「用心棒日月抄(藤沢周平著)」3
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「用心棒日月抄(藤沢周平著)」3

2021-01-13 19:00


    ・夜の老中 
     吉蔵が自慢そうにいい仕事が入りましたよ、と言ってくる。一日二分で食事もつくという。だが吉蔵は嘘はつかないが肝心なことを言わない場合も多く、又八郎はお家騒動の悪玉に知らないうちに加担した形になって突然襲撃されたことがある。先日は細谷が浅野浪人に敵対する勢力に加担させられそうになった。幸か不幸か細谷が不在の時に浅野浪人の襲撃があってその集団は壊滅し、世話役の鳴海という侍を又八郎が斬ったことでその仕事は流れたようだが、タイミングが悪ければ細谷も襲われて死んでいたかもしれない。吉蔵の持って来る実入りのいい仕事は危ないこともあるのだ。
     仕事先は大名屋敷で、そのお屋敷内のとある人物の外出の際の護衛だというので、真っ当な用心棒の仕事と言える。屋敷の名を言わないのがちょっと怪しいが。
     格別むずかしい仕事ではなさそうだな、と言うと吉蔵が迷った様子で、やっぱり言っておこうという感じで実はこの仕事で細谷さまが怪我をしました、と打ち明ける。肩と腕を斬られて療養中だというが命に別状はないらしい。細谷の腕には又八郎も一目置いている。正面から斬り合って不覚をとることなどそうそう無いはずである。これは事情を聞いておきたい。

     又八郎は細谷の家をはじめて訪問する。聞いていた通り思った以上に美人で若い妻と、男三人女二人の五人の子供がいる。もう一人増えるらしい。見舞金も出たので傷が治るまでゆっくり養生できると言い、思ったよりも元気だ。細谷から吉蔵がどうしても言わない仕事先がどこなのかを聞き出すと岩槻藩主で老中でもある小笠原佐渡守の屋敷だと言うのだが、護衛したのが誰なのかはわからないのだという。
     襲ってきたのはたった一人だったが凄腕で、細谷でも歯が立たず、護るのが精いっぱいだったという。これは強敵だ。又八郎がその仕事の後釜に座ることとなったと告げると、細谷はお主なら大丈夫だろうと言いつつ、妙な剣を使うやつだ。下段から斬り込んでくる。おれはそれにやられた、と忠告する。

     又八郎が江戸で暮らしはじめてやがて一年。その間国元からの刺客を数名斬っている。だがいずれ自分を父の仇と思う、元婚約者の由亀(ゆき)がやって来るだろう。そうしたら黙って斬られようと彼は覚悟している。

     吉蔵の案内で大名屋敷を訪ねる。詮議が厳しく、吉蔵も緊張している様子である。白髪の武士に引き合わされて吉蔵は帰るが、くれぐれもお気をつけなさいまし、と心配そうにする。相模屋でちょっとむずかしい用心棒がつとまる腕を持つのは細谷と又八郎だけであり、二人とも怪我をすることになると商売に響くのだ。

     白髪の武士は誰を警護するのか言わない。又八郎は家中のお方では駄目なのでしょうかと思い切って聞いてみるが、夜歩きを内緒にしたい理由があって屋敷の人間は使えないのだという。いろいろ事情があるらしく屋敷内に長屋を与えられ食事も運んでもらえるが外出は許されない。警護の仕事は毎日あるわけではないが、仕事が無い日はごろごろしていてかまわないという。屋敷内の人間ともなるべく口をきくなと言うのだが、さっそく又八郎に話しかけて来る女中がいる。二十過ぎと見え年増だが美人だ。この女中があるお方がお待ちです、というのでついて行く。すると三十過ぎの威厳のある女性がいる。女中のあるじらしい。
     どうも警護対象はこの女性の夫らしく、夫は時々浮気に出かけるらしい。つまり又八郎は浮気者の用心棒らしい。しかも浮気相手には夫がいるという。すると細谷を斬ったのはその夫かもしれない。何ともばかばかしい仕事を引き受けてしまったなと落胆する又八郎だが、その女主人がいつどれくらいの間浮気相手の屋敷にいたかを報告すれば別に手当を出そう、というので引き受ける。

     三日目の夜に白髪の侍、土方が呼びに来る。とうとう主人と出かけるわけだが頭巾で顔を隠していて顔はわからない。主人はぶらぶらと歩き、話をつけてあるらしく御門も問題なく通る。やがてある武家屋敷にずんずん入っていく。又八郎には外で待てといいつける。間男にしてはやけに堂々としている。又八郎は床下にしのんで声を聞くことにする。事前に女中から聞いた浮気相手の屋敷とはちょっと違うように思われたので、女と会っているのか確認しようと思ったのだ。

     だが聞こえてくるのは5、6人の男たちの密談の様子。今供をしてきた男はご老中と呼ばれており、小笠原佐渡守本人と思われる。会話の内容は大石内蔵助の動向や吉良上野介が隠居することになったことなどで、どうも浅野浪人が吉良を討ちやすくなるように条件を整えようとしている様子。つまり幕閣で浅野に好意を持つ者たちの集まりなのだ。
     又八郎は浅野と吉良のせめぎあいの中でおさきを殺されている。細谷を斬った襲撃者は吉良方の人間ということになる。油断はできない。

     三度目の会合の帰り、その男は現れる。又八郎は老中をかばって前に立つ。男は八双の構えから踏み込んできて、斬り込んだ刀が摺り上げるように下からはね上がってくるという剣を使う。細谷のアドバイスも功を奏して、又八郎はこの難敵を斬り倒す。
     又八郎はこの戦いで怪我をしており、あの女中に手当てをしてもらいながらご主人は浮気などしておりません、風流の集まりに出ているだけですよ、と話すがなかなか信じてもらえない。どうもご老中が以前女中に手をつけて、それを知った奥方が女中をさっさと辞めさせて結婚させたのだという。なのでこの女中に会いに行っていると決めつけている。

     又八郎の仕事は予定より二日伸び、今日が最後の会合だという日が来る。だがそれは女と会いに行ったのだった。それでも帰路、老中は襲われる。だが刀を抜いた相手は隙だらけ。又八郎にはこれが女の亭主だとわかっている。又八郎は素手で男を落ち着かせ、老中を通らせる。
     天下のご老中が、夜遊びが過ぎるのではとつい言ってしまう。老中は
    「いかにも。以後つつしもう」と笑う。
     又八郎はこのことを女中に話すつもりはなく、臨時収入は入らない。


    ・内儀の腕
     今回は二人で組んでの仕事だが、相棒は細谷ではなく、塚原左内という男で用心棒をやったことがないらしい。又八郎より年上の四十過ぎだが、弱々しい印象の男で又八郎を指導者みたいに立てる。
     仕事は備前屋という呉服問屋の内儀の護衛。当主が寝込んでいるので代理で外に出ることがあるが、数日前にならず者数名に襲われた。供の者が大怪我をし、内儀はそのままさらわれそうになったのだが、たまたま通りかかった武家に助けられた。また襲われてはということで用心棒を雇ったのだが、どうも訳ありに思える。主人はもう老人と言っていい年で寝付いているが、内儀はまだ若い。又八郎はご内儀がしばらく外に出ないのがいいように思うと意見を述べるが、そうもいかないらしい。だが事情は話せないと言う。

     細谷は洲崎の茶屋で住み込みの用心棒をしているが、女たちに先生と呼ばれてニヤニヤしている。茶屋と言っても本当の商売は夜である。仕事の方は地元の地回りとのトラブル対応だが、素手であっけなく片付けてしまい、今は毎日酒を飲んで遊んでいるようなものらしい。暇な時間は女たちの手紙の代筆などしてやって、そのついでにいい思いもしているらしい。又八郎はうらやましくもあり不潔にも思い。

     その細谷に調べてもらったところ、備前屋のお内儀・おちせはもとは洲崎の同じような茶屋の女だったらしい。それを主人が落籍せて後添いに迎えたらしいが彼女にはならず者の男がいて、今は島送りになっているという。そんな調べをしているうちに町中で町人風の男と立ち話をしている塚原を見かけるが、身のこなしが敏捷で普段の様子と全く違う。不可解な、と思う。
     ある夜おちせが寺参りに出るというので又八郎と塚原は駕籠に付き添い、おちせは寺の奥に消える。用心棒二人は庫裏で待つように言われるがおちせはなかなか戻らない。そのうちに塚原がはばかりに立ってこちらも戻らない。又八郎も小用に立つが塚原はいない。

     又八郎は表に駕籠が着き、長身の武士が本堂に入るのを見かけてあとをつけ、灯りの漏れる部屋の様子に耳をすます。漏れ聞く話で、備前屋が浅野浪人に金を出している事を知る。今来たのは浅野側の人間で吉田忠左衛門というらしい。
     つまり襲ったのは吉良方の人間なのだ。おそらくおちせは既にマークされているのだろう。
     又八郎が庫裏に戻ると塚原も戻っていて、月を見ていたみたいな言い訳をする。

     駕籠を帰してしまったので、帰路はおちせも歩く。その帰りに六人の男が突然襲ってくる。侍は一人だけで後は匕首を持った男たちだが、きびきびと動いて手慣れている。人殺しに慣れれている。4人まで倒すが、残る二人に路地で前後を挟まれてしまう。
     ようやく切り抜けるが自分でも危なかったと思う。その間塚原はおちせを守るような位置にはいるが、刀も抜かずにポケッと立っている。又八郎はあちこちを斬られており、おちせが傷口を布で縛ってくれる。三人で帰るが、又八郎はふと背中に殺気を感じる。振り向くと塚原がいて、今日は助成しようとしたが動けなかった、すまなかったと謝ってくる。

     又八郎は吉蔵を訪ね、備前屋がもともと浅野家の出入り商人だったと聞く。塚原の住まいを聞いて訪ねてみるが、そこに塚原という男は住んでいない。身元引受人もそんな書付を書いた覚えはないと言う。又八郎は備前屋に急ぐ。正体不明の男が入り込んでいるのだ。塚原を詰問するがのらりくらり。
     その夜、又八郎は塚原が起き出して主人夫婦の寝室に向かうのに気付いて後を追う。それに気付いた塚原が振り向いて刀を抜く。塚原の剣の腕が尋常でないことがわかる。
     死闘の末に又八郎は塚原を倒す。もしかしたら塚原が襲撃してきた男たちの頭領だったのかもしれない。

     半月ほど過ぎておちかがこれでお寺参りも当分お休みです、と言って仕事が終わる日、又八郎は資金のめどがついて備前屋さんの役目も終わったということですな、と話かける。
     おちせはご存じだったんですね。でもご内聞に、と別れを惜しむ。そんなところに駆け寄って突然おちせを抱え上げた男がいる。おちせが昔言い交した男で島送りになったはずの益蔵だった。益蔵はおちせに戻って来いと言い、彼女が断ると絞め殺そうとする。又八郎は機転をきかせておちかを取り戻し、益蔵を斬る。気を失ったおちせを介抱しようと抱き上げた時に、おちせの腕にますぞう命と彫り物があるのに気付く。

     備前屋にもどると細谷から手紙が届いている。益蔵が島から戻った、用心せよと書いてある。遅い!と又八郎はちょっと不機嫌。
     
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