「スキエンティア(戸田誠二著)」前半
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「スキエンティア(戸田誠二著)」前半

2021-01-16 19:00


    ・スキエンティアというのはラテン語でサイエンスの語源らしく、この作品では知識や科学に関係する女神の名前だそうで、この女神の像を屋上に頂いた超高層ビル・スキエンティアタワーがある近未来都市に生きる人々の姿をランダムに拾い出す、みたいな連作短編集。科学技術は現代よりちょっとだけ進んでいる様子。

    ・ボディレンタル
     自殺願望のある女性がとあるバイトに応募する。父親は彼女が中学生くらいの頃に女を作って出て行き、母親は男を連れ込むようになる。彼女は高校を中退して家を出る。彼氏ができても長続きしない。親に捨てられ、男に捨てられる人生に疲れ、何の夢も持てずに商業施設の清掃を続けるのが嫌になっている。それで自殺の方法なんかを検索するうちに、自殺願望者求む、というバイトを見つけたのだ。まあ人生の最後に誰かの役に立ってから死ぬのもいいか、と気まぐれに応募したという感じ。

     行ってみると仕事はある老婦人に自分の身体を貸すというもの。ふてぶてしいやり手という感じのおばあちゃんだが、四肢がマヒしていて動けない。でも頭はしっかりしていて話も明瞭。彼女同様親に恵まれず、早くから独立して起業した。その会社は今は大きくなってスキエンティアタワーに入居している。だが仕事一筋に打ち込んだ代償で健康を損ね、子供も産めず四肢も動かなくなった。それ以降は一層仕事に打ち込むようになり、会社を世界的IT企業に育て上げて引退した。老婦人の余命も残り少ない。死ぬ前にもう一度自分の手足を使って働いてみたい。手術は頸椎にIT機器を埋め込むことになってリスクも高い。だから自殺願望者なら、と募集をかけていたのだった。
     
     彼女は承諾し、手術を受ける。スイッチを入れると彼女の身体のコントロールは老婦人にうつる。彼女自身は目や耳で周囲の出来事をオンラインでリアルな映画みたいに感じる。同じ口を使って老婦人と会話したりもできる。自由に身体をコントロールできるまでには訓練が必要だが、老婦人は必死に慣れて支障なく動けるようになる。身体を貸すのはこうした期間も含めて三カ月間。謝礼は三千万円だ。

     老婦人は身体が慣れると、ある立ち上がったばかりのIT系の企業でバイトをすることにする。IT業界で生き抜いてきた老婦人はこの会社には将来性があるという。社長が初恋の人に似ているとも。期限は一カ月。老婦人は彼女にアパートに住み込んで会社に通うことにする。掃除も自炊も、自分の手足を使う感覚が嬉しくて苦にならない。
     老婦人は仕事でも生き生きとしていて、次第に同僚や社長からも意見を求められ、頼られる存在になる。ある日彼女は鏡に映った自分の顔が、見違えるほど明るく溌溂としていることに気付く。中身が違うとこんなに違うんだ、と。
     一カ月はあっという間に過ぎ、惜しまれつつ見送られて退職する。社長は彼女の才能を惜しんで引き留める。駅まで送ってもらい、キスをして別れる。

     スイッチが切られる。元の自分の身体のコントロールを取り戻すと、ものすごく身体が重たい。老婦人は、と見ると眠ったように静か。まさか、と声をかけると余韻にひたらせておくれよ、としっかりした声。ボロボロでも自分の身体がいいね、ああ、この三カ月楽しかった。
     あんたにも楽しく生きられるさ、と老婦人は彼女の名を呼び礼を言う。

     人生に積極的になり、一生懸命就職活動をする彼女がいる。

     この話は「世にも奇妙な物語」でドラマ化されているらしい。女性は内田有紀さん、老婦人は吉行和子さんだったとのこと。

    ・媚薬 
     人を愛せないことに密かに悩む若い男性。チャンスはあるし何度か女性と付き合った経験もあるのだが、すぐに面倒になって別れてしまう。だが一人になると何かが足りない気もする。彼は真剣に誰かを愛して夢中になりたいと思う。
     そこで彼は怪しげな媚薬、つまり惚れ薬を手に入れて無理やり誰かと本当の恋愛をしようと思う。相手には一緒に仕事をすることが多い、会社の先輩を選ぶ。彼女は世話好きで負けず嫌いで、好ましいところを持っているし、男と別れたばかりで今はフリーだ。
     ある仕事の打ち上げで二人で飲みに行く機会があり、この時彼は媚薬を取り出して、彼女に・・・ではなく自分で飲む。すると薬の効果で彼女が輝くような魅力的な女性に見えて、付き合ってくださいと告白してしまう。二人はこれをきっかけにデートを重ね、彼女の部屋で同棲するようになる。 
     だが薬の効果が切れると彼女がすごく平凡な女に見えてしまう。彼は薬を飲み続ける。この薬は媚薬というと怪しげだけどけっこう科学的にできていて、ドキドキが続くのはせいぜい二年。それ以上飲むと身体に悪影響が出るという。だから薬の効き目があるうちに互いの信頼関係を築かないと本当の恋愛にはならない。

     大きな仕事が入り、先輩はその責任者、彼は副責任者に抜擢されて大勢の部下を動かすことに。仕事ではいつも一緒だがデートをする時間は無く、家に帰っても疲れ切って愛し合うこともできない。彼は先輩ともっと話したい、一緒にいたいという気持ちが強くなりすぎてミスを繰り返す。すると仕事では厳しい彼女はそれをビシビシ責め立てる。次第に口論になることが増えてきて、彼は自分の部屋に久々に帰る。好きな人とうまくいかないつらさに耐えかねて、彼は薬の服用をやめて恋愛感情を封印し、彼女のサポートに徹することにする。そのかいあってか仕事は順調に回り出し、ようやく終わりを迎える。

     久々に二人でデートする時間が持てる。彼女は途中から彼がサポートに徹して自分を支えてくれたことにも気付いていて、彼に礼を言って泣く。その泣く彼女の姿に愛しさが溢れてきて、彼は彼女を抱きしめる。薬を飲んでいないのに、かわいいな、と心から思う。
     
     付き合い始めて三周年の記念日に、二人はスキエンティアタワーが見えるレスランで乾杯をする。

    ・クローン
     パスタの店で働く明るい女性。小学生の娘は家の手伝いをよくしてくれる。彼女の家には交通事故で死んだ、夫と娘の遺影がある。だがこの遺影の娘は今いる娘の姉ではない。
     便宜上姉と呼ばせているが、死んだ娘のクローン細胞を彼女の子宮に宿して産んだのが今の娘。姉ではなく同一人物なのだ。
     その娘・ヒロは死んだ娘・マナミの身代わりとして作られたクローン。だから性格も才能もマナミにそっくり。ヒロはマナミが死んだ年齢に近付いていて、もうすぐその年齢を超える。
     だが性格には違うところあって、奔放なところもあったマナミに比べるとヒロは聞き分けがよく大人びていて、親への気遣いも持っている。この性格の違いは自分の育て方のせいでもあるのだろうと女性は思っている。年を重ねるごとにマナミと同じところが減っていくのかもと思うとちょっと寂しい。
     ヒロは七歳になる。もうすぐマナミの死んだ時を超える。ヒロの元気が無いので聞いてみると、音楽の課題でヒロだけピアニカをうまく吹くことができず、グループの中で責められているという。そういえばマナミにも同じようなことがあった。そしてうまくできるようにならないまま死んでしまった。
     女性は悩むヒロの気分転換に、と遊園地に連れて行く。高いところが苦手だったマナミと違い、ヒロは観覧車を楽しむ。そんな同じDNAでもマナミとは全く別人に育ったヒロを見ているうちに、マナミは本当に死んだのだという悲しみがこみあげてきて女性は泣く。

     音楽の発表会がある。ヒロは放課後毎日練習し、友人もつき合ってくれたらしくその甲斐あって上手くなっている。その姿を見て、マナミの代替品ではないヒロという人格を、あなたはすごい子だわ、と女性は認めて感動し、くじけないで生きて行こうと思う。

    ・抗鬱機
     ある会社に佐藤という平凡な社員がいるが、彼は同僚全員から好かれ、頼りにされている。何故なら彼は誰かが困っていると必ず助けてくれて、急な予定や体調不良、親や子供の記念日などには仕事を代わってくれるのだ。いつも笑みを絶やさず人当りもいい。若干便利に使われている印象もあるのだが、次第にいつも佐藤さんに負担がかかりすぎる、と手伝ってくれる女性が現れる。
     元気いっぱいで気遣いもできる彼女は、いい両親に育てられたのだろうという天性の明るさを持っている。彼女は佐藤を慕っていたようで、付き合ってほしいと告白するが佐藤は一人が楽なんだ、と断る。実は佐藤にはそう答えるしかない過去がある。

     彼はエリート一家の落ちこぼれで、受験に失敗して父親に見放され、ようやく入れた三流大学も辞めてバイトで食いつないでいるうちにうつ病になってしまった。
     そこである機械の実験台となったのだった。その機械が抗鬱機。彼はストレスを機械の力で無理やり抑え込んで生きている。彼の望みは社会に受け入れられて人の役にたちたいということ。厳格な父親に役立たずと罵られ続け、受け入れられなかった反動である。

     女性はそれでも佐藤を手伝い続け、フラれたわけを教えてください、と真剣に迫る。彼女が本当に真剣なので佐藤は自分は本当は病気で、機械で無理やり持たせているんだ、君が見ているのは本当の僕ではないんだ、と抗鬱機の事を打ち明ける。

     そしてある日、佐藤のストレスは抗鬱機でも抑えられなくなって、会社で倒れてしまう。意識を失いながら、人の役にたててよかった、一人ぼっちで死ななくてよかった、と佐藤は思う。

     目覚めると彼女が見守っている。彼女は佐藤が意識不明の間に同僚たちと根回して上司と交渉し、佐藤が休職できるように環境を整えている。
     両親に佐藤の病気のことも話した上で、一緒に暮らしたいと了解をとり、彼女の家で病気を治そう、と呼び変けてくる。

     佐藤は俺が生きていてもいいのか、こんなことがあるなんて、とその言葉を聞いている。
     
    続きはそのうち。
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