「陽の翳る街(仁木悦子著)」3/3
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「陽の翳る街(仁木悦子著)」3/3

2020-12-01 19:00


    ・風の荒れる街
     悠子と拓は、ニューワールド探偵社(著者の別の作品・探偵三影潤のシリーズに登場する探偵事務所である)の佐々木という男にアポを取り付ける。佐々木は迷惑そうにしながらも、二人が堀尾未亡人の依頼で動いているのだとほのめかすと仕方ないかという感じで口を開く。
     佐々木は夏葉ミサヨの夫だった男と同棲していたという飲み屋の女と会っており、由利という名字と店の場所を教えてくれる。
     二人は浦和駅のそばにある小百合という店を訪ね、由利マチ子という60歳近そうな女主人に話を聞くことができる。マチ子は二人がミツヨの事件に遭遇したと聞いて話をする気になった様子。
     ミツヨの夫だった利造は復員すると必死で妻のミツヨの行方を捜したが見つからず、それでもミツヨの生存を信じて死亡届や失踪宣告の手続きを取らなかったという。つまり戸籍上は既婚者で通した。店の客だった利造がポツリポツリと妻の事を話すうちに同情し、当時はマチ子もまだ若くて伯母の店を手伝っていたのだが いつしか同棲するようになったのだという。だから結婚はできなかったがそれでもいいと思っていたという。
     利造は竹細工が得意で、土産物屋や貿易会社にも品物をおろしていたというのだが、ここで意外な名前が出て来る。彼を貿易会社の上司に紹介したのは、近所に住んでいた篠江という娘だったというのだが、どうもこれは大津スエと名乗っていたミツヨが働いていて一家三人が殺された川崎家の夫人・篠江と同一人物らしい。マチ子はそうそう、川崎というお金持ちに見初められて嫁に行き、それからは付き合いが無くなったと話すので間違いなさそうだ。
     利造が病気と聞いて見舞いに来てくれたことがあるが、ちょうど利造が息を引き取ったタイミングだったという。葬儀にも通夜にも用事で出れないが最後に顔を見れて良かったと帰ったという。
     まだ十代だった篠江の写真を借りて二人は引きあげる。もう一つ収穫がある。利造は2枚の写真と、戦地から妻に宛てて出した手紙を2通、大切に持っていたが、マチ子はこれをお棺に一緒に入れてやろうとしていたところ、紛失したのだという。前後関係から篠江が持って行ったように思える。これがいつミツヨに渡ったのか。同じものが二組あったとも思えない。
     ミツヨが持っていたものと同じ写真と手紙が、この時点までは利造の手元にあったことになる。利造が死んだのは、篠江が未亡人となった翌年だった。

     浩平は中町夫人の家を訪ねている。彼の書店の上客だった夫人は何者かに襲われ、その時に訪ねて行った浩平に不可解な口止めをしてからは店を避けるようになっていたが、その後また誰かに襲われたらしく今度は意識不明になって入院中である。
     留守番をしていた夫人の妹の娘だという姪から事情を聞くのだが、彼女が大怪我をしていた夫人の発見者だという。浩平は少し踏み込んで、夫人が以前にも誰かに殴られて倒れていたのに彼に口止めしていたこと、近所の米屋やクリーニング屋の話からその直前に若い男性がこの家に滞在していたように思われることを伝えると、姪はおそらく従兄だろうと話す。
     当時二人組の男が青山の宝石店を襲ったことがあった。その一人が従兄で、伯母は彼をかくまいどこかに逃がした。だがもう一人が従兄を探しに来て夫人を襲ったらしいと思われる。
     姪の話では、従兄は三十を過ぎてもぶらぶらしている一族の鼻つまみなのだが、夫人はこの従兄に甘いのだという。もしかしたらこの従兄が盗んだ金を独り占めにして逃げたので仲間に追われ、その仲間が行き先を言えと伯母を殴ったのではないかと姪は言い出す。
     何故そんなふうに思うんですか?と浩平が聞くと、姪は箪笥の中に八百万円が隠してあったんです、と声をふるわせる。

     警察に届けた方がいいでしょうかという彼女に、それはご両親と相談して決めてください、ただ私の知っていることでしたらいくらでも証言しますと約束して浩平は引きあげる。その際以前乱丁があったので交換しますと約束したままになっていた本があったので渡してもらう。

     浩平は堀尾未亡人に電話を入れて、堀尾氏が左利きであったことを確かめる。また、堀尾氏が以前ミツヨを無理やり遠方に使いに出したことがあったのだが、その時の様子を聞いてみる。その時は堀尾氏の従妹が遊びに来たのだという。
     浩平は推理する。堀尾のダイイングメッセージと思われた「恵司」という文字は、右手で書いたような位置にあった。彼が左利きと知らない犯人の工作だったのではないか。
     堀尾は中堂正則だった。中堂の従姉ということは、殺された川崎ヨシと血のつながりがある。つまり、川崎家を訪問して大津スエに会ったことがあるかもしれない。スエとミツヨを同一人物と従姉に知られたくないから無理やり使いに出したのではないか。

     このことに間違いないという気がするが、全体像はわからない。有明留美子がどこで関係してくるのかもわからない。中町夫人から回収してきた乱丁本をチェックしなくてはと手に取ると、ページの間から紙片が落ちる。何とそれは殺された人物が残したメモだった。
     そこに悠子と拓がやって来る。二人の調査結果と浩平の見聞きしたことを合わせると、真相が見えてきたように思える。二人は由利マチ子と別れた後、青梅の春光園にも寄ってきている。そこで重大な事実が明らかになっている。消息不明となっていた篠江は、春光園の施設長夫人・上代寛子だったのだ。

    ・愛の灯る街
     春光園にはベテラン職員というものがおらず、10年前を知る者は施設長夫妻しかいない様子だったが、知恵おくれの入居者が現在の施設長夫人と、由利マチ子から借りてきた十代の頃の篠江の写真が同一人物だと見抜く。夫人は整形したらしく、目が大きくなり鼻筋も通っているのだが、知恵おくれ故にそのようなものに惑わされないのだと思われる。言われれば顔の輪郭や瞳の色などはそっくりだ。
     浩平は悠子と拓にこのことを聞き、自分の発見を告げる。中松夫人の落丁本に挟まれていたメモは、大津スエが書き残したものだった。この中にはスエが川崎家の三人を殺した犯人を目撃していたことを最近になって思い出したこと、そのことを施設の寛子先生に相談したところ刑事を紹介してもらったこと、明日その刑事さんに呼び出されているので話をしに行くことが書かれている。
     中松夫人は夏葉ミサヨの遺品として組み紐をもらっていた。組み紐仲間ではなかったのだが国文科を出ていて、古典文学の講演会をきっかけに面識があったので遺品ももらったらしい。浩平はおそらくスエが自分の日記を万一を思ってこの帯留めに隠しておいたのが夫人の手に渡り、甥が強盗をして転がり込んできたため、甥の不始末を埋めようと甥が共犯者から奪った800万を用意するために寛子を脅し、首尾よく金を手に入れて自宅に戻ったところを襲われたのだろうという。犯人は金を取り返すつもりだったがそこに姪が訪ねて来たため逃げ、その後は警察が来たり姪が留守番をしたりで取り戻す機会を失ったのだと思われる。

     浩平は二人を連れて六ツ井家を訪ねる。ここの老婦人はミサヨが一番親しくしていた相手だった。まだ何か話していないことがあるような気がする。 
     老婦人は、組み紐仲間の旅行でミサヨと一緒に犯罪の現場を目撃していた。牛乳受けのジュースに毒を混入する男をそれと知らずに目撃していたのだ。その後毒を使った殺人事件が報道され、二人は喋れば犯人が殺しに来るのではと怯えて黙っていたのだった。
     そしてこの光景は、本当に記憶を失っていたらしいスエが目撃した川崎家の毒殺の手口と同じ。同じような光景を見たことがきっかけで記憶が蘇った彼女は、川崎家の三人を毒殺した犯人も思い出し、これを寛子に相談した結果殺されたということになる。もしかしたら犯人は堀尾だったのかもしれないと浩平は思うが証拠はない。

     久々に三人でモザイクの会として活動した三人はもう一人のメンバーである留美子を訪ねることにする。もうわだかまりは無くしたい。浩平は堀尾の殺害現場に行き合ったこと、その時門のそばで留美子のブローチを拾ったことを二人に話す。悠子は彼女が犯人のわけないじゃない、これから行って本人に確かめましょうと浩平の背中を押す。

     久々に会った四人。悠子は夏葉ミサヨを殺した犯人がわかった、とまず留美子に告げ、浩平が春光園の上代寛子の本名は川崎篠江だということも告げる。
     彼らは自分たちの推理を留美子に話す。大津スエは川崎家の三人が殺されてるのを目撃したショックでおかしくなり、記憶を失って保護されて大田嶺子となる。それから夏葉ミサヨという名前を証拠のハガキや写真を渡されて名乗るようになり、堀尾家に引き取られた。 
     だが記憶が戻り、川崎家の三人を毒殺した犯人を目撃していたことも思い出したことから殺されたのだった。
     留美子はその犯人のことを聞いて落涙する。彼女が偽名まで使い、仲間にも内緒で行動していたのは当時一時的に犯人と疑われて逮捕され、証拠不十分で釈放直後に死亡した田丸留男が本当に犯人ではないのかを調べるためだったという。
     田丸は留美子の父親だったのだ。酒乱気味で母とは留美子が七歳の時に離婚したのだったが、彼女には優しい父親だったという。
     留美子は独自の調査で堀尾が中堂だったと知り、彼にアポをとって話を聞きに行ったところ殺されていたのだという。

     わだかまりが無くなった四人は、この出来事の真相と思われるものを推理して組み立てる。
    ・誰が大津スエを殺したのか。彼女が言い残したケージとは誰のことだったのか。
    ・誰が堀尾真佐也こと中堂正則を殺したのか。その動機は。
    ・誰が二十年ほど前に川崎家の三人を殺したのか。その動機は。
     
     四人は相談してこの推理を警察に話すことにする。警察は三つの殺人事件の犯人を逮捕した。真相はほぼモザイクの会の推理通りだった。
     中松夫人は意識を取り戻して順調に回復しているが、横浜の姪に引き取られることになっている。浩平は上客を一人失うことになった。夫人が恐喝をしてまで守ろうとした甥も、その共犯者も逮捕された。甥は悪質なサラ金業者に追われていると夫人には話していたらしい。 
     六ツ井老婦人がミサヨと一緒に偶然目撃した毒入りジュース事件の犯人も、老婦人の証言がもとになって逮捕された。

     これまでは男女間のことは無かったモザイクの会だが、この事件をきっかけに浩平と留美子の距離はぐっと縮まり、浩平は求愛したらしい。留美子はそのまま二カ月以上かかるという取材旅行に出かけてしまったが、悠子はおそらく二人は交際することになるだろうと思っている。自分は失恋だが仕方ない。拓は自分にチャンスが来たと思ってるみたいだが、私はお店を手作りケーキを出すしゃれた喫茶店にするためにがんばるからダメよ、と思っている。

     以上で終わり。ミステリだけどちょっと青春小説でもあるような。商店街の描写がちょっと懐かしい感じで個人的には好き。
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