいる。

    高城寺拓(こうじょうじたく) 二十歳前後
    ・・・P大法学部の学生。推理作家志望。ほっそりしたやせ型で長身。ちょっと猫背。色白でとがったあご。天然パーマの髪にふちなし眼鏡。青瀬堂から徒歩10分ほどのアパートに下宿している。郷里は静岡で両親祖父母妹、兄夫妻とその子供もいる。

     この4人が殺人事件に遭遇して、その真相を突き止めるみたいな長編推理作品。

    ・花の散る街
     順番にメンバーを紹介していく感じで、4人のプロフィールと彼らのミステリの会である「モザイクの会」の活動の様子が語られる。その日は推理の訓練みたいに新聞記事の切り抜き3つから事件の背景を想像してみる、みたいなちょっと罰当たりの内容。それが四月の一回目の例会らしい。これは拓のアパートが会場だった。
     四月二回目の例会は留美子のマンションで、ミステリ新刊本の合評会。23時過ぎに終わって、悠子を男二人で送るような格好になる。その途中で倒れている人を発見する。60歳くらいの女性で頭を殴られたようで血まみれだ。女性は「ケージにやられた」と言い残してこと切れる。浩平はたまたまこの女性に見覚えがある。数日前に彼の書店に客としてやってきたのだった。浩平は昔の隣人に似ていたので声をかけたのだが人違いだった。その人が殺されていたのだ。留美子はフリーライターをしているので知人からちょっと一般人とは異なる情報も仕入れることができる。彼女の情報によれば殺されていたのは夏葉ミサヨという住み込みの家政婦で、高級住宅地に住む堀尾という夫妻の家で働いていたらしい。やがて発見者であるモザイクの会の面々は、その堀尾家に礼を言いたいと招待を受ける。

    ・翳のさす街
     堀尾真佐也は50代手前、妻は40をちょっと過ぎたくらい。夫妻は殺されたミサヨは堀尾邸で働きだして8年になること、組み紐教室に通っていたこと、そして堀尾家に来る前はある施設にいたことをモザイクの会の4人に話す。その施設は知恵おくれの子どもたちの収容施設で、ミサヨはそこで洗濯や賄いをしていたのだという。実は彼女は記憶を失っていて、その記憶喪失は戦争のせいらしく、堀尾の母親の恩人であったという。母親は繰り返しその話を子供時代の堀尾に聞かせていたので母親の死後思い立ってミサヨの居所を探して礼を言いたいと思うようになり、彼女が身寄りも無く施設にいることを知って引き取ったのだという。
     ミサヨが大切に持っていたという若い頃の彼女や夫と一緒に撮った写真、戦地から夫が彼女に出した手紙などを堀尾夫妻は見せてくれる。ミサヨは記憶を失った関係から復員してきた夫と再会することはできず、夫は別の女性と所帯を持って数年前に死んだらしい。堀尾はミサヨを探すために探偵を雇ったことがあり、その時にわかったらしい。
     ミサヨが言い残した「ケージ」という名前については夫妻にも心当たりは無いらしい。悠子は刑事のことなのかも、と冗談を言う。
     4人は夫妻の好意でミサヨの部屋も見せてもらい、組み紐が趣味だったという彼女が作りためていた帯留めをもらう。またミサヨの葬式にも立ち会うことになる。
     ここで組み紐教室でミサヨと一番仲が良かったという六ツ井幾世という老婦人と知り合い、ミサヨが堀尾家に来る前に身を寄せていた施設の上代寛子(じょうだいひろこ)という施設長夫人とも面識を得る。
     寛子の言葉に甘えて、その施設・春光園を後日訪ねる。この日は留美子が用事で参加できず三人で訪問し、ミサヨが以前は精神病院で下働きをしていたことを聞くが特に収穫は無い。ケイジという名前にも心当たりは無いという。そういう入居者がいるにはいるが年齢などから無関係と思われる。寛子はアメリカでこうした施設経営の勉強をしてきたらしい。彼女の夫である施設長も現れて、園内をどこでも見学してくださいと好意的である。ミサヨは働き者で、当時は大田嶺子と名乗っていたという。これは記憶を失って保護された時に役所がつけた名前らしく、所持品のハガキと写真から夏場ミサヨが本名らしいとわかる。
     本人は記憶が全く無いので家族を探そうとも思わなかったらしいが施設庁夫妻のすすめで役所に照会したところ、伝手をたどって石山という知人と会えた。それなら肉親とも会えるかもしれないと、役所にミサヨはここにいますと届けておいたところ堀尾から連絡が入ったのだという。

    ・夢を売る街
     店をそうそう離れられない浩平と悠子に代わって、行動の自由がある留美子と拓が調査を行っている。拓は春光園で名前を聞いた石山というお婆ちゃんに会って話を聞いてくる。ちょっとボケている様子だが昔のことはよく覚えていて施設で聞いた話と一致する。精神病院はもう経営者が代わって精神病院でもなくなっていたが、当時を知る薬剤師から話を聞く。当時は大田嶺子だったミサヨはここでも働き者で評判はよかったという。ただ、記憶を失いあちこちでたらいまわしにされたりで人に心を開かないところはあったという。

     浩平は定休日に国立に出向く用事ができ、ここは子供の頃住んでいた町でミサヨと似ていた隣人がいた。ついでに彼女を訪ねてみようと思いたつ。
     だが行ってみると記憶にある店も級友の家もほとんど残っていない。彼が昔住んでいた借家も取壊されてしまったと訪問先の知人に聞く。訪ねようと思ったミサヨと似た女性・大津スエの消息を聞いてみると予想外の答え。スエは殺人事件に巻き込まれていた。
     といっても彼女が殺されたわけではなく、彼女が家事手伝いとして働いていた家で殺人事件があったのだという。工場経営をしていた一家の主人と老いた母親、同居していた主人の妹が殺されたのだ。主人の妻は入院中で無事。元々この妻が病気で入院したため大野スエが雇われたらしかった。当日はスエも病院に行っており難は免れたがその後行方不明になったという。
     そのためスエが犯人の一味だとか犯人に殺されたのだとか様々な噂がたったが真相は不明で迷宮入りになったという。一時的に犯人として逮捕された男がいたがこれも間違いだったらしい。興味を持ったらしい浩平に、知人は当時所轄署の警察官だった男がいるから今度詳しく聞いておいてあげようと約束する。
     やがて知人から詳しい資料が届く。国分寺の地主の血筋で工場を経営していた川崎平太郎は妻に死なれ、18歳年下の後妻・篠江を迎える。身寄りのない孤独な女性で、商社で交換手をしていたが通勤途中に川崎に見初められて秘書となり、妻となったらしい。川崎の父親も妻に先立たれて後妻を迎えており、同居の母というのはこの後妻で名前はヨシ、妹の万里子もこの後妻の子供で平太郎と血縁関係は無い。二年ほど過ぎたが夫婦仲は良く、篠江は清楚で素直な人柄だったと警官は記憶している。
     その篠江が胃潰瘍で入院し、大野スエが雇われて家事や病院へ着替えを届けたりといったことをまかされる。ある日の正午ごろ、スエが表に飛び出して悲鳴を上げているので隣家の人がかけつけると平太郎、老母、妹が死んでいる。牛乳に毒が混入されていたらしい。病院から帰ったスエが倒れている三人を発見したのだがたいへんな取り乱しようで、そのまま姿を消してしまったという。家の荷物などもそのままで、犯人の一味で逃げたというよりは犯人にさらわれ消されたという意見も強かったという。

     入院中の篠江は平太郎の二億近い財産の半分を相続する。残り半分は平太郎の継母であるヨシに川崎家に嫁ぐ前に子供があったとかで、平太郎とは血のつながりは無かったが養子縁組をして法的にはヨシと母子だったことから中堂正則という男が遺産を相続する。
     ヨシよりも娘である万里子が先に死んだことからそのような継承順位になった。もし万里子の方が長く生きていれば中堂には一切の権利が無かったことから、偶然の産物であり中堂が犯人とも思われなかった。中堂はセールスマンで当日は名古屋に行っており、アリバイもある。
     もと平太郎の会社の社員で酒癖が悪くてクビになった男がいて、日頃から殺してやるみたいな言動があった田丸留男という男が逮捕されたが決め手が無くやがて釈放され、その直後に死んだという。

     たまたま別件で留美子が電話してきたので、浩平はこのことを留美子に話し、店で動けない自分に代わって調べてくれないかと留美子に頼む。留美子は今仕事が立て込んでいるけど、と言いながらも引き受ける。

     浩平は翌日中松夫人という上客の家にカタログを届けに行き、倒れている夫人を見つける。顔を殴られたようで腫れ上がっているが意識はある。だが夫人は救急車を呼ばないでほしい、知り合いの医者に行くから大丈夫、と口止めをしようとする。浩平は迷惑になるなら話しませんよ、と謝礼を断って引き上げる。
    広告
    コメントを書く
    コメントをするには、
    ログインして下さい。