「陽の翳る街(仁木悦子著)」2/3
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「陽の翳る街(仁木悦子著)」2/3

2020-11-29 19:00


    ・雨の降る街
     モザイクの会が開かれる。今回は浩平の家であるスズヤ書店の二階の部屋が会場。会で出している「モザイク」という雑誌の編集会議が主題だが、それとは別に内密の話がある、と前もって伝えてある。
     浩平は殺された夏場ミサヨと昔浩平の隣人だった大津スエが同一人物ではないかという推理を述べる。だがどちらが偽名なのか。夏場ミサヨは夫からのハガキを持っていた。だが大野スエも浩平の記憶だと堂々と暮らしていて、記憶喪失とかを感じさせるところは感じなかった。
     話しているうちに彼女のもう一つの名前、大田嶺子について発見がある。これは記憶喪失で発見された大田区の嶺町にちなんで行政側がつけたのではというもの。それに違いないと身を乗り出す一同だが一つ辻褄が合わないことがある。彼女が戦災で記憶を失ったのであれば、当時はまだ大田区は無かったのだ。当時は大森区と蒲田区。それが合併して大田区になったのは戦後のことだ。
     仮にミサヨとスエが同一人物だとすると、夏葉ミサヨは空襲にあって何年かの空白のあと国立に行き浩平の隣人大津スエになる。どの時点で記憶を失ったのかわからないがその後大田区で保護されて大田嶺子と行政側に名付けられ、あちこちをたらいまわしにされて精神病院で働くようになり、そこが解散となって春光園に行き、そこで彼女を探していた堀尾氏に発見されて引き取られたということになる。大田嶺子であった間も夫からのハガキと写真は持っており、自分が夏葉ミサヨだということは承知していたことになる。それなのに何故本名を名乗らず係累を探そうともしなかったのか。
     浩平には子供の頃の記憶に残る大津スエが悪人とは思えないし、警察に相談することが彼女のプライバシーを侵すのも抵抗を感じる。もう少しモザイクの会で調べようということになる。とりあえず川崎の会社の顧問弁護士て、遺産相続を担当した人物に話を聞くことにする。これには浩平と悠子が出かける。

     弁護士はもう息子に事務所を譲って悠々自適。古くからの顧客の相談に応じる程度の状態だったが70歳でもまだまだ言葉も記憶もはっきりしている。葬儀の時に会葬者一同で撮った写真が直前にできてきたのでこれも持っていく。
     弁護士は浩平と悠子の前にも同じ事件について話を聞きに来た女性がいたが知り合いか?と逆に聞いてくる。三十そこそこの女性で登戸明子(のぼりどあきこ)と名乗ったらしい。だが心当たりは無い。その女性は当初犯人と疑われた田丸という男について聞きたがったという。
     弁護士は川崎氏の会社の方の弁護士だったので大津スエと面識は無かったそうだが、川崎氏の奥さんである篠江については好印象だったという。もう一人の相続人である中堂正則はちょっと軽薄でキザな印象を持ったという。だがそこは仕事なのでなるべく公平になるよう遺産を分け、屋敷は篠江、会社は中堂という感じで話をまとめた。
     だが篠江は家族が殺された屋敷には住みたくないとこれを売り払い、どこかへ行ってしまった。中堂も工場経営などやりたくないというので税金対策でしばらく共同経営した上で工場を売ったという。その工場は今もあって地元ではちょっと知られた企業になっているという。
     弁護士から篠江の入院先だった病院や中堂の事件当時の足取りなどを聞くことはできたが、大津スエとは一度も会ったことがないとのことで目ぼしい情報は無い。
     ふと浩平は受け取ったばかりの葬儀の写真を見せると、意外なことに弁護士はその写真の中に登戸明子と中堂正則がいるという。それは有明留美子と堀尾真佐也だった。

    ・陽の沈む街
     モザイク会の仲間である留美子が隠れて何かを調べている、ということは浩平にショックを与えたようで、悠子にも伝搬する。引き続き弁護士に教わった、川崎氏の工場を引き継いだ経営者や、篠江が当時入院していた病院関係者にも二人で聞き込みに行くが浩平はどこか上の空で、新たな収穫は無い。中堂正則が堀尾真佐也で間違いないことは裏付けられた。
     浩平は別れ際にこのことは秘密にしてほしい、と悠子に頼む。留美子が偽名まで使って何かを調べて言うことと、中堂=堀尾ということを伏せておいてほしいというのだ。
     苦悩する様子の浩平は、実は留美子を好きだと悠子は知っている。何故なら悠子は浩平を好きだから。
     浩平は一人で三日ほど考えた末に、堀尾に直接事情を聞いてみることにする。悠子や拓、留美子にも相談せずに一人で堀尾邸をアポなし訪問するが、インタホンに応答が無い。そしてドアに鍵がかかっていない。嫌な予感。
     背中にナイフを突き立てられた堀尾が死んでいる。妻子の姿は無い。堀尾の右腕の脇に置かれたクッションの表面に、血で「恵司」と書いてある。ケージ。ミサヨの言い残した人物だろうか。堀尾は心当たりが無いと言っていたのだが。浩平は警察には届けずにその場を立ち去ることにする。だが門のそばでブローチを拾う。見覚えのあるブローチを。留美子のものだった。
     堀尾は化粧品会社の社長で地元の有名人でもあり、事件は派手に報道される。以前のモザイクの会であれば犯人は誰か、みたいに集まって議論するところだが、留美子は仕事を口実に仲間を避けているし、浩平も悠子を避けている。だが拓は悠子の店にやってきて、ちょっと話したいことがあると言う。悠子は商店街の中は知り合いだらけ。そのため二駅離れた喫茶店で話すことにする。拓の話というのは、彼が事件直後にたまたま堀尾邸の近くの友人を訪ねていて、ただならぬ表情の浩平が堀尾邸の方からやって来るのを見たというものだった。時間も事件発生時刻と思われる時間の少し後。
     浩平が犯人と疑うわけでは無いが、何かおかしい、と拓は言う。悠子はこれはもう仕方ない、と浩平に口止めされていた、留美子の行動を拓に話す。浩平はそれを知ってから様子がおかしいのだと。二人は留美子も浩平も何かわからないけど悩んでいる、二人で事件について調べれば助けになるかもしれないと決意する。二人は出発点に戻って、堀尾が夏葉ミサヨを探し出すために探偵社を雇ったことを思い出し、その探偵に会ってみることにする。

     一方で浩平は堀尾家に焼香に訪れている。堀尾夫人は恵司という名前には心当たりが無いと言う。浩平は思い切ってご主人は改名されたことがありましたか、と聞いてみると夫人はあっさりよくご存じね、昔は中堂正則だったのよ、私のところに婿入りして名字が代わり、その時下の名前も事情があって変えたのだという。浩平は堀尾夫人にミサヨと主人を殺した犯人を見つけてほしいと頼まれるような格好になるが、できないとも言えず気休めを言って引きあげる。
     偶然ミサヨの組み紐仲間だった六ツ井という老女に会い、ある事実を知る。


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